マネジメント

大統領の仕事は、世界のリーダーとして国民の安全を確保し、国を繁栄させる仕事である。経営者の仕事も、社会のリーダーとして、お客様にお応えし、会社を繁栄させる仕事だ。そのスケールこそ違っても、厳しい環境に置かれたなかでリーダーシップを発揮しなければならない職性の本質に違いはない。本連載では、ドラッカーが記した「大統領のための六つのルール」から、企業経営者にとっても参考になるリーダーシップの「本質」に迫る。

マネジメントとは何か

ドラッカーCATCH

ピーター・ドラッカー (c) Sipa Press amanaimages

 まずは、マネジメントについて考えを深めていきたい。

 私たちの暮らしは、もともと自給自足だった。明かりが必要な時は火を起こし、水が必要な時は川に行った。種を植えて野菜を育て、山へ行って山菜を採取し、鶏を育てて卵を食べた。やがて物々交換が始まって物が流通し、貨幣があらわれ、経済が生まれた。

 現在は、自動的に電気がつき、蛇口をひねれば水が出る。欲しい物をネットで注文すれば翌日届くようにもなった。このように、かつて人々は自給自足していたが、今ではすべて企業が作った物を買って生活している。〝私たちの暮らしは、企業が作り、企業が提供するものですべて成り立っている。〟

 また、交通事故が起これば救急車が駆けつけ、山で遭難すればレスキュー隊が助けに来てくれる。体調が悪くなれば診察してくれる病院があり、火災が起これば消防車が火を消しに来てくれ、繁華街では警察が常にパトロールしている。〝私たちの安全は、それぞれの分野で運営される組織の働きによって支えられている〟

 

「いまや、あらゆる先進社会が組織社会になった。経済、医療、教育、環境、研究、国防など主な社会的課題はすべて、マネジメントによって運営される永続的存在としての組織の手にゆだねられた。一人ひとりの命とまではいかなくとも、現代社会そのものの機能が、それらの組織の仕事ぶりにかかっている。」

ピーター・ドラッカー

 

マネジメントは組織のための機関である

 一人ひとりの人間が、安心して日々を過ごせる社会であるためには、「公」が必要だ。「公」とは、共感という絆で結ばれた組織のことだ。

 その組織の代表格が、企業である。もちろん、企業は社会を構成する一つに過ぎない。しかし企業の経営者が現代の社会においてある種の権力を持つに至った。経営者の決定が、そこで働く、数十人、数百人、あるいは、数千人、数十万人の生活に大きな影響を与える。健全な組織の運営なくして個人は安心を得られず、個人の尽力なくて組織の運営は成り立たない。道理に適った組織運営こそが、健全な社会を成り立たせる。

 

 「マネジメントは組織のための機関である。組織がなければマネジメントはありえない。その組織は社会のための機関である。組織は、社会、経済、個人が必要とするものを提供することを目的とする。」

ピーター・ドラッカー

 

 社会に対する使命に基づいて組織が運営され、そこで働く一人ひとりが、想いを合わせて社会に良い影響をもたらすこと―。それこそが、人間が安心して生きていける社会の姿であり、その英知が〝マネジメント〟なのだ。

 人間なくしてマネジメントが先行することはない。どんなに優れたマネジメントも、それを実行するのは人間だ。事業が成功するかしないかは、リーダーが善きマネジメントを務めるかどうかで決まる。

 ドラッカーは、「大統領のための6つのルール」と題して、マネジメント上の6つのルールを明らかにしている。

 

弱い大統領であっても、マネジメント上の六つのルールを守る限りは非常な力を発揮することができた。逆にいかに強い大統領であっても、それらのルールを守らなければ力を発揮することができなかった。

ピーター・ドラッカー

 

 弱い大統領であっても、ある6つのことを守った人は力を発揮することができ、たとえ強い大統領であっても、6つのことを無視した人は力を発揮することができなかったとはっきり言っている。

 「大統領のための六つのルール」と題し、ドラッカーが語った「マネジメント上の6つのルール」とは何だろうか。ルールという言葉を聞くと「誰かがつくった規則」のような意味として聞こえるかもしれないが、ここでいうルールとは原則のことである。原則とは、物事が成り立つおおもとのことだ。

