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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

新型コロナ禍を追い風に変える注目スタートアップ企業

戸村光

シリコンバレーで起業し、企業と投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、資金調達、資本提携/協業、買収といったさまざまな事例を取り上げ、その背後にあるマネーの動きと企業戦略を、同氏が独自の視点で分析していく。(『経済界』2020年10月号より加筆・転載)

新型コロナ禍で急成長する企業を分析

 今回はコロナ渦で資金調達し急成長する企業を分析した。

 シリコンバレーを始めとする国内外の起業家・投資家へのインタビューを通して、各国の企業がなぜ新型コロナを追い風にすることができたかを考察した。日本のメディアではあまり取り上げられることのない、世界の市場環境をご覧いただけると幸いだ。

 私はシリコンバレーを拠点に企業の評価サービスを提供している。年間1万社を超える企業を分析しており、そのレポートを1500社を超える企業にご利用いただいている。今回はその評価サービスの中で配信しているレポート「注目企業分析レポート」の一部を、読者の皆さまと共有したいと思う。

最新スタートアップ企業
1500社以上の企業が利用する「注目企業分析レポート」

勢いづくモビリティ市場のスタートアップ企業

 モビリティ市場のスタートアップが続々と資金調達を行っている。モビリティ市場で特に注目されている技術/サービスは、「自動運転」「EV(電気自動車)」「シェアリングマイクロモビリティ(電動スクーターなど)」の3つである。

 自動運転技術開発は以前から注目されてきたが、ついに市道での実用化が目前に迫っている。実際に、ロボタクシー開発に注力している中国最大の配車サービスプロバイダーDiDi社は、自動運転車両を使っての配車サービスによる利用客のピックアップを、上海で数カ月のうちに開始することを目標としていると発表した。

 また、多くの企業がロボタクシーなど乗用車の自動運転技術に注目する中、長距離貨物トラックの自動運転を開発してきたTuSimple社は、10億ドル(約1070億円)以上のバリュエーションで調達を行った。

 電気自動車の高い製造コストがEV市場の成長を妨げるとは言われているものの、低燃費/高性能/低排出ガス車の需要増加と、自動車の排出ガスに関する中国政府の厳しい規制が追い風となり、2027年までに約86兆円の市場規模に達すると予想されている。

 直近では、米Rivian社が25億ドル(約2670億円)、米Karma Automotive社が1億ドル(約110億円)を調達するなど、各社で大規模な資金調達が完了している。

 しかし最近、世界最大のEV市場である中国では、新型コロナ・対米摩擦・テスラによる攻勢の三重苦により、EVバブルの崩壊が懸念されている。他の市場と比べると、スタートアップEVは初期投資が大きい上、成長率の予測も低いため、投資家は頭を抱えているようだ。

 一方、マイクロ(超小型)モビリティ市場の価値は、米国だけでも30年までに2千億〜3千億ドル(約22兆〜約33兆円)になると予測されている。世界的に見ても、15年以降、投資家はマイクロモビリティスタートアップに既に57億ドル(約6千億円)以上を投資している。

「遠隔医療」や「瞑想」関連のスタートアップが増えるヘルステック市場

 新型コロナの大流行以降、ヘルスケア/遠隔医療分野におけるスタートアップの人気が高まっている。仮想医師の診察、オンライン薬局、その他の遠隔医療サービスを提供するスタートアップは、人々が病院を避けてオンラインでサービスにアクセスしようとしたことにより、ユーザーが急増した。

 しかし、遠隔医療サービスの人気がコロナパンデミックを過ぎても継続するかどうかは不明だ。

 また、遠隔医療だけでなく「マインドフルネス」や「瞑想」関連のスタートアップも注目を集めている。直近では、子ども向け睡眠・マインドフルネスアプリを提供する米Moshi社が約13億円、瞑想アプリを提供する独Meditopia社が約17億円の資金調達を行っている。

 一方でヘルステック企業ではあるものの、ダウンバリュエーションで資金調達を実施した企業も見受けられた。中でもジムなどの店舗を所有する企業にとっては、新型コロナが相当な痛手であったことには間違いない。

 東京都内でジムを経営する多くの企業経営者は営業時間の改定を余儀なくされ、それが原因で日中、顧客からのクレームや退会手続きの電話が鳴り止まないと言う。

ロボティクス市場ではAMRとドローンが人気に

 最近の資金調達状況からみると、ロボティクス市場では、AMR(自律移動ロボット)とドローンが人気を博している。米Amazon社の倉庫でロボットが駆け巡っていることは数年前から周知の事実だが、依然として倉庫で活躍する物流ロボットの需要は高まっており、急成長を続けている。AMRに関しては、米Locus Robotics社のレポートを見ていただけると分かりやすいだろう。

 近年では、農薬散布やセンシング、点検、運搬など用途にあわせた産業用機体が普及し始め、ドローンの活用が身近な存在になってきたと言える。

 今後は日本のSpiral社が提供する屋内自律飛行ドローンのように、非GPS環境下で活用される小型機や、運搬などに活用される大型機の活用が進むことが予想され、産業機の種類が増えていくとみられている。また、インフラや設備点検の現場、防災関係機関によるドローンの導入がより一層進むだろう。

 その他にも、リモートワークを促進させる法人向けツールはこぞって、新型コロナの影響で企業価値が高まっている。分かりやすい例でいうと、日本で最大手のビジネスコミュニケーションツールであるChatworkはコロナ前に比べて株価を1.5倍に成長させている。

 また、仕事の効率化アプリを提供するJunify創業者で元楽天CTOの安武弘晃氏は「リモートワークが普及するにつれてセキュリティ事業が拡大している」と語る。

 新型コロナウイルスの影響で人がこれまで以上にネットに触れる時間が増える一方、脆弱なシステムに障害を与えるハッカーも増え、これまで以上にセキュリティが無くてはならないものとなっている。

戸村光

戸村 光(とむら・ひかる)──1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。