TikTokなどの縦型ショート動画がZ世代を中心とする若い世代が日常的に触れるコンテンツになっている中、大手通信会社やメディアによる縦型ショートドラマ市場への参入が相次いでいる。既に同分野が巨大市場に成長している中国との太いパイプを持つLAUGH SHAREも日本市場に参入する。聞き手=武井保之 Photo=逢坂 聡(雑誌『経済界』2025年1月号より)
大谷洋司 LAUGH SHARE代表/FilMAX社長のプロフィール
中国では1話1~3分で数十話ほどの縦型ショートドラマを配信するアプリが2023年から24年にかけて人気になり、急速に市場を拡大している。同国のショートドラマ市場は、23年の約7800億円から24年に約1兆円、27年には2兆円を超えるという中国シンクタンクの試算もある。一方、今年急速に動きが出ている日本市場は、LAUGH SHARE(以下ラフシェア)によると現状400億円ほどだが、26年には1500億円に達するという市場調査会社・YHリサーチの予測もある(世界市場規模は29年に8・8兆円)。
国内でいち早く縦型ショートドラマプラットフォームをリリースしたのは、スタートアップのemole。22年12月に1話課金のアプリ・BUMPをリリースし、24年5月に100万ダウンロードを突破。8月にはフジテレビ・FODとの共同制作ドラマを配信開始し、テレビ東京のオリジナルショートドラマ3本を年内配信予定だ。一方、縦型ショートドラマ制作に特化したGOKKOのクリエーターチーム・ごっこ倶楽部は、21年5月にスタートし、同ドラマをTikTokほかSNSなどで無料配信。次第にユーザーに支持されるようになり、大手企業とのタイアップを手がけるほか、24年7月には日本テレビと資本提携した。また、吉本興業グループのFANYとNTTドコモ・スタジオ&ライブ、Mintoの3社は縦型ショートドラマプラットフォームの24年度内リリースを発表している。
このように、近年一気に市場が熱くなっている。そうした中、Bytedanceとのエージェント契約から中国のTikTokで日本製品のライブコマースやインフルエンサーマーケティングを手がけるラフシェアが設立したFilMAXは、中国で多くの縦型動画を製作配信するプロダクションの協力を得て、1話課金の縦型ショート動画プラットフォームとなるアプリ・FilMAXを24年内にローンチすることを発表した。
国内市場は今まさに本格的に立ち上がりつつあるところだ。1話課金の国内アプリではBUMPが先行する中、FilMAXがその後を追う形になる。FANY含む3社によるプラットフォームの形態は未発表だが、中国アプリの日本進出は既に始まっており、今後さらに増えていくことが予想される。25年は縦型ショートドラマ戦国時代に突入していきそうだ。
そこに勝負をかけるスタートアップ・FilMAX。ラフシェアの中国ネットワークからの人気アプリの仕様輸入やノウハウの日本ローカライズ、コンテンツ調達のほか、既に国内大手出版社グループへの権利関係の取得にも動き出している。両社の代表を務める大谷洋司氏に新たな市場への挑戦と勝機を聞いた。
中国の人気ドラマに加えて日本アニメや音楽にも拡大
―― 縦型ショートドラマ市場に参入した経緯を教えてください。
大谷 TikTokを使った中国とのビジネスをしている中で、今中国ではショートドラマ・アプリがすごい人気になっていると聞きました。当初はあまりピンときていなかったのですが、僕はもともと芸能プロダクションにいたので日本のテレビ局とのネットワークもあり、中国のアプリ運営会社からショートドラマ制作の依頼が来たんです。そこでビジネスモデルとマーケットを調べてみると、中国では既に年間約8千億円の市場規模になっていて、日本でも400億円ほどの市場がありますが、そのほとんどを日本進出した中国アプリが占めていました。それなら、われわれが中国の成功実績を生かしたアプリ開発をして、日本のプラットフォームとして参入すればチャンスがある。そのときの勢いとノリで動き出しました(笑)。
中国では100以上の縦型ショート動画アプリがローンチされていますが、Z世代を中心に縦型動画になじんでいる若い世代のほとんどが使っています。既にアジアのほか北米でも広がり始めています。スマホで見る1話2~3分の縦型ショートドラマは、日本でもタイパを求める時代に合っています。市場はこれから一気に拡大していくでしょう。
―― FilMAXのコンテンツは中国ドラマが中心ですか。
大谷 立ち上げ当初は、中国で人気があるドラマや数字が見えているドラマ20~30本を配信予定です。同時に日本オリジナルドラマも制作していきます。いくつか企画がありますが、ひとつは講談社グループの第一通信社さんと小説、コミック、ライトノベル、絵本、ビジネス書など講談社グループIPの活用を相談しています。人気作品のキャラクターやエピソードを選び、縦型ショートドラマのフォーマットに適した脚本作りを進めていきます。ビジネス書の主要テーマや教訓をドラマにする脚本開発も予定しています。また、小さなお子さん向けの、幼児向け絵本の縦型ショート動画化など、ドラマ以外のコンテンツも検討中です。出版社さんにとってもショートドラマを活用することで書籍のプロモーションにつながるようなウィンウィンの関係性が築けると考えています。
―― ではコンテンツは、ドラマに限らずエンターテインメント全般に広がっていくのでしょうか。
大谷 その通りです。現在、キングレコードさんに音楽やアニメコンテンツのショートフィルムについても企画の相談をしており、コンテンツの充実を図りたいと考えています。また、Y&N Brothersさんの協力を得ながら、アイドルグループのライブ映像や未発表映像のコンテンツ化に加えて、彼女たちのショートドラマへのキャスティング企画も進めています。そのほか、教育をテーマにした親子向けコンテンツとしては、前述の絵本のほか、テレビ局に眠っている映像などからも幅広く作っていけると考えています。
なので、中国の人気ドラマは無視できない重要なコンテンツになりますが、そこに加えて、幅広いジャンルの日本オリジナルコンテンツをどんどん制作していきます。
25年に急拡大が見込める市場。大半を占めるのは海外参入組
―― この夏から秋にかけて、大手企業が相次いで縦型ショートドラマ市場に参入しています。
大谷 今のところ、先行するBUMP以外はプラットフォームを持たないので、ビジネスモデルが違います。今の日本市場の国内制作ショートドラマは、TikTokやYouTubeの再生回数で収益化し、そこにPR広告が入ればなお良いというビジネスがほとんど。中国から進出してきた1話課金アプリに市場をほぼ独占されています。そこにわれわれは、日本と中国の文化を融合させたエンターテインメントを発信するプラットフォームで、市場シェアを獲得していこうとしています。
BUMPはサービスとしては競合になりますが、お互いにコンテンツを供給する関係性になっていくかもしれません。ごっこ倶楽部にも、われわれのアプリでやりませんかというアプローチはあり得ます。今はプレーヤー同士が一緒に市場を盛り上げて大きくしていこうという時代なので、そこのハードルは高くないと思います。
―― 25年の日本市場をどう予測しますか。
大谷 700億円ほどの市場規模に成長すると見られています。ただ、今の国内大手企業の動きは、TikTokやインスタグラムなどSNSからの無料配信をプロモーションとして、自社へ誘導するマネタイズがほとんど。そこが大きくなっても市場規模への影響は少ない。市場拡大は、中国をはじめとする海外からの課金アプリの参入によるものになるでしょう。
アニメで差別化。1年目で200万DL目標
―― 中国のユーザーは、従来の映画やドラマと、縦型ショートドラマのどちらを多く見ていますか。
大谷 もちろん人によりますが、短尺でスキマ時間にいつでもスマホで見られる縦型ショートドラマの方が自然と見る頻度は高くなります。中国では、けっこうドギツいドロドロの復讐劇が人気で、1作品で30~40話ありますので、作品にハマると視聴時間も長くなっていくでしょう。
―― エンターテインメントは、現代人の忙しい日常の余暇時間の奪い合いになっているといわれています。縦型ショートドラマは、映画やドラマなど従来の映像コンテンツの視聴時間を奪っていくかもしれません。それが次の時代へのひとつの流れなのでしょうか。
大谷 中国でショート動画市場が急伸した2023年も、映画や動画配信市場は伸びており、シュリンクしたという市場は聞きません。われわれはユーザーの選択肢を増やすことが大事だと考えています。とくに日本のエンターテインメントは、いろいろな関係性やしがらみがあって、過去にはそれを増やすことが難しかった。でも誰もがSNSを使う今は、それぞれが自分に合った選択をする時代。ユーザーが便利になるための選択肢は多ければ多いほどいい。良いものであれば、ひとつだけではなくいくつでも使われる。われわれは低予算で良い作品を作ることに徹底して市場に挑戦していきます。
―― FilMAXの勝算はいかがですか。
大谷 中国アプリの縦型ショート動画には、アニメがほとんどありません。静止画イラストにセリフを載せるアニメ風の動画くらい。そこはひとつのチャンスです。世界的に人気のある日本アニメの縦型ショート動画化は、国内だけでなく、世界市場でのポテンシャルが高い。アニメやコミック、4コマ漫画、絵本などのオリジナルコンテンツが、海外からの参入組との差別化や、FilMAXの海外進出における武器になっていくと考えています。
12月にアプリをリリースしてから2年が勝負。1年目に100万~200万DL、2年間で300万~500万DLを達成します。日本にはユニコーン企業が少ない。アプリ1千万DLで1千億円企業といわれていますから、そこを目指します。