アジア初、かつ日本初の史上最大規模の国際博覧会で、世界中から注目を浴びた1970年大阪万博。サンヨー館「ウルトラソニックバス(人間洗濯機)」を除き、当時の未来社会技術の大半は社会実装された。先代の残した宿題は今、サイエンスにより達成されようとしている。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)
人気のファインバブル技術 鍵は習慣に溶け込むデザイン
100㎛(マイクロメートル)未満の気泡「ファインバブル」の技術特許を持ち、専業メーカーとして「ミラバス」や「ミラブル」など、優れた洗浄効果を持つ革新的な製品を展開してきたサイエンス。気泡の挙動とそれぞれの特徴を熟知し、1~100㎛未満の気泡である「マイクロバブル」と1㎛未満の気泡である「ウルトラファインバブル」を駆使し、人々の生活をより豊かにする製品を開発・販売してきた。同社会長の青山氏は次のように語る。
「ファインバブル技術は『ミラバス』より実装が始まりました。毛穴の奥まで届くマイクロバブルを浴槽内に大量に生成することで、ただお湯に浸かるだけでミクロの泡が肌の老廃物を優しく取り除き、健康的でつややかな美肌へと導いてくれる。当時の反響はすさまじく、テレビでも度々取り上げられました」
ある日、青山氏はテレビで衝撃的な映像を目にする。ユーザーの女性がミラバスでシュノーケリングを行い、顔面入浴をしていたのだ。
「考えてみれば当然で、首から下が奇麗になるなら、顔や頭にも同様に使いたいと思うでしょう。そこから美顔器の開発を始めました」
しかし、開発は壁に直面する。青山氏自身、好奇心旺盛でテレビ通販などで多くの健康商品や美容商品を購入してきたが、箪笥の肥やしにしてしまった苦い経験がある。
「美顔器をつくるとして、果たしてどれだけ使ってもらえるのか。機器を出してコンセントをつなぎ、10~15分時間を割けるのか。私は難しいと思います。習慣に溶け込む商品でないと使い続けてもらえません」
そこで、日常的に行うシャワーにファインバブル技術を実装し、生活体験をアップデートする形で製品開発に臨んだ。その結果、誕生したのが「ミラブル」だ。以来、同社の商品開発では「決して無駄にならないもの」をコンセプトとしている。
家庭から宇宙まで全ての人々に感動と喜びを
「ミラバス」「ミラブル」は市民の衛生状態を改善させた。これまで肌の表面をこするだけでは落とせなかった毛穴の汚れが嘘のように落ちる。肌の表面を傷つけずに洗浄するミラブル技術は、肌に悩む多くの人々に喜ばれ、例えば医療現場における手術前の洗浄や、繊細な工業製品の洗浄といった場面、消防士の防火衣の洗浄にも活用されている。
ファインバブル技術が活躍する領域は年々拡大しており、民生品にとどまらず、医療・農業・工業用洗浄・水産など、さまざまな分野で新しい価値を生み続けている。特に注目したいのが医療・介護領域での活用だ。
「介護における入浴介助は大変で、介護職の方々の負担になっていました。ここに『ミラバス』を導入すれば、マイクロバブルの湯に浸かるだけで洗浄が済むので、介護者の負担を低減できます。また、同技術を用いれば高温でなくとも身体を温めてくれるので、温度の高い湯に浸かることで生じるヒートショックの心配も少ない。現在は『ミラバス』に見守りセンサー、連絡機能、強制排水機能等を備えた『ミラバスガーディアン』を開発し、介護施設やシニア世代が一人で居住するマンションなどでも導入を増やしています」
そして近年、同社が新たに開拓し始めている領域が「宇宙」だ。これまで各国の宇宙機関がリードしてきた国際宇宙ステーション(ISS)は30年以降、民間宇宙ステーションへと移り変わり、宇宙旅行が現実的なものになる。その時課題として上がるのが、「宇宙空間におけるQOLの向上」だと青山氏は語る。
「現在、ISSでは常時7人の宇宙飛行士が滞在していますが、水資源が限られていること、そして安全面の制約から入浴は行われず、水を使わないドライシャンプーや濡れタオルでの拭き取りで代用されています。これは宇宙飛行士の方に伺った話ですが、ISS内は酷い衛生状態だったそうです。将来高いお金を払って宇宙旅行をした時に、身体が臭いまま過ごすのはいかがなものでしょう。私たちの技術を生かし、宇宙旅行者が心地よく過ごせる環境をつくっていきたいと考えています」
70年万博の熱をそのままに大阪・関西万博へ
宇宙での快適な衛生環境実現に向け、24年10月末に有人宇宙システム(JAMSS)との共同研究をスタートさせたサイエンス。共同研究では、ISSの微小重力環境下で有用かつ安全、衛生的な「節水型シャワー(宇宙シャワー)」の技術的実現性を検討し、開発・技術実証を行い、30年前後に民間宇宙ステーション等でのサービス提供を目指す。
その飽くなき探究心と開発に懸ける熱量について、青山氏は次のように続ける。
「原点は70年の大阪万博です。当時の私は万博に魅了された少年でした。サンヨー館の『ウルトラソニックバス(人間洗濯機)』を見たときには衝撃を受けましたね。現在はご縁があって、当時のデザイナーとエンジニアの方と協力し、『ミライ人間洗濯機』を開発中です。先代の宿題を引き継いだという使命感をもって、今回の万博に向けて取り組んでいます」
大阪・関西万博、ひいてはその後の宇宙進出までを視野に入れて躍進を続けるサイエンス。青山氏の眼差しは、果てなき未来社会を夢見た当時と変わらずきらめいていた。
会社概要 設 立 2007年8月 資 本 金 3,000万円 売 上 高 71億9,000万円(2022年3月期) 本 社 大阪市淀川区 事業内容 ファインバブル製品の製造・販売およびメンテナンス。セントラル型浄水装置の製造・販売およびメンテナンス https://i-feel-science.com/ |