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「情に訴えかけるのは無駄」トランプとの向き合い方

「情に訴えかけるのは無駄」トランプとの向き合い方

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ドナルド・トランプはこうしてつくられた

 ドナルド・トランプがマフィアと関わったのは父親のフレッドを通してだった。

 フレッドの父フレデリック、つまりドナルドの祖父はドイツの徴兵を避けてニューヨークに渡った移民で、飲食店から始めてやがて売春宿を展開した。そこそこ儲かり、商売を売り飛ばして故国ドイツに帰ったが、懲役拒否がばれて、またアメリカに舞い戻る羽目になる。このフレデリックの遺産を元手に息子のフレッドは不動産業で成功した。ドナルドの父フレッドはクイーンズ区とブロンクス区でマフィアと取引があり、マンハッタンに進出した息子のドナルドはそのままマフィアとのつながりを引き継いだ。

 マンハッタンでビルを建てるとどうしてもマフィアの力が必要となる。

 マンハッタンではコンクリートを3社で独占しており、この3社はマフィア絡みなのである。

 犯罪組織ジェノヴェーゼ・ファミリーのボス、「ファット・トニー」こと、アンソニー・サレルノと、そしてポール・カステラーノがマンハッタンのトランプ・タワーとトランプ・プラザにコンクリートを供給した。

 かなり割高の価格で取引され、それと引き換えにユニオン(組合)を押さえるよう2人の大立て者に頼んだのである。

 こうして関係のできた「ファット・トニー」サレルノのニューヨークのタウンハウスで、ドナルドはロイ・コーンと知り合う。

 ロイ・コーンはアメリカの裏面史に度々登場するダークな人物で、ソ連によるスパイ事件として有名なローゼンバーグ夫妻を検事の立場で裁き、夫妻を死刑に追い込んだ。

 デイビッド・ケイ・ジョンストンはドナルド・トランプのダークな部分を27年間追いかけて『Making of Donald Trump』という本を書いた。ジョンストンはロイター、ロサンゼルス・タイムズ、フィラデルフィア・インクワイラーに記事を書いており、ニューヨーク・タイムズの仕事でピューリッツァー賞を受けている。

 ジョンストンは27年間の取材や本人へのインタビューを通じて、ドナルドの今に至るマフィアとのつながりを徹底的に暴いた。「あまりドナルドの身辺が調査されなかったのは新聞が落ち目でリストラの嵐が吹き荒れていたから記者に長く取材する体力がなくなっていたからだ」とジョンストンは分析する。

 マフィアの元顔役でモスクワからの移民フェリックス・セイターという人物はトランプタワーの27階に事務所を持ち、しばしば密談し、ロシア、ウクライナ、中国への進出に関して協議をしていた。

 そして一番最近のドナルドの悪事は学校経営だ。トランプはトランプ大学というものをつくって巨額の授業料を受け取りながら、本人は講義をせず、詐欺まがいの授業を組んで、多くの受講者を失望させた。実は、この問題はいまだ解決していない。

「損得」こそがすべての判断基準

 一方でトランプは自著やセミナー的な舞台で経営者的な発言を重ねている。

 いわく「絶対に諦めるな」。挫折する人間は途中で放り投げる人間だ。まあ、これは分かる。「詳細に気を配れ」。トランプは他人任せにした事業でやけどした、という。これも分かる。「集中しろ」。ここが怪しい。トランプの最初の著書『トランプ自伝』をゴーストライトしたトニー・シュウォーツというジャーナリストは、トランプの集中力の短さに、一時は仕事を投げかけたくらいだ。シュウォーツは18カ月間トランプに張り付いて取材したが、そのでたらめさに辟易した。
 「自分の興味があることは全米が興味を持つと思う」とジョンストンはドナルドを分析する。

 「彼はカジノを持っているが、カジノの商売を全く知らない。彼は核兵器のことを口にするが、核兵器に関する知識がない。彼は自分が好きだ。他人には全く興味がない。彼には良心というものがない。他人に心があるとは思わない。他人は自分に奉仕する存在だと信じている」

 ドナルドはマフィアとの付き合いを全面的に否定している。「知らない」「覚えてない」「全く記憶にない」一方で時に彼はこの筋に通じているフリをする。

 「俺は君や皆が毎日目にしている政治家たちを赤子のように扱う連中を知っている」

 マフィアにはいくつか掟がある。仲間を裏切らない。口は閉じているにこしたことはない。ボスには栄光をもたらすこと。評判がすべて。誰と組むかは熟考しろ。これは企業社会でも通じる掟だろう。

 しかし、ドナルド・トランプにはマフィアの掟さえ通じないのである。自分のためなら仲間を裏切る。ボスは自分だ。嫌なやつはクビにする。自分の得になるアクションは起こす。悪い評判でも評判がすべて。誰と組むかは損得で考える。

 日本人の「情」などというものとは全く無縁の自己愛だけでできている冷たい生物と商売するのだ、と、われわれ日本人は割り切って取り組むしかない。
(文中敬称略)

文=戸田光太郎(国際ジャーナリスト)

 
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