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誰もがスポーツを通して健やかに過ごせる未来を 富永満之 アシックス

アシックス 富永満之

2024年の通期見通しが26年までの中期経営計画を上回り、上方修正を発表したアシックス。会長CEOの廣田康人氏が進めた「カテゴリー基軸の経営管理体制」と、社長COOの富永満之氏によるデジタル戦略が功を奏し、業界トップに向けて大躍進を続ける。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)

アシックス 富永満之
アシックス 富永満之

商品カテゴリーを基軸とした体制へシフトし売り上げ増

 2024年11月、「中期経営計画2026」の上方修正を発表したアシックス。24年の通期見通しが、26年までの中期経営計画を上回ったためだ。売上高は20年前と比較し約5倍に、営業利益率は19年の2・8%から14・7%へと成長を遂げる見込みだ。破竹の勢いを見せるその要因について、社長COOの富永氏は次のように説明する。

 「成長の要因として、当時社長COOだった廣田が進めた『カテゴリー基軸の経営管理体制』の導入と、私が担当したデジタル戦略の影響は大きいと考えています。前者については、生産部門と販売部門が独立していた経営管理体制を改め、カテゴリーのトップが製品の企画から生産、販売まで全ての責任を担う体制に移行しました」

 カテゴリーはユーザーや商品群などで5つに分けた。同社の戦略は商品やブランドごとに異なる。例えば、オニツカタイガーは売り上げのほとんどが直営店舗によるDTCだ。一方、スポーツ用品の売り上げは卸であるBtoBが大半を占める。販売チャネルが異なれば戦略も異なるため、生産・販売といった機能別で分けると必要な数値が見えてこない。

 「カテゴリー経営体制を導入することで、カテゴリーごとに『垂直統合』されたバリューチェーン全体での収益性重視へと、社員のマインドセットが変化しました。以前は『生産・製造に課題がある』『いや、販売に問題がある』と内部で摩擦がありましたが、それらが改善されて成果や課題が見えやすくなり、PDCAがうまく回り始めました」

 導入には反発があり、「痛みを伴う改革だった」と振り返る。しかし、カテゴリー別に商品の魅力を磨き上げることでブランド強化を図り、粗利率が大幅に改善。それぞれの売り上げも向上することとなった。

攻めと守りのデジタル戦略。顧客に寄り添う体制に

 ブランド強化や粗利率の改善には、デジタル戦略も奏功している。30年にわたりIT・デジタル業界の最前線で活躍してきた富永氏は、攻めと守りの両輪でデジタル戦略を進める。

 「要は『OneASICS』によるブランド体験価値の向上です。卸中心だった販売を見直し、直接顧客と接点を持つことで関係性を強化。お客さまのニーズを拾いやすい形にシフトしました。20年に390万人だったOneASICS会員が、24年10月末には1666万人に拡大。充実した顧客データベースを構築し、パーソナライズされたマーケティングを実施できるようになりました」

 攻めのデジタル戦略においては、顧客インサイトを獲得するための接点の拡充が不可欠だ。同社では16年から22年にかけてフィットネス・トラッキングアプリ運営会社やマラソンにおける各国トップのレース登録会社の買収を進めてきたが、これも接点拡充のためだ。

 「以前から選手や顧客により適したサービスや商品を提供したいと思っていました。接点を増やし多くのインサイトを取得できたので、各ブランドで顧客のスタイルに合わせたラインアップの拡充を進めています」

 新たに見えてきた商機もある。

 「24年の東京マラソンは海外からのエントリーが3割以上、富士山マラソンでは半分以上を占めます。彼らはマラソンの前後で観光や宿泊をしたり、マラソン以外のコンテンツも楽しむ可能性が高い。ホテルや旅行会社と提携すれば、旅行ツアーや周辺の観光地、飲食店情報の提供といった、より高い体験価値を提供できるでしょう」

 一方、守りのデジタル戦略も見逃せない。需要予測や生産計画、在庫管理の徹底といったバックエンドの面でも効果が出ている。

 「これまでは各社がそれぞれ異なる基幹システムを利用し、本社へデータを提供していました。しかし、グローバル同一の基幹システムを利用することで、本社が直接統一データを取得可能になりました。現在、海外売上高は全売上高の約8割。グローバルオペレーション効率の向上は喫緊の課題であり、システム利用だけでなく、現地スタッフとの価値観のすり合わせも進めていきます」

運動が身体と心に及ぼすポジティブな影響を信じる

 「創業75周年を迎え、さらなる飛躍のためのオフィス戦略を進めています。まだ計画段階ですが、『今と未来、開かれたコミュニティと最高機密の研究開発が交差する空間』として、研究所や体験型ミュージアムを備えた施設『ASICS Innovation Campus(仮)』を新設する予定です」

 展望はビジネスにとどまらない。「環境があってこそのスポーツだ」と語る通り、近年深刻な温暖化問題にも積極的に取り組む。

 「サーキュラーエコノミー実現に向けた新たな取り組みとして、未使用で廃棄されるシューズを原料とするスニーカー『NEOCURVE』を開発しました。サプライチェーン全体でのCO2削減なども考慮して、シューズの回収から生産、販売までを外部企業と連携しながら欧州のみで展開しています」

 25年には「誰もが一生涯、運動・スポーツに関わり、心と身体が健康で居続けられる世界」の実現に向けて「ASICS Foundation(仮)」設立も視野に入れる。ブランドスローガン「Sound Mind, Sound Body」にある通り、世界中の人々の健康実現を目指してまい進する。 

会社概要
設  立 1949年9月
資 本 金 239億7,200万円(2023年12月31日)
売 上 高 5,704億6,300万円(連結)
      334億2,300万円(単体)(2023年12月期実績)
本  社 兵庫県神戸市中央区
従業員数 8,927人(連結)
      989人(単体)(2023年12月31日)
事業内容 各種スポーツ用品等の製造および販売
https://corp.asics.com/jp