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ワーナー ブラザース“洋画離れ”に言及 IPとアニメのグローバル展開を拡大 バディ・マリーニ 山田邦雄 ワーナー ブラザース

バディ マリーニ 山田邦雄・ワーナー

ハリウッドメジャースタジオの日本法人であるワーナー ブラザース ジャパン。洋画配給だけでなく、邦画製作でも数々のヒット作を生み出しているほか、『ハリー・ポッター』をはじめとする世界的IPのフランチャイズ展開やアニメ製作も好調だ。洋画離れが深刻化する日本市場の未来をどう見据えるのか。聞き手=武井保之 Photo=逢坂聡(雑誌『経済界』2025年8月号より)

バディ・マリーニ 山田邦雄 ワーナー ブラザースのプロフィール

バディ マリーニ 山田邦雄・ワーナー
バディ・マリーニ(右) ワーナー ブラザース ディスカバリー 日本統括ゼネラルマネージャー/ディスカバリー・ジャパン社長
モバイルゲーム会社Supercellの日本MD、Hulu JapanのCEOのほか、エイベックスグループ、ユニバーサルピクチャーズ、三井住友投資銀行などで指導的地位を歴任。グローバルモバイルプラットフォームMangamo設立を経て、ワーナー ブラザース ディスカバリー日本統括ゼネラルマネージャーに就任。幅広い事業を統括する。
山田邦雄(左) ワーナー ブラザース ジャパン上席執行役員 映画部門代表バイスプレジデント
やまだ・くにお 1965年生まれ。93年ワーナー ブラザース ジャパン入社。映画営業部(大阪)、映画宣伝部(東京)、バイスプレジデント上席執行役員・映画営業部統括、営業本部・邦画製作統括を経て、2024年8月バイスプレジデント・上席執行役員・映画部門代表に就任。

邦画製作を22年続けてきたハリウッドメジャースタジオ

―― ハリウッド大作を日本配給する一方、ローカルプロダクションからヒット作を多く生み出しています。洋画の日本配給と邦画製作それぞれの戦略や位置付けを教えてください

山田 ハリウッド映画配給だけでなく、ローカルコンテンツ製作にも投資する米本社の方針から、2003年に邦画製作部署を立ち上げました。山あり谷ありでしたが製作を継続してきたことで、『るろうに剣心』や『銀魂』など数々の大ヒットシリーズを生み出し、利益ベースで安定した業績を維持しています。邦画製作は多い年で年間10本ほど。8本前後を毎年公開していく方針です。

 洋画配給は、北米で製作された多様なジャンルの作品から、いわゆる大作と呼ばれる、全世界配給する年間5〜6本のテントポール(業績を支える目玉作品)のほか、ホラーやサスペンスなどのジャンル映画5〜6本を加え、日本市場に合わせた独自の宣伝手法で劇場公開しており、バラエティに富んだ作品供給を掲げています。

―― 昨年の日本の年間興行収入の内訳は、邦画75%、洋画25%でした。その状況をどう見ていますか。

山田 洋画にとって大変厳しい年でしたが、コロナ禍とハリウッドのストライキによる製作の遅れが影響した公開本数の減少が、大きな要因としてあると思います。今年から来年にかけては、大作を含めた本数がだいぶ戻りますので、昨年の状況からは回復するでしょう。

 ただ、今の市況では、圧倒的に邦画を含めたアニメが強い。日本市場に受け入れられるIPを獲得するなど、より邦画製作に力を入れていかないといけないと考えています。

―― 会社としては、近年の邦画と洋画の興行収益の割合はどうですか。

山田 年によりますが、邦洋比は6対4や7対3になることが多いです。本数的には洋画のほうが多いのですが、強力なタイトルがある年はその数字に大きく影響されやすい。近年は邦画のヒット規模が大きいので。理想は半々の割合になることです。

―― 今年は年初から『はたらく細胞』が大ヒットするなど、邦画製作でも存在感を示しています。日本映画業界でどのようなポジションを目指しているのでしょうか。

山田 日本の映画会社との邦画興収での勝敗の意識は全くありません。われわれがやるべきは、人気原作など価値の高いIPを獲得して、良いコンテンツを作ること。それを配給して、二次利用、三次利用につなげていくことに尽きます。とにかくお客さまに楽しんでいただくコンテンツ作りに励む。それだけです。

―― ローカルプロダクションにおいて、ハリウッドの製作手法が生かされているのでしょうか。

山田 ハリウッドのスタイルを踏襲しているので、日本の映画会社とは異なる部分はあると思います。たとえば、観客の評価や市場動向のフィードバックをはじめ、データをもとにしたコンテンツの徹底的なブラッシュアップなど、さまざまなハリウッドのノウハウを日本市場に当てはめています。

