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髙橋和夫・東京急行電鉄社長インタビュー:「まちづくり」という幅広い事業を手掛ける東急電鉄の強み

東急電鉄社長 髙橋和夫氏

2018年9月、グーグルの日本法人が入居予定の渋谷ストリームが開業するなど、渋谷の街は変貌を遂げている。主導する東急電鉄は世界に通じる渋谷という街を生み出す一方で、沿線では日本共通の課題である高齢化や人口減少にも直面する。この4月より社長に就任し、鉄道・都市開発事業のほか空港運営事業や海外事業など、さまざまな事業の指揮を執る髙橋和夫社長に話を聞いた。聞き手=古賀寛明 Photo=山内信也

高橋和夫・東急電鉄社長プロフィール

たかはし・かずお 1957年、新潟県生まれ。80年、一橋大学法学部を卒業後、東京急行電鉄に入社。鉄道やバス事業など交通事業が長く、出向した東急バスには約19年間勤務。復職後は、経営企画を担当し、仙台空港の運営権獲得にも関わった。常務、専務を経て2018年4月より代表取締役社長に就任。

東急電鉄の沿線開発とまちづくり

鉄道事業分社化の狙いとは

―― 社長就任から6カ月がたちますが振り返っていかがですか。

髙橋 あっという間に過ぎたという感じですね。日々新鮮であり驚きもありますが、経営計画にはこれまでも携わっていましたから、そういった面では当社の強い部分も弱い部分も分かっていますし、何をすべきかも分かっています。とはいえ順調かといえば、そんなことはありませんので、日々悶々ともしていますね。

―― 経歴を見るとバス事業をはじめ交通事業が長いですね。

髙橋 そうですね。バス事業には19年くらい携わっていました。その後、仙台空港のコンセッションにも関わりましたが、今は忙しくなって仙台に行く時間がなかなか取れなくなっています。

 ただ、仙台に限らず、さまざまな事業を行っていますが、それぞれの現場をできるだけ自分の目で見るようにしています。それは現場の感覚が鈍ってしまうと、頭の中と実際との違いが生まれてしまうからです。

 私どもの商売のほぼすべてがB2Cですから、お客さまは何を考えているのか、という地に足を着けた感覚は大事にしています。

―― 先日、鉄道事業を分社化すると発表しました。その狙いは。

髙橋 経営にはやり方がいくつかあり、次の経営目標に向かって最適な方法を見つけながら進めます。東急電鉄には多くの事業がありますが、すべての事業をじっくりと見ていけば、スピードの面で遅れてしまう。その点で鉄道事業というのはある程度成熟していますから、安心、安定輸送など事業の8割、9割は事業会社で責任をもってできます。

 そこで一つの独立した会社としてお客さまのニーズにスピード感を持って対応できる体制として行う一方、グループ経営の方はビジネスをより深く、速くしていこうとしているのです。ですから、経営のやり方を変えるだけです。

 ただ、鉄道事業だけでは完結しない街づくりなどは親会社から鉄道の役割を落とし込んでいくようにしていきます。

東急電鉄のまちづくりで渋谷はどう変わるのか

稲荷橋広場から見た渋谷川

―― 街づくりの話も出ましたが、この9月に渋谷ストリームがオープンしました。渋谷川の水辺の復活も話題です。今後、渋谷はどんな街になりますか。

髙橋 渋谷ストリームには商業ゾーンにホテル、そしてオフィスがあり、そこに来年、グーグルさんが入居することも決まっています。夜には渋谷川でプロジェクションマッピングも行っていますからとてもきれいです。

 渋谷はかねてより外国人観光客の方も多くグローバルな街でしたが、今後、グローバル化がさらに進むと思っています。その後もさまざまな開発が控えていますので、どの時点で区切るかは難しいのですが、例えば、東京オリンピックに照準を合わせれば、その頃には渋谷駅周辺の開発は8割方完成しています。

 オリンピック、パラリンピック時にも多くの人が世界中から訪れるでしょうから、来られた方にSNSなどで発信していただき、渋谷に来てみたいと思ってもらえれば、私たちが標榜する「世界のSHIBUYA」へと近づけると思っています。