ドラッカーが語った「マネジメント上の6つのルール」

 「マネジメント上の6つのルール」はいずれも、米国の歴代の大統領の成功と失敗を通して、それらの行動と結果から、リーダーが「行うべきこと」と「行ってはならないこと」を教えてくれている。その内容は次のとおりだ。

 ・第一のルール 何を行わなければならないかを問え

・第二のルール 集中せよ、二兎を追うなかれ

・第三のルール あまりに当然と思われることなどありえないと思え

・第四のルール 細かいことに手出しをするな

・第五のルール 政権内に友人を入れてはいけない

・第六のルール 当選後はキャンペーンをやめよ

  「第一のルール 何を行わなければならないかを問え」は、ハリー・トルーマン元大統領の事例を通して、やりたいことではなくやるべきことを考えることが必要だということを指摘している。

 「第二のルール 集中せよ、二兎を追うなかれ」は、ルーズベルト大統領、リンドン・ジョンソン大統領、レーガン大統領が定めた政策を通じて、最も重要な仕事に力を注ぐことの必要性を示唆している。

 「第三のルール あまりに当然と思われることなどありえないと思え」は、クリントン大統領の仕事ぶりを通じて、どんな仕事も失敗するリスクがあることを教示している。今すぐにでも、アメリカの現職の大統領に伝えたいくらいだ。

 「第四のルール 細かいことに手出しをするな」は、カーター大統領やルーズベルト大統領が、自身に課した責任の内容を通じて、リーダーの仕事のやり方を明言している。

 「第五のルール 政権内に友人を入れてはいけない」は、リンカーン大統領やルーズベルト大統領の意思を紹介し、公私の区を守らなければならないリーダーの厳しさを教えている。第五のルールもまた、トランプ大統領に伝えたい。

 最後に、「第六のルール 当選後はキャンペーンをやめよ」は、大統領に就任したばかりのケネディ大統領にハリー・トルーマン元大統領が言ったアドバイスの内容を通じて、リーダーが果たすべき職務を教えている。

冒頭に申し上げた通り、本連載では、企業経営者が学ぶべきリーダーシップの「本質」に迫る。今回から「第一のルール 何を行わなければならないかを問え」から順番にお伝えしていく。

ドラッカー「リーダシップとは正しい事をすることである。」

 1945年に米国の大統領に就任したトルーマンは、就任前に公約したことは「国内の経済を改革すること」だった。国内の経済改革は、彼が一番やりたい仕事だった。しかし、大統領就任後、自分のやるべきは「国内の経済を改革すること」ではなく、「国外のトップを交流すること」だと考えを改めた。

 当時の世論は、トルーマンを「リーダータイプではない」と揶揄していた。彼は大統領として大きな期待をされていなかった。

 しかし、彼には「自分のやりたい仕事」に引っ張られず「自分のやるべき仕事」を考える能力があった。彼は「何を行わなければならないかを問い、それを決断する真摯さがあった。

 その結果、彼は外交についてアメリカ史上最高の成果をあげた。「マネジメントは物事を正しく行う事で、リーダーシップとは正しい事をすることである。」とドラッカーは言った。 

 リーダーとは「リードする人」のことで、シップとは「振る舞い」を意味する言葉だ。厳しい現実の中にあって、物事を価値ある方向へ導ける人こそがリーダーといえよう。「何を行わなければならないかを問え」という仕事こそリーダーが引き受けなければならない第一の要件なのだ。

 今あなたがリーダーとして、何を行わなければならないかを問うたとしたら、どんな仕事が浮かび上がるだろうか。

 

山下淳一郎(やました・じゅんいちろう)東京都出身。ドラッカー専門のマネジメントコンサルタント。トップマネジメント株式会社代表取締役。外資系コンサルタント会社勤務時から企業向けにドラッカー理論を実践する支援を行う。中小企業、上場企業の役員を経て経営チームコンサルティングファームのトップマネジメント株式会社を設立。現在、上場企業向けにドラッカー理論を導入した役員研修、管理職研修などを手掛けている。著書に『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(同友館)『ドラッカー 5つの質問』(あさ出版)などがある。

 

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