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テレワークの普及を追い風に物流倉庫のDX導入を推進 岡澤一弘 KURANDO

岡澤一弘 KURANDO

物流を取り巻く環境は大きく変化している。新たなビジネスモデルの構築が迫られる中、注目を集めるDXを導入しやすい形で提供するKURANDO。「ロジメーター」シリーズをヒットさせ急成長を続ける秘訣を岡澤代表に聞いた。

岡澤一弘 KURANDO
岡澤一弘(おかざわ かずひろ) KURANDO

効率的な倉庫運営を支援する物流DXサービス

物流はトラックなどで物を運ぶ輸配送と、倉庫への物の入庫や保管、出庫などを手掛ける倉庫業務に大別される。KURANDOは倉庫業務に特化し、倉庫内の作業を管理するシステムを提供している。

「商品管理や在庫管理の仕組みは従来から世の中にたくさんありました。しかし、人の管理や作業そのものにフォーカスして管理する仕組みがなかったため私たちが立ち上げたわけです」と岡澤代表は話す。

同社が提供する「ロジメーター」は最初にリリースしたプロダクトで、作業データを取るためのツールだ。タブレット端末を利用し、シンプルな操作で庫内の作業をデータ化する。「ロジスコープ」はロジメーターで取得したデータを可視化するツールで、分析に必要なレポートを自動作成する。今年7月にリリースした「ロジボード」は、取得し可視化したデータを活用するツールだ。要員計画やシフト管理、作業計画や進捗管理など、庫内の業務サイクルを一元管理し、効率的なワークフローの構築を助ける。類似のソフトは他にも存在するが、専用の機材を必要とするなど導入が高額になりがちだった。

そこで同社では、一般的なタブレット端末さえあれば追加の機材やアプリのインストールも不要なSaaSを活用した安価に導入できるシステムを実現した。

比較される他社のシステムが見当たらないことに加え、リリースから程なくして大手企業が採用したことで評判が広まり、同業の大手企業が続々と採用する好循環が生まれた。

「日本トップの企業が早期に目を付けてくださったことが業界内で話題になりました。食品卸業の物流センターで利用していただけるようになりました。『使ってみて良かったので他の現場でも使いましょう』と数珠つながりで導入が進んだ形です」と手応えを話す。

現在、約600の物流センターで導入され、バックオーダーも多数抱えており、今後数年間は導入が広がり続ける見通しだ。

「まずはこの3つの製品で導入センター数を1千の大台に乗せるのが目標です。一つのプラットフォームでさまざまなデータが取れてきたので、利用価値を上げていきます」

完全テレワークで働きやすい環境を実現

岡澤代表は新卒でFA用センサー大手のキーエンスに入社した。そこで物流関係の担当になり、業務改善のコンサルティングの仕事にやりがいを感じながらも、大手企業特有の枠組みに息苦しさと限界を感じ独立。以後、数社で経営に携わってきた。

「コンサルの仕事では、自分がお手伝いしている時は改善是正が続きますが、離れると元に戻ってしまう。そんな事態をいくつも経験しました。そこで、物流の困り事の解決策をシステム化して残せれば、改善が続くのではと考えたわけです」

岡澤代表のアイデアの事業化には、物流大手のプロロジスとの関係を抜きに語ることはできない。

「当社のサービスには数億円の資本が必要でしたが、投資リターンが弱い。資金調達の可能性を探っていたところ、知り合いだったプロロジスさんが物流業界に貢献できる当社の構想に賛同してくれたのです」

プロロジスの支援を得た岡澤代表は2019年7月、2人の共同経営者と共にKURANDOを立ち上げた。ところが、創業から半年も経たないうちに世界はコロナ禍に。多くの企業が対応に苦慮する中、同社にとってコロナ禍はなんと追い風になったのだ。その大きな要因がテレワークの普及だ。同社のサービスの導入先となる物流倉庫は駅から遠方に位置することが多いため訪問効率が悪く、リアルでの営業を主体にしているとコストがかさむ。

「テレワークが主体となったことで利用料金を安価に抑えることが可能となり、顧客獲得もスピードアップできました」

同社では社内でもテレワーク化が進み、社員の完全テレワーク化を実現している。本社には個別の席がないのはもちろん、1度も出社したことがない社員も少なくないという。

「最初のプロダクトの市場調査を終え、人を増やしてこれからという時にコロナ禍が来ました。採用した社員全員テレワークという状態が2年以上続き、出社を必要としない組織文化が最適化されたわけです」

これにより、居住地を選ばず全国から人材を採用できるようになった。完全テレワークにより通勤の必要がなく、勤務時間や休憩時間には明確な縛りを設けないことで社員が無理なく働ける環境を整えた結果、子育て目的で入社する社員が増えた。

「一番大きいのは通勤時間がないこと。月1度でも出勤日があると引っ越せませんから、最初は東京に住んでいた社員が当社に勤めはじめてから奥さんの実家近くに引っ越すケースが多いですね。実は私も子どもが小さいうちに妻の実家がある京都に引っ越しました」

完全テレワークによって生じた課題はほとんどない、と胸を張る。

「唯一責任重大だと思うのは、KURANDOが潰れると社員は次に働くところが見つかりにくいこと。同じ環境が他にないから転職が大変です。言い換えれば、完全テレワークがうまく機能することを広く示すことで、同様の環境を整備する企業さんが増えてほしい。こうしたモチベーションが今、社内全体で高まっています」 

会社概要
設立●2019年7月 資本金●9,000万円
売上高●約3億円 本社●東京都品川区
従業員数●28人
事業内容●倉庫内業務可視化プラットフォームの企画・開発・提供
https://kurando.jp