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現場に必要な「小さなリーダーシップ」を経営者も実行すべき理由― 本間浩輔(公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事)

公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事 本間浩輔氏

 部下を持つ人にとっては誰もが悩み、永遠のテーマともいえるリーダーシップ。昔から英雄や偉人をモデルとして分析、そのエッセンスを自分のものにしようとしてきた。しかし、そもそもこうしたカリスマモデルを学んでも役に立たないというのが、スポーツ分野において経営人材を育成するスポーツヒューマンキャピタルの本間浩輔代表理事。所属企業でも役員として人事に関わる本間氏に、今現場で必要とされているリーダーシップについて聞いた。文=古賀寛明 Photo=山内信也

取材協力者プロフィール

本間浩輔

本間浩輔(ほんま・こうすけ)1968年神奈川県出身。早稲田大学を卒業後、野村総合研究所を経て、スポーツナビ(現ワイズ・スポーツ)の創業に参画。ヤフー入り後もスポーツ分野を担当し、現在、ヤフー常務執行役員。スポーツヒューマンキャピタルにはスタート時から関わってきたが、2017年より代表理事を務めている。主な著書に『ヤフーの1on1』(ダイヤモンド社)。

リーダーシップの変遷と時代背景

カリスマ型かフォロワー支援型か

 リーダーシップが、カリスマが引っ張っていく形から、フォロワーを後から支援するような形が目立つようになったのには、いくつかの理由があります。

 一つはビジネス環境の変化です。高度経済成長の時代であれば、ビジネスモデルは「安く、素早く、良いものをつくっていくこと」が重要で、営業ならば誰よりも多く契約を取って来ることが正解というように答えはシンプルでした。

 それが、グローバル化した社会では、安いものは海外から入り、付加価値を求められ、正解も見えなくなった。さらに、イノベーションが必要となると、昔のように上が引っ張るだけでは対応できません。

 働く側も物質的に満ち足りたことで、お金のために頑張ることがなくなりました。いまや若い人にとって1万円、2万円の給料アップで無理するくらいなら、「副業でもする」というのが流れ。

 だから、その人が興味を持つこととか、好きでしょうがないこと、そうした分野で頑張ってもらい、応援する。その方が合理的だし、パフォーマンスも上がるわけです。そういった時代背景がリーダーシップを変えていったのです。

「自分らしいリーダーシップ」が上手く行かない理由

 とはいえ、リーダーシップにこれほどまでに多くの人が悩むのには、リーダーシップが変化したことよりも、ビジネスモデルを見極めた上でリーダーの役割を考えていないからです。

 つまり、カリスマが引っ張るリーダーシップなのか、後ろから支えるリーダーシップなのか、これがリーダーの趣味嗜好に寄ってしまっている。

 例えば、みんなを後押しすることが得意なリーダーであったとしても、ある段階では俺についてこいといった方が良い時もあります。「有事はフォロー・ミー、平時はアフター・ユー」って言葉があるのですが、火事が起こった時に、「ここでどうしたい?」なんて聞いていたら逃げ遅れてしまいますよね。

 つまり、状況によって対応を変えなければならないのに、自分はどうあるべきか、自分らしいリーダーシップといったものに引っ張られてしまっているので、うまくいかないケースが多いのです。

僕らは坂本龍馬になりたいわけではない

 そして、リーダーシップが機能しない理由のもう一つが、理論よりも、流行りの人物のリーダーシップに注目が集まる風潮です。そして、その方が本も売れ、人気の講座も生まれるため出版や研修業界が潤うのです。思い出してほしいのが10年前、オバマ大統領のリーダーシップをあれほど持ち上げて、たくさんの本が出ましたが、今では誰も彼の話をしません。研修業界も同じです。

 リーダーシップというのは、ある意味人の気を惹きやすいもので、その内容を考えてみると、基本的に、扱うのは偉人とか英雄のリーダーシップで、最たるものが坂本龍馬。研修でも、出版社でもそういう偉人のリーダーシップを扱います。ただ、偉人たちのリーダーシップを分析し、僕らもそれを学ぼうとしますが、これが間違いなのです。

 なぜなら僕らは坂本龍馬になろうとはしていないから。ここがポイントで、究極的な話をすると、自分にとって非協力的な部下など、せいぜい5人、10人のチームをいかに上手に率いていくかっていうのが現実的なリーダーシップであるにもかかわらず、本や研修では、やれオバマだ、やれ坂本龍馬が出てくる。

 根本的な問題は「リーダーシップ」が言葉によって一括りにされている現状で、数十万人のリーダーシップではなく、10人程度のリーダーシップがわれわれには必要なのです。

 これは社長であっても一緒。スパンオブコントロールという言葉を使いますが、たとえ数万人の部下がいても、コントロールできるのはせいぜい20人。もちろん、政治家や革命家ならば50万、100万人のリーダーシップが必要でしょうが、働く現場に関していえば関係ない。

 それを「リーダーシップ」という甘い言葉で一つに括ってしまうので、うまくいかないのです。ですから、政治家や革命家に必要な数十万人の「大きなリーダーシップ」とわれわれが現実として必要とする「小さなリーダーシップ」を分けて考えるべきだと思っています。

本間浩輔氏

「リーダーシップをひとくくりにしてはいけない」と語る本間氏

小さなリーダーシップとは何か

「見極め」、「観察」、「介入」が小さなリーダーシップの要諦

 では実際に小さなリーダーシップ、5人から15人ほどの集団をどう導き、率いていくのかです。

 もう少し踏み込んだ話をすると、集団の中の協力的ではない人に対してどう向き合い、どう変化を促すか。メンバーをどう選ぶか、あるいは与えられた兵でどうやって戦うかです。

 具体的には、繰り返しますがビジネスモデルを見極めろということです。どういう成果を上げなくちゃいけないのか。その上で、組織にはどういう人がいて、彼らに自分がどういう風に介入すると結果を出せるのか、これを考える。

 今、日本中で起きている失敗というのは、ここを「自分らしい」と置き替えて「自分がどうしたいか」になった主客転倒の状態なのです。

 だからこそ、ビジネスモデルである勝ち筋を見極める力、その上で組織を観察する力、さらに人に対して介入する力。そこが小さなリーダーシップに求められるところなのです。

 特に観察力などはトレーニングできる分野で、私も絵画トレーニングを受けたので今まで美術館に行っても絵の前をスーッと通り過ぎるだけだったのが(笑)、光はどこから当たっているのかなど、絵を前にさまざまな仮説を立てながら多くの情報を得ることができるようになりました。

 今はハラスメントになるのでフォロワーのことも詳しく聞けなくなりましたから、観察力といった人を知る能力は今後さらに必要になってくると思います。

 彼女や彼氏の話も昔は飲み会の席で出ていましたが、今は禁句。だから私が働くヤフーでは「1on1」といった部下との1対1で話す時間を設けることなどで情報を把握するようにしています。

 そして、得た情報をもとにフィードバックして、最終的には組織のゴールを目指すチームにしていく。それが小さなリーダーシップの要諦です。

かつての日本企業では小さなリーダーシップができていた

 面白いのは、この小さなリーダーシップがかつての日本企業で結果的にできていたことです。

 どうしていたのかと言うと、かつての上長は仕事をしなかったのです。部長ともなれば、10時くらいに出社し、新聞を読み、昼飯を食べ、爪を切って、飲みに行く。高度成長期はそれでも会社はまわっていました。

 机の配置も島になっていて電話も貴重で部署にひとつの時代。もちろんネットはありません。

 ところがそんな上司でも、誰がどこでどんな問題を抱えているかが分かる。なぜなら、自分がかつてやっていた仕事だし、クライアントのことも、やりがちなミスも一緒だから。電話のやりとりも聞こえますから「ああこんな感じか」と把握できてしまう。上手くいっていなかったらタイミングを見計らって、「じゃあ飲みに行くぞ」と声を掛けます。

 観察もでき、介入もしやすく、小さなリーダーシップが取りやすかった。しかし今は、プレイングマネージャー化したので部下を観察している余裕はなく、フリーアドレスだからPC画面を見ていてもメールなのかネットで遊んでいるのかも分からない。

 さらに情報を聞き出す上でハラスメントもある。観察もできず、情報もなくなった結果、評価もいい加減になってしまった。

小さなリーダーシップのカギはコミュニケーション

 だからこそ小さなリーダーシップをもう一回磨く必要があります。繰り返しますが、ビジネスモデルを見極め、組織を観察し、人と人の関係にどういう風に介入するのか、この3つを磨いていく。これがリーダーの役割なのです。そして、そのためにはコミュニケーションをしっかりとることが大事です。

 例えば、私が関わるスポーツの世界は、企業よりも小さなリーダーシップを発揮することが難しいと思います。

 日本の人事制度は基本的にお金で人は動くという考えで設計されているのですが、スポーツやアートの世界はお金が第一ではなく、選手の近くにいたいとか、あの感動を味わいたいといった思いが優先しているので、そもそもの評価制度が合わないのです。

 だからこそ小さなリーダーシップをより意識しなければ組織はまわりません。そのためにコミュニケーションがカギになるのです。

 コミュニケーションで大事なことは頻度。

 例えば、苦手な人に勇気を持って話し掛けて、リアクションが微妙だったりすると話し掛けたくなくなりますよね。その際、心の中で、「おれは上長だぞ」とか思うと、苦手意識がますます高まっていく。

 一方で1日、2回も3回も話すだけでもコミュニケーションは良くなります。「半年に一回飲みに行くぐらいなら3カ月に一回ディナーを食べろ。3カ月に一回ディナーを食べるなら、月に一回ランチを食べろ。月に一回ランチを食べるなら週一回お茶をしろ。週一回お茶をするなら1日3分でもいいからスモールトークをしろ」という言葉もあるくらいです。

 結局は人間関係です。だから、僕はよく「明日のランチは一番嫌いな奴を誘え」と言います。すると何人かから誘われるんですけどね(笑)。

 仕事だからコミュニケーションなんて関係ないと言う人もいますが、いい仕事とは、いい仲間と仕事ができたときが一番頑張ったに違いありません。けれど、それが再現できないので仕事をお金で換算しようとしている。そこをちゃんと見極めて、小さなリーダーシップをうまく機能させるためにもコミュニケーションを大事にしなければならないのです。

 リーダーシップとは頑張らせることではありません。1人の人が頑張っても1年、2年と頑張り続けられるものではないので結果的に頑張った、イノベーションが起きたというような組織にするために必要とされているものなのです。(談)

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