数年で洋画時代が再来するシェアの回復は目前

―― 近年の日本市場では、〝洋画離れ〟と呼ばれる状況が続いていますね。

山田 2010年代に邦高洋低の市況へと変わってきて、コロナ禍を経て邦画がシェア7割を超える現在に至ります。

 しかしエンターテインメントの隆盛には時代のサイクルがあります。ハリウッドスタジオ各社は大作シリーズだけでなく、時代のニーズを汲み取る創意工夫を凝らした新作を続々と製作しており、時代の波は再び洋画に戻って来ると信じています。

―― 洋画の時代はいつ来ますか。

山田 今後2〜3年のラインナップを見ると、まだタイトルは言えませんが、世界的ヒットが期待できる強力なIPが揃っています。日本人にとてもなじみ深いタイトルもあり、他社も同様です。なので、ここ数年のうちに洋画シェアは伸びていくでしょう。昨年の洋画シェア25%から、30〜40%に戻る時代は目の前に来ています。

『ハリー・ポッター』IPの展開の勝ち筋

ワーナー Studio Tour 動く階段
ワーナー Studio Tour 動く階段

―― 映画事業以外では、映画製作の舞台裏を体験できる「スタジオツアー東京」(23年オープン)など、「ハリー・ポッター」のフランチャイズ展開が進んでいます。

マリーニ アジアで初の「スタジオツアー」で、オープン当初から大きな反響を頂きました。業績は好調に推移しています。

「ハリー・ポッター」は、「スタジオツアー東京」の他、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」内の壮大なエリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」や、TBS赤坂ACTシアターの舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」、さらにコンシューマープロダクツ部門がライセンスしているショップ「ハリー・ポッター マホウドコロ」の展開と、いろいろな活動がフランチャイズの相乗効果につながり、とても良い状況です。

 シリーズ第1作目は01年公開なので世代が一回りして、現在では親子で絵本や映画を楽しんでいます。われわれとしては、東京にショップを増やしたり、定期的にシリーズを映画館で上映したり、「ハリー・ポッター」を身近に感じていただくための展開を進めています。

 また、27年放送開始予定の「ハリー・ポッター」シリーズテレビドラマ製作も、世界で最もハイクオリティなドラマ製作で定評のあるHBOのクリエーター陣によって着々と進んでいます。原作に忠実に全7巻(8作)のストーリーを起こし、2時間の映画では描き切れなかった物語のディテールや登場人物たちのキャラクターを深掘りするこの新シリーズは、製作発表当初から全世界で大きな話題になっています。現在は新キャストが順次発表されているところですが、新たな魅力が詰まったこの「新作」の完成が私もとても楽しみです。

―― IP事業も幅広く手がけていますね。特に注力されている分野はありますか。

マリーニ われわれは世界的IPを多く保有し、映画製作・配給、有料テレビ放送事業、ホームエンターテインメント、ゲーム、コンテンツライセンス、ストリーミングなど幅広くビジネスを展開するほか、ハリウッド映画やアメリカのテレビシリーズの日本での展開だけでなく、ローカルコンテンツも製作しています。

 実写邦画作品以外に『ジョジョの奇妙な冒険』や『終末のワルキューレ』など日本のアニメ作品はこれまでに90タイトルほど製作しています。日本発のクリエーティブをグローバルに展開する戦略の一環として、現状は年間4〜5本の作品をリリースしておりますが、今後は製作数をさらに拡大していきます。

 もう1つ、われわれが手がける動画配信サービスのHBO Max(※)は、HBOの話題作、ワーナーブラザースの映画作品等をはじめとする多彩な人気コンテンツを保有するストリーミングサービスですが、それをさらに拡充させるのが重要なミッションのひとつです。

エンターテインメント業界は大きな変革と転換の時代

―― 会社としての現在の課題を教えてください。

山田 映画事業においては、スマホやタブレットなど消費者のデジタル端末にさまざまな情報が入ってくるなかで、それをうまく利用しながらコンテンツを盛り上げていくことです。映画館やテレビに限らず、端末で楽しんでいただく魅力あるコンテンツ作りに力を入れていく必要があります。

マリーニ 課題は大きく3つあります。エンターテインメント業界は大きな変革の時代に入っています。たとえば有料テレビ放送市場の成長は緩やかな停滞傾向にはありますが、グローバルでの事業収益は依然として相当高いレベルにあるので、この収益の維持に尽力することが1つ。2つ目はこの100年間の映像制作のリーディングカンパニーとしての実績を生かして、ハイクオリティを追求するクリエーティブにフォーカスし、素晴らしい作品を世の中に出し続けること。3つ目はようやく黒字転換をなしえたストリーミングビジネスにおいて、優良なコンテンツを武器に、グローバルスケールのアプローチを継続実施し、利益性を保ちつつデジタルシフトを加速していくことです。

※「202508_熱盛_ワーナー_Studio Tour_動く階段」には下記クレジットを入れる。

© Warner Bros. Studio Tour Tokyo – The Making of Harry Potter.