経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

未来の人口減少を見据えて国内外の人材が集まるまちへ 大島 卓 愛知県経営者協会

愛知経営者協会 大島卓

愛知県に880社ほどの会員企業を有する「愛知県経営者協会」。人事労務問題を専門とする経済団体で、経団連を構成する地方経営者団体のひとつだ。大島卓会長に中部エリアが直面する人事労務面の課題について訊ねた。(雑誌『経済界』2024年11月号「リゲイン中部経済」特集より)

愛知経営者協会 大島卓会長のプロフィール

愛知経営者協会 大島卓
愛知経営者協会 大島卓
おおしま・たく──1956年生まれ、東京都出身。80年東京工業大学を卒業して日本碍子(現日本ガイシ)に入社。14年社長に就任。21年から会長(現任)。同年愛知県経営者協会の会長に就任。

人手不足解消のために外国人材と家族を支援

 愛知県経営者協会は「人」に関わる課題解決をサポートしている。経団連・地方団体長会の副議長として、地方の労働政策問題を中央に提言するほか、会員企業へ向けては労働法制の周知徹底やセミナー、人事労務担当者への労務相談・実務支援など「実務に役立つサービスの充実」を図っている。大島卓会長は、近年は特に、賃金問題と人手不足、特に外国人材問題に焦点を当てているという。

 「中小企業での価格転嫁が進まず、サプライチェーンの末端までお金が下りていないのが現状です。そのため、原資が確保できず、賃上げの妨げとなっています。経営者協会としては、個々の企業間では交渉しにくい課題を丁寧に拾い上げ、業界全体へ提言することで解決を促しています。特に、円安で恩恵を受けた企業は、業界へ還元する必要があるでしょう。また、現場の生産性を上げるためのDX活用のサポートも行っています」

 企業で働く「人」に関する変化が顕著になっているが、この先さらに加速するかもしれない。経営者協会では、2023年度に研究委員会活動として「人生100年時代の人事戦略」をテーマに扱った。

 「現在18歳の人のおよそ半分は107歳まで生きるという試算があります。これまでの日本人の人生のモデルケースは、20年勉強して40年働いて20年を余生として過ごすという構図でしたが、これが崩れていくことを意味します。80歳まで働く未来がすぐそばまで来ているんです」

 人口減少による人手不足も喫緊の課題だ。2070年には日本の人口は9千万人を切り、9人に1人が外国人になるという。今は、新たな時代を迎える準備を進める段階にある。さまざまな課題が指摘されていた技能実習制度も見直され、新たな制度が策定されたばかりだ。

 経団連は、5月に外国人政策委員会を設立し、大島会長は共同委員長を務めている。7月末には出入国在留管理庁長官を招いて第一回の会合を開催した。

 「現在、外国人政策に関する方向性を国も模索している状態ですが、さまざまな課題が山積みです。技能実習制度は見直され、業種の幅も広がり、改善の兆しが見えていますが、外国人材の生活や子どもの教育といった部分は、一元的に取り組んでいく機能・機関が定まっていません。今後は法整備を進め、課題をどこに振り分けていくかを決めるフェーズとなるでしょう。外国人材の受け入れは経済や労働のみならず、生活、教育、文化などにも関わってくるため、難しい課題です」

 現在、外国人労働者は日本全体で200万人を超え、その1割超の約21万人が愛知県で就労している。また、公立小・中・高等学校に通う日本語指導が必要な児童生徒は6・9万人で、うち1万人以上が愛知県に集中している。

 「経営者協会では、外国人との共生社会を目指すために、2022年から中部経済連合会など経済団体や、愛知県、愛知県国際交流協会と連携して、外国ルーツの児童生徒を放課後に受け入れている地域日本語教室の支援を行っています。地域日本語教室はその多くが『地域の子どもたちの助けになりたい』という有志のボランティアで運営されています。産官で連携してマッチングイベントを開催し、2024年現在、のべ150人以上のボランティア希望者が参加し、支援の輪が広がり続けています。今後も、持続的な実施体制を構築し、県外でも参考にしていただけるような事例にしていきたいです」

行政が一体となって主導し魅力あるまち作りを

優秀な人材に家族と一緒に住みたいと思われる都市開発が求められている (JRセントラルタワーズ・JRゲートタワー)
優秀な人材に家族と一緒に住みたいと思われる都市開発が求められている (JRセントラルタワーズ・JRゲートタワー)

 県内には外国人材活躍の好事例もあり、そのような取り組みは積極的に発信していくという。

 「懇談会や意見交換の場を増やし、会員企業の皆さんと直接話せる機会を多く設けるようにしています。直接コミュニケーションを取ることで得られた気づきを集約し、共有していくのが私の役割です」

 大島会長は、国内外から人材を集めるには魅力あるまち作りがマストだと話す。

 「優秀な人材に、家族と一緒に住みたいと思ってもらうには、景観を含めた都市開発に時間をかけて取り組む必要があります。単発で箱物だけ作っても、中身が伴わないと意味がありません。スペインのバルセロナは、1980年代から戦略的な都市再開発に取り組むために法整備を行い、街全体を公共空間とする都市開発に成功しています。愛知県、名古屋市、各経済団体などはそれぞれ都市計画を提言していますが、地域が一体となって、行政が主導するなど、グランドデザインを共有しながら進めてほしいですね。リニア開通という好機が訪れるわけですから、愛知を拠点にして、必要があれば東京にも行けるというワークライフバランスの選択肢を提示するために、魅力的なまち作りを目指すべきです。もちろん、若い人なら一度は東京に出たいという気持ちになるのも当然でしょう。いつでも戻れるまち、戻ってきたくなるまちというコンセプトを打ち出してもいいのではないでしょうか」