マネジメント

【動画有り】今でこそ口コミサイトはさまざまな分野で存在するが、15年ほど前はまだごく一部にしか認知されておらず、ビジネスとして成り立つのかも不透明だった。そんな時代に事業をスタートし、インターネットの口コミによる結婚式場選びを定着させたのがウエディングパークだ。社長の日紫喜誠吾氏と同社の歩みを追った。(取材・文=吉田浩)

 

日紫喜誠吾・ウエディングパーク社長プロフィール

 

1976年生まれ。98年同志社大学卒業後、キーエンス入社。営業マンとして優秀な成績を残すも、2000年に創業間もないサイバーエージェントに転職。メディア製作、広告営業を経て、04年にウエディングパークに参画、05年に社長就任。ブライダル業界における口コミサイトの先駆け的存在として、日本最大級のサイトに成長させる。

 

結婚式場選びの口コミサイトで先駆け的存在のウエディングパーク

 

 飲食店や宿泊施設選び、就職、進学、習い事、不動産など、あらゆる情報収集においてグーグル先生のお世話になるのが当たり前の昨今、口コミサイトを大いに活用している人もいるだろう。ネガティブな情報も含めたユーザーの生の声の価値を、企業も無視できない時代になった。

 そんな口コミサイトが他の分野に先駆けて普及したのは、意外なことにブライダル業界である。

 口コミサイトという言葉がまだ一般的でなかった時代から、日本最大級の結婚式場サイトをつくりあげたのがウエディングパーク社長の日紫喜誠吾氏だ。現在、国内の式場探しを対象とした「ウエディングパーク」、海外挙式の口コミとフォトサイト「ウエディングパーク海外」などを展開、ほかにもフォトウエディング情報サイト、婚約・結婚指輪の情報サイト、ウエディングドレスの口コミサイトなども手掛けている。

 もともとウエディングパークは1999年の設立で、2004年にM&Aによってサイバーエージェントが子会社化、口コミサイトとして再スタートしたという経緯を持つ。自社によるメディア構築にこだわりを持つサイバーエージェントグループの中では、一風変わった存在だ。

 最近では単なる式場の口コミだけでなく、ユーザーニーズに合わせてサービス内容も変化している。例えば、結婚式に至るまでの花嫁の準備を時系列に沿って写真で紹介するなど、よりリアルな体験談を楽しめるよう、情報の出し方を工夫しているという。

 淘汰の激しいサイバーエージェントグループのメディア事業において、ウエディングパークはその黎明期から現在まで生き残ってきた。日紫喜氏はいかにして市場を開拓し、口コミという新たな形態をブライダル業界に浸透させていったのだろうか。

 

ウエディングパークと日紫喜誠吾社長の歩み

 

大企業でのキャリアを捨てサイバーエージェントに入社

 同志社大学を卒業後、日紫喜氏が就職したのはテクノロジーカンパニーとして名高いキーエンスの大阪営業所。学生時代から起業願望があり、「ゆくゆくはスティーヴン・スピルバーグのように感動を提供する大人になりたい」という純粋な夢を抱いていた。そのためには「経営者になって、何か形を残して世の中を幸せにしたい」と考えていたという。

 そんな思いを抱きながらも、まずは仕事を覚えるために入社したキーエンスは実力主義で有名な会社。若くても結果を出せば認められるという点が魅力だった。理系出身ながら営業マンとしてキャリアをスタートさせた日紫喜氏は、初年度から新人の中で全国2位の成績、翌年には営業マンの西日本代表として表彰されるなど、順調な滑り出しだった。

 営業スタイルは本人曰く「さわやかに厚かましく」。客先の工場長など、年配のハイレベルな人間たちに揉まれる中で実力を磨いていった。

 だが、一方で焦りも感じていた。経営者になりたいという願望はずっと持ち続けていたものの、何から行動すれば良いのか分からない。折しも、世間はネットベンチャーの黎明期。自分と同世代の若者たちが起業家として台頭し始めていた。その中でも、サイバーエージェント社長の藤田晋氏にはただならぬインスピレーションを感じた。

 「営業で自信は深めたのですが、どうやったら経営者としてのステップに移れるか、悶々としていました。でもあるとき、『ビットバレーの鼓動』という本を読んでいると、藤田社長の文章が心に引っかかって、熱い人だなと。直感でこの人の傍で社長業を見て学びたいと思ったんです」

 勤務先のキーエンスは業績絶好調、かたや当時はまだ海の物とも山の物ともつかないベンチャー。当然ながら会社の人間たちからは大反対を食らう。

 そんな周囲の声を「人生ワンチャンス」と振り切った日紫喜氏は2000年に上京、サイバーエージェントに入社を果たすことになった。

結婚式場から口コミサイトへのクレームが続出

 ウエディングパークに参画後、ほどなくして社長に就いた日紫喜氏は、顧客の厳しい反応に直面する。

 「口コミサイトとしてスタートを切ったのは、ツイッターもフェイスブックもない時代。さらに、ブライダル業界