―― 渋谷の街は1964年の東京オリンピックで一気に発展しました。今回もその契機になりますか。

髙橋 今回は会場が湾岸地区に集まりますが、渋谷も新国立競技場をはじめ競技施設が近くにありますから良い機会になると思っています。

 また、渋谷の街を俯瞰すると徒歩圏に明治神宮や代々木公園、大学に新国立競技場と、じつにさまざまな施設に囲まれていることに気づくはずです。渋谷の駅付近だけでは感じませんが、渋谷駅を中心に半径2.5キロ圏内の「Greater SHIBUYA(広域渋谷圏)」でとらえると、自然豊かな環境です。

 この恵まれた環境を生かして街の回遊性を高めれば、渋谷の持つ多様性と、その多様性を受け入れる街の魅力に磨きがかかり、新たな魅力も見えてくると考えています。

通勤電車の混雑緩和に向けた東京急行電鉄の対策とは

―― 渋谷が発展する一方で田園都市線沿線は高齢化や人口減少という問題が出てきていますね。

髙橋 これもいろんな視点があります。例えば東急沿線の終点側には観光地などが何もありません。東武さんであれば日光や動物園、小田急さんであれば箱根がありますが、東急は純粋に通勤路線。これからは定住人口がなかなか増えないのですから、どうやって交流人口を増やしていくか、ということを考えなければなりません。

 かつては学校などを誘致して利用客を増やしていたように、今後はひとつの解決策として集客施設で多くの人に来てもらおうと考えています。たまたま、私どもには南町田にグランベリーモールがあり、そこが少々古くなっていたので町田市と連携してその広い土地に商業施設だけでなく公園やミュージアム、そしてコト消費である体験型のパビリオンといった、3世代で楽しめる場所をつくろうとリニューアルを進めています。

 2019年秋にオープンする予定で、南町田の駅を降りた瞬間から遊園地に到着したような感じにしたいと考えています。

―― 東急沿線の人口のピークが35年、これまでの想定よりも10年後ろ倒しになりました。通勤時間の混雑の解消策は。

髙橋 沿線人口は今後も増えますが、高齢者の方が中心に増えますので、それがそのまま朝のラッシュにつながるというわけではありません。

 しかしながら、今の状況が何もせずに改善されるわけではありませんから、朝の早い時間に電車に乗り、オフピーク通勤に協力していただけるとお得なクーポンがもらえる「グッチョイモーニング」という取り組みなどを始めています。

 また、通勤時間の後ろ倒しは、働き方がどこまで自由化されるのかにもよりますが、10時出社の方が増えるようであれば、ポイントやクーポンの付与といったソフト面での施策で、ピークの山をできるだけ平らにしていきたいと思っています。

 ハード面では、数パーセントですがより多くの人が乗れる新型車両を導入しています。ホームランはありませんが、ハード、ソフトと合わせて考えていかなければならない課題です。当社はサテライトシェアオフィス事業も行っていますが、働き方改革など国や自治体の動きからこの1、2年で利用が増えてきています。こうした動きも通勤電車の混雑の緩和につながると期待しています。

東急電鉄の海外、沿線事業を超えた分野への展開

ベトナム、オーストラリア、タイでのまちづくり

―― 海外でもベトナムなどで街づくりを行っていますが、海外事業はいつから始めたのですか。

髙橋 海外事業については何十年も前からやっていました。当時はホテルやリゾート開発が中心でしたが、00年くらいに事業環境が悪化したのでほとんど売却して、ほぼ撤退した状態でした。ただ、沿線事業だけですといつか飽和するのは目に見えています。ですから、得意な分野であれば沿線外にも出ていこうということを長期の戦略として6、7年前に決定しました。その延長線上に海外があったのです。

 現在、ベトナム、オーストラリア、タイの3カ国でまちづくり事業を行っていますが、海外事業というのは不慣れな土地で行いますから、一番大事なことはパートナー選びです。ベトナムで組んでいるベカメックスIDCという企業は当社の多摩田園都市を見て、自分の国にもこういった街をつくりたいという強い思いがあり、6、7年前に当社と合弁で始めました。ホーチミンの北約30キロメートルにあるビンズン省の新都市は、近くに日系企業も入る工業団地があり、マンションや商業施設のほか、学校や医療機関、東急バスのノウハウを取り入れたベカメックス東急バスも走っています。

