政治・経済

内閣府規制改革会議の農業ワーキンググループ座長を務めるフューチャーアーキテクト会長の金丸恭文氏。本業はITを軸にした経営コンサルティングだが、農業に関しては全くの門外漢だった。それでも「どこに最大の問題があるのか」を見極めるコンサルタントの目を存分に発揮。それまでタブー視されてきた全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする業界構造の改革と、農業協同組合法、農地法、農業委員会法の改正に切り込んだ。農林族議員に対しても一人ひとりに丁寧な説得を重ね、JA全中の地域農協に対する監査・指導権、および賦課金の徴収制度の廃止を実現。さらに、農業生産法人に対する企業の出資比率上限を、25%以下から50%未満に引き上げるなど、多くの成果を達成した。昨年11月、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加12カ国による大筋合意が発表され、日本の農業もいよいよ本格的な国際競争に巻き込まれていく。その準備段階として、農協改革は大きな成果と言えるが、まだ改革は緒に就いたばかり。果たして日本の農業は今後どのような方向に向かうのか、金丸氏に聞いた。 聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森

ハイテク化による生産性向上が進む

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(かねまる・やすふみ)1954年生まれ、大阪府出身。78年神戸大学卒業後、TKC入社。ロジック・システムズ・インターナショナル、NTTPCコミュニケーションズを経て、89年フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)を設立。産業競争力会議、内閣府規制改革会議農業ワーキンググループ座長、経済同友会副代表幹事など数多くの要職を務める。

―― TPPの大筋合意についてどう評価しますか。

金丸 高く評価しています。時間を掛けながら、今後は政策面での支援ももっと考えられていくでしょうから、それで日本の農業が世界に打って出られるかどうかがポイントになります。国内は少子高齢化でこのままでは農業はジリ貧ですし、世代交代も進んでいません。もちろん家族経営があっても良いのですが、法人化して器を作らなければ、新たに人が入ってきません。農作物の価格で言えば、日本の作物は手間暇が掛かっていますし、消費者の要求が高いので品質は高い。ただ、世界に出て行こうとすると、外国との賃金格差やGDP格差があるので生産性をもっと高める必要があります。そうした中、TPPの大筋合意によって、トータルで8億人と言われるマーケットが得られたのは大きい。パートナー国との交流を通じて、農業者に付加価値が還元できる余地ができると思います。

―― そうした時代を見据えて、農協改革で大きな成果を出しましたね。

金丸 重要なのは、JA全中とも合意の上で改革したことです。何のためにやるのか、どんな時代が来ているのかという話をしながら、最終案についてJA全中に了承していただきました。そのプロセスは、思い出したくないくらい山あり谷あり、いばらの道ありでしたけれどね(笑)。例えば、JA全中ができた1954年は、三菱商事が再結成して現在の姿になった年でもあります。今の三菱商事のビジネスは、手数料収入が2割、残り8割はお金と人を出す付加価値提供による収入。片や農協は依然として農業者からの手数料収入に頼っていました。本来はそうしたノンリスクビジネスではなく、もっと農業者にお金を出してリスクを取るか、コンビニがフランチャイズに対して行うようなプロフィットシェアの形にしないと発展は望めません。

農家からビル・ゲイツが生まれる

―― 生産の効率化を図るために、具体的にどんなことに取り組むべきですか。

金丸 農業先進国がやっていることは、ハイテク化による付加価値向上と生産性向上です。今は大学の農学部に行かれた方も農業を継承する人は少なく、企業に入る人が大半だと思いますが、これから農業を営むためには、経営やITを学ぶ必要があります。ITができなければ、できる人と組めば良い。国によっては、センサーの活用や、さまざまデータ収集などを行いながら生産を行っています。日本は自分たちで牛も豚も鶏も米も牛乳もすべて国産でやろうとするし、消費者もそれを求めます。でも、例えば畜産ならオーストラリア、乳業ならニュージーランド、野菜ならオランダ等、さまざまな国の長所を採り入れて真似すれば良いのではないでしょうか。スペインのイベリコ豚のように、ブランド化に成功すれば価格が高くても消費者に認められます。アジアの人々が、日本の農作物を1.5倍や2倍の値段で買うようになる時代が遠からず来るでしょう。

―― 大学で農学部に入った人が肝心の農業に戻ってこない状況は深刻だと思いますが、きちんと稼げて、魅力ある仕事になり得るのでしょうか。

金丸 なり得ると思います。ただ、今のままでは駄目です。当社の社員にも農家のご子息がいますが、彼らに「お父さんに農業を継げと言われなかったの?」と聞いたら、ほとんどの人が言われないと答えました。

―― 苦労させたくないということですね。

20160308FUTURE_P02金丸 そこがある意味本質とも言えます。今の状況のまま、生産額も所得も減り続け、上がっているのは平均年齢だけという産業に今から参入する、または継続することはかなりのリスクです。さらに、天変地異や異常気象にいつ見舞われるか分からない。リスクを負っても、それらに見合うリターンがなさすぎるのです。本当にやる気のある農家に、土地も人も集まって、今より大規模化していく必要があります。

―― 国土条件から、日本の農業はどうしても大規模化で不利です。グローバル競争で、それは致命的な弱点にはなりませんか。

金丸 大規模化して価格で勝負するには日本は確かに不利なので、クオリティーやおいしさで勝負していくしかないでしょう。

―― 希少価値やブランドで勝負するポジションを目指すべきだと。

金丸 アグリファクトリーをつくるにしても、日本で作ることにこだわる必要はありません。かつて自動車業界も日本の工場で生産していましたが、マーケットに近いところに工場を持ったほうが良いため、海外進出が進みました。今後は農業を目指す人たちの中からもグローバルな人材が出てきて、それぞれの地域に合った作り方ができるようにするという発想が必要です。

―― 農業者が経営者になるというのは現実的なのでしょうか。

金丸 農業者の平均年齢は66歳ですから、もう少し未来を見ないといけないですね。40歳以下の方も数パーセントいるので、その中から人材が出てきてほしいと思います。企業の参入と家族経営はバッティングすると思われがちですが、農家が自分たちで出資して、株式会社か有限会社をつくれば良いのです。経営が苦手なら外部から経営者を連れてくる方法もあります。マイクロソフトのビル・ゲイツは、世界中に商品が広まって会社が伸びていた時期に、著名なパソコンメーカーから社長をスカウトして、マネジメントを任せました。日本の農家もそうした発想を持つべきです。

―― 日本の農家からビル・ゲイツが出れば相当面白いですね。

金丸 可能性は大いにあります。その可能性を残していくためにも規制改革は必要です。若い人が農業を始めようと地方の市役所に行っても「土地はないよ」と門前払いされ、農協に行っても「そんなに甘いものではない」と諭され、農業委員会に行っても「何しに来たんだ」と言われるような状況では駄目です。本来は、熱烈歓迎されるようでないといけない。当社はIT企業ですが、コンピューターやプログラミングの経験がない人を雇って、社内で教育するプログラムを持ち、一人前に育てている。来た人に農業の経験がないからダメだというのでは、話になりません。

今後は農業を取り巻く環境も変えていく

―― 企業の農業への参入については、出資比率が50%未満に制限されていますが、これも変わっていくでしょうか。

金丸 問題は土地を何が何でも手に入れたいかということです。所有にこだわれば過半数を取らなければなりませんが、たとえ49%でも他の株主を説得してあと2%の賛同を得られれば良いのです。それができないようなら、そもそも駄目だと思いますから、実質的には現状でもほぼ解禁と言って良いと思います。

―― 今後、規制改革会議で議論していくテーマは。

金丸 これまでは農業者の生産性向上というテーマで議論してきましたが、農業者の努力ではどうにもできない分野について検討するようにと、政府からは言われています。例えば農業機械は国際的に競争力があるのか、農協がもっと頑張って高価な農薬や肥料のコストダウンを行うことはできないのか、あるいは消費者に製品が届く前の無駄な物流費を削る方法がないのか、等です。現状、農家は売価については何もできないまま、常にコストダウンを要求される状況にあるので、農業者を取り巻くすべての環境をトータルで見直すように求められています。

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