媒体資料
経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

不動産業界で急成長を可能にしたヒューリックの経営戦略―西浦三郎(ヒューリック会長)

ヒューリック会長 西浦三郎氏

 都心の一等地で必ずといっていいほど目にするのがヒューリックのビルだ。今では東京都内に160棟を超えるビルを所有する。ヒューリックはもともと、みずほ銀行の店舗不動産を管理するグループ内の不動産会社にすぎなかった。

 ところが2006年に西浦三郎氏がみずほ銀行副頭取からヒューリック社長に転じてからの10年余りで、業容を大きく伸ばし、時価総額では大手3社に次ぐまでになった。なぜ、このような急成長が可能だったのか。西浦会長に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=佐藤元樹

スピードと独自情報が武器のヒューリックの経営

201803HULIC_P01

にしうら・さぶろう 1948年東京生まれ。71年早稲田大学第一政経学部卒業後、旧富士銀行入行。2004年4月みずほ銀行取締役副頭取を経て、06年3月から日本橋興業(現ヒューリック)社長を務め、16年から会長。第43回経済界大賞優秀経営者賞を受賞した。

―― ヒューリックは毎年、2割以上の利益成長を続けています。時価総額も、大手3社に次いで4位に位置しています。好調の理由を教えてください。

西浦 やること、やらないことがはっきりしているからです。例えば、どういう物件なら買うかを決めています。具体的には千代田・中央・港・新宿・渋谷の5区に集中し、しかも駅から3分以内。それ以外の地区なら駅から1分以内が基本です。この基準がはっきりしているため、そういう物件情報ばかりが持ち込まれています。

―― 駅近物件は、どの不動産会社も欲しがっています。それだけ競争も激しいのになぜ、ヒューリックが買うことができるのですか。

西浦 なぜ仕入れることができるかというと、第一にスピードです。当社の場合、物件情報が寄せられてから2日で意思決定ができます。2日の間に物件を見て収益計算をして決断を下します。しかも金融機関との間で2千億円までならいつでも調達できる借り入れ枠があります。ですから決済の心配もない。そのため条件に当てはまる物件があれば、当社に真っ先に持ち込まれるようになりました。

 さらには私や(吉留学)社長もいろんな方とお付き合いをしていますし、社員もREITや不動産、ファンド出身者など多岐にわたる。彼らも独自の情報ルートを持っています。そこからも物件の情報が入ってきます。

―― 空室率は1%未満と高い稼働率を誇っています。

西浦 空室率が低い理由として、まず、新しい物件が多いことが挙げられます。当社の物件の42%は、建設後10年以内のものです。

 第2に先ほども言ったように駅近物件ばかりであること。

 第3に安全・安心であること。当社は独自の耐震基準を設置しており、震度7にも耐えられるようになっています。ですから直下型地震でも大丈夫ですし、セキュリティ対策にも力を入れています。

 そして第4に環境にやさしいこと。当社は日経環境経営度調査において、不動産業で7年連続1位に選ばれています。本社も自然採光、自然換気を実現していますが、所有物件も環境に配慮しています。そのため、電気代なども安くすむ。こういったところが評価されているのだと思います。

―― いつからこのような戦略を立て、実行しているのですか。

西浦 私がみずほ銀行からヒューリックに転じたのは12年前。そして上場したのが9年前です。財務状況も悪く、これを何とかしなければ、と考えました。

 所有物件は、みずほ銀行の支店のビルが多かったので、まずは、容積率に余裕があるビルを建て替え、そこにテナントを集めるという方法でした。これによって財務の安定化を図ることができました。

 次に、先ほど言ったように、駅近物件を購入し、建て替えやリニューアルによって新たな価値を付けてテナントを集めています。それが現在の成長につながっています。

「3K」物件を増やす経営戦略

―― 最近ではオフィスビルの賃貸以外の案件も増えているようですね。

西浦 最近では、REITやCRE(企業不動産の活用)の案件も増えていました。最近では別会社をつくり、バリューアッドビジネスを進めています。飲食店が入っているビルで排煙装置が不十分な場合など、そのままではビルの価値が上がらないケースがあります。

 こういうビルに手を加えてビルの価値を上げ、さらには空室を埋めた上でREITやファンドなどに売却する。建て替えよりもコストははるかに小さいし期間も短く、テナントも入居し続けることもできる。これなら自己資本が小さくても多くの物件を手掛けることができます。

 最近では、オフィス以外にも力を入れ始めました。私がヒューリックに入った当時は、オフィス比率は85%ありました。それが現在では65%です。これを将来は50%にまで下げようと考えています。もちろん、今後も駅近物件を取得していきますし、オフィスビルの開発も進めていきます。しかしそれ以上に他の業態を増やしています。

 具体的にどのジャンルを増やしていくかというと、現在進めている中期経営計画では、3Kビジネスの強化を謳っています。

 3Kとは、「高齢者・健康」「観光」「環境」の3つ成長分野です。既に当社の老人ホームの部屋数は3千室を超えました。この分野は今後も成長が期待できます。観光についても、インバウンドは2020年の東京オリンピックが終わった後も1増え続けていくと予想されます。となるとホテルの絶対数が足りない。そこで観光客・ビジネス客を対象としたホテルにも今後は力を入れていきます。

 環境については、先ほど言ったように、既に当社のビルは環境対応を進めています。残念ながら現段階ではそれを賃料に反映させるところまではきていませんが、今後は入居される企業の意識も変わってくると思います。環境対応ビルに入ることで企業のイメージも良くなるし、光熱費なども安くすむ。それが浸透すれば、従来のビルよりも賃料を高くすることも可能です。

10年後のヒューリックを見据えて経営戦略を立てる

―― なぜオフィスビルの比重を下げていくのでしょうか。

西浦 ヒューリック入りするにあたり、一番勉強したのは人口動態の変化です。それによって都市の構造も変わってくる。少子高齢化が進むということは、当社はマンション事業を手掛けていなかったため、リーマンショックや東日本大震災によるマンション不況の影響を受けずにすみましたが、これも、人口減少時代におけるマンション需要に疑問を感じたためです。

 さらに今後、労働人口は15年間で1千万人減と大きく減っていきます。ですからオフィス需要もそれほど伸びないという判断です。

―― 東京中心部へのこだわりは今後もつづけていくのですか。

西浦 最近は地方での事業も増えてきました。京都の四条に開発したビルは現在、アップルが入っていますし、半年前には大阪の心斎橋の四つ角にある4棟のビルを取得しましたが、ここにはルイ・ヴィトン、カルティエ、ディーゼルなどの高級ブランド店が入っています。

 将来的には、ホテル・商業などの複合施設への再開発も考えられ、ポテンシャルの高い立地です。いずれも駅から近いビルばかりです。今後もこういう物件があれば、取得していこうと考えています。

―― 人口減少に対応して海外に進出する考えは。

西浦 日本国内でやることがないなら検討しますが、まだまだやることがあると考えています。まだ発表はしていませんが、日本橋にアクティブシニア向けの会員制サロンをオープンする予定です。このように、国内で成長させることのできる事業はいくらでもある。まずはそこを攻めていきます。

―― 東京オリンピック後、地価が下がるともいわれています。

西浦 現在、銀座の地価は上がっています。でも、これからは、銀座だからといってそれほど上がらないでしょうし、場所によっては下がるところもあると思います。

 重要なのは、これからの不動産は面ではなく点で考えるということです。例えば表通りに面していても、これが角地だったら、ショーウインドーを2面取ることができるため、価値が高い。このように、銀座という面で考えるのではなく、その中でもどこに位置しているかによって、物件の価値は大きく異なります。

 ですからわれわれは価値のある物件を仕入れていく。そうすれば、オフィス需要は減っていったとしても、インバウンド需要を取り込むなど、成長のチャンスはいくらでもあるはずです。

―― そういう独自戦略の発想はどこから生まれてくるのですか。

西浦 先ほど言ったように、人口構造を考えていけば、今後日本社会がどのように変わっていくかが分かります。データは嘘をつきませんから、それに則って戦略を決めていますが、常に考えているのは、10年後のヒューリックということです。

 これまでに2度、10年後のヒューリックという長期計画を策定しましたが、進行中のものは23年度に経常利益850億円を目指すというものです。この目標を目指して、中期経営計画を策定し、日々取り組んでいます。

経営で重視する3つのこと

―― 西浦会長が企業経営をする上で重視していることは。

西浦 成長性と安全性と生産性です。この3つのバランスを高いレベルで取っていく。そのために必要なのは変革とスピードです。世の中はものすごい勢いで変化しています。ヒューリックもそれに合わせて変わっていかなければなりません。

 われわれは大手ではありません。自己資本も多くないため、大手と同じことをやっていたら必ず負けてしまいます。ですから常によそのやらないことをやろうと考えています。だからといって奇をてらったことをやるのではなく、当たり前のことを当たり前にやっていく。これを徹底しています。

―― 生産性の指標はどこに置いていますか。

西浦 生産性については、私がヒューリックに来た時に、役員と議論しました。そこで1人当たりの経営利益で評価することに決めました。当社の社員数は160人と大手に比べてはるかに小さい。しかし1人当たりの経常利益は3.6億円と、全上場企業の中でトップを誇ります。

 生産性を上げるためには、優秀な社員を増やすことにつきます。そのためには待遇面でも魅力あるものにする必要があります。当社の場合、給与は経常利益と連動するため、社員の平均給与は前期実績で1418万円。これは全上場企業で6番目に位置しています。

―― ヒューリックは福利厚生が厚いことでも知られています。

西浦 社員には、弁当やスープ、サラダなどを無償で提供していますし、コーヒーなどは常時無料で飲むことができます。女性に活躍してもらうために、本社5階には保育所もつくりました。また育児中の社員には通常の有給休暇とは別に年間10日の「こども休暇」を付与し、半日単位の取得も認めています。これなら子どもが急に熱を出しても病院につれていける。この結果、結婚・出産退社ゼロを実現できました。

 このほか、健康診断では、社員が希望すれば全身のMRIを会社負担で行うことができます。プレミアムフライデーもいち早く取り入れており、社員は1カ月のうち、好きな金曜日を半休できます。有給消化率は現在72%ですが、これをできるだけ早く100%にしたいと考えています。当社では年に2度、社員アンケートを取っていますが、そこに寄せられた要望は、よほどのことがない限り実現していきます。

 社員に対してだけでなく、株主や地域、社会に対してもできるだけのことをしたいと考えています。配当性向は32%と、不動産会社では一番高い数字ですし、先ほど言った保育所は、地域の方にも開放しています。また、地元のお祭りに協賛して神輿を寄付しています。生産性を上げていき、上がった分は、社員やステークホルダーに還元していく。これが基本的な考えです。

西浦三郎氏 関連記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る