 今は主に工業団地で働く方の住宅地ですが、数年後には、ホーチミン市の地下鉄の駅とBRTで結ぶ構想がありますのでアクセスが良くなりホーチミンへも通えるようになります。そうするとさらに街は大きくなるはずです。マンションの販売も最初は苦労がありましたが、最近ではベトナムの方の所得が上がり、即日完売とはいきませんが好調です。街が完成するのはまだまだ先ですからじっくりと取り組んでいきたいと考えています。

インバウンド観光で東北は最後のフロンティア

―― 沿線事業以外では空港運営事業にも進出されました。仙台空港の状況はいかがですか。

髙橋 空港運営事業も海外の事業と同様、沿線以外で得意な分野ということで始めました。鉄道を走らせながら街をつくり、街が発展すればさらに沿線がのびていく街づくりのモデルと共通点が多いのです。

 ただ、いくつもある案件ではありませんから、仙台空港に手を挙げて運よく運営権を獲得できたのです。既に3年目に入っていますが、旅客数も17年には過去最高を達成していますので、お陰さまで目標よりも順調に進んでいます。もともと仙台空港を東北のゲートウェイにしたいと考えていましたので仙台空港から山形や岩手、福島といった東北各地へと地元のバス会社が結んでいます。

 こうした2次交通を充実させて観光で東北を結んでいければ観光客の数も増えていきますし、そうすればまた仙台に就航しようと思っていただける航空会社も出てきます。そういった輪が拡大していくという好循環をつくっていこうとしています。

 ただ、右肩上がりの目標を持っていますので、新たな事業を考えていかなければなりません。LCCの飛行時間もこれまでは片道4時間くらいといわれていましたが、現在は長距離に対応する機材を投入してきて就航できる範囲が広がっています。今は台湾の方々が多いですが、今後はより遠い地域の方にも来ていただけるのではないかと期待しています。

―― 東北地方はインバウンド客が他の地域と比較しても少ないという問題を抱えています。

髙橋 外国人観光客が3千万人の時代を迎えていますし、東北地方の観光資源を数えても北海道と変わらないほどです。でも他の地方と比べてことの外少ないんですね。何でなんだろうと考えていくと、東北へ行くための就航路線もさることながら、いちばんの課題は知られていないことなんです。

 ただ、逆に考えればこれは伸び代があるということでもあります。これまで代々JR東日本さんからトップが来て、東北6県が集まった東北観光推進機構が中心となって東北の魅力をアピールしてきました。JR東日本さんにとっても、仙台から北は乗客が少ないという課題がありましたから仙台空港に携わってからは一緒に活動を始めており、各県の知事も共に海外へ行き誘致活動を行っています。

 ただ、思いはあるんですが、なかなか火がつかない。誘致側がお金をかけてここに来てくださいというよりも、今は海外の方のSNSの方が旅行者を惹きつけますから、その影響力にも期待しています。

髙橋和夫・東急電鉄社長が描くグループの未来

―― 最後に、東急グループをどういう方向に導いていきたいですか。

髙橋 当社は4年後の22年に目黒蒲田電鉄の設立から100年目という節目の年を迎えます。18年は、その前身である田園都市株式会社の100周年の年でもあります。

 街づくりというのは鉄道を敷き、デパートやストアをつくりと、社名にこそ電鉄という言葉が入っていますが、これほど幅広い事業を行う企業体はほかにはないと思っています。ナンバーワンではないかもしれませんが、オンリーワン企業であることは確かです。

 つまり、世界でひとつの企業集団なのですから、今後もその特長を磨き、新たなことに挑戦する企業集団でありたいと思っています。当然、グループとして成長していかなければなりません。

 多摩田園都市という財産もありますから、これも常にリメイクして良いものにしていきたい。そして海外にも挑戦して新たなものを取り入れ、それらを渋谷という街に集約して世界へ発信していく。そのような、世の中から、世界から注目される企業になりたいと思っています。

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