経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

北海道の産業構造を変えるほどの「千載一遇のチャンス」到来と捉えオール北海道で連携 藤井 裕 北海道経済連合会

北海道経済連合会 藤井裕

北海道に大プロジェクトの誘致が続々と決まり、DX・GXに向けて注目を浴びている。再生可能エネルギー分野でも全国を牽引する可能性を持つ。地元経済界はこれらをどう受け止め、どう動いていくのか、北海道経済連合会の藤井裕会長に伺った。(雑誌『経済界』「攻勢に転じる北海道特集」2024年4月号より)

藤井 裕・北海道経済連合会 会長のプロフィール

北海道経済連合会 藤井裕
北海道経済連合会 会長 藤井 裕
ふじい・ゆたか──1956年北海道生まれ。81年宇都宮大学工学部電気工学科卒業後、北海道電力に入社し、2019年代表取締役社長執行役員、23年6月代表取締役会長。同年6月に北海道経済連合会会長に就任。

大きな動きが相次ぐ中、3つの重点施策を打ち立てる

 2023年は北海道の経済界に大きな動きがありました。2月にラピダス社の工場設立が決まり、3月には北海道ボールパークFビレッジが開業しました。5月には新型コロナウイルス感染症が5類に移行し人の動きの制限がなくなり、人流が回復しました。11月にはソフトバンク社のデータセンターが苫小牧市に新設される計画が発表されました。

 私は6月に会長に就任した際、今後重点的に取り組む課題として「次世代半導体産業の集積に向けた支援」「『ゼロカーボン北海道』の推進」「人材の育成と確保」の3つを挙げました。

 1つ目の「次世代半導体産業の集積に向けた支援」については、ラピダス社の工場設立が核となるため、これを軌道に乗せることが重要です。道経連は23年6月に次世代半導体産業プラットフォーム、7月に(一社)北海道新産業創造機構(ANICエイニック)を創設しました。

 11月にANICがラピダス社の立地に伴う道内経済への波及効果をシミュレーションしたところ、23年から14年間で最大18・8兆円、GDPへの影響額は最大11・2兆円となりました。現在の道内GDPは年間約20兆円ですから非常に大きな額で、北海道に新たな基幹産業ができるまたとないチャンスと期待しています。

 工場建設には土地利用調整や産業インフラの整備が必要なことから、国や道には引き続き支援を要望していきます。関連産業の集積に向けても、関係機関と連携した取り組みを、スピード感を持ってオール北海道で全力で取り組んでいきたいと思います。

「ゼロカーボン北海道」とGXの推進に向けた動き

北海道経済連合会 藤井裕
北海道経済連合会 藤井裕

 23年2月に政府は「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定し、7月には「GX推進戦略」を策定しました。再生可能エネルギーや原子力など、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する方針が示されています。

 北海道は、再生可能エネルギーの賦存量が全国随一。道はその強みを最大限活用し、脱炭素と地域経済活性化の好循環や持続可能な地域づくりを目指す「ゼロカーボン北海道」の実現に向けた取り組みを推進しており、骨太の方針にも3年連続で明記されました。特に洋上風力発電については、北海道南西沖の5つの区域が、再エネ海域利用法に基づく「有望な区域」に格上げされ、「促進区域」の指定を目指しています。道内港の基地港湾としての活用や、再エネ利用を希望する産業の集積にも弾みになるものと思います。また、道経連として泊発電所の再稼働を重要視しており、早期再稼働に向け理解促進に取り組んでいきます。

 GXに関しては、世界中から情報・人材・資金を北海道・札幌に集積する「国際金融センター」の構築を目指し、産学官金のコンソーシアム「Team Sapporo‐Hokkaido」が2023年6月に設立されました。道経連も構成機関として参画しています。 

道内経済界の連携を強め、未来へ向けた取り組みを進める

高市早苗内閣府特命担当大臣(宇宙政策)に要望書を手交した
高市早苗内閣府特命担当大臣(宇宙政策)に要望書を手交した

 北海道は深刻な人口減少社会であり、人手不足、また多様な産業人材の確保の課題について、各地域の会員から非常に強い危機感が寄せられています。女性やシニア人材の掘り起こしや、外国人材の受け入れの環境整備等について関係機関と協力し、より一層の支援強化に取り組んでいきたいと思っています。

 道経連では、地域の持続的発展には人づくりが重要と考え、さまざまな取り組みを行ってきました。例として、北海道の将来を担うリーダーの育成を狙いとした「次世代経営人財ゼミ」の実施や、文部科学省のマイスター・ハイスクール事業への参画があります。道内の地域会員懇談会においても、人材の確保や育成の取り組みについて情報交換を活発に行っています。

 これらの重点課題の解決に向け、継続的に取り組んでいくのと同時に、食や観光といった北海道の主要産業の活性化に向けた取り組みも進めています。北海道観光振興機構と道経連が主体となって行う「交通と観光との共創による北海道MaaS構築人材育成事業」は、国土交通省の23年度補助事業に採択されました。全道の多くの観光・交通関係団体に参画をいただいており、24年度以降の実証・実装へとつなげるべく活動しています。

 また、十勝には、宇宙産業の高いポテンシャルがあり、将来の成長産業として大変有望です。23年12月に、「2030年時点の宇宙版シリコンバレー実現に向けたアクションプラン」を公表しました。内容は、ロケットの打ち上げ施設整備の1次産業、ロケットを製造する2次産業、衛星等のデータを利用する3次産業を進め6次産業化を目指すもので、アカデミアとビジネスが融合し、人材と資金を循環させる成長モデルです。一朝一夕には成し得ませんが、実現に向けて取り組んでいきたいと思います。

 さまざまなプロジェクトが動き始めた北海道は、まさに千載一遇のチャンスと捉えています。これらの成功に向け、オール北海道で連携して取り組んでいきたいと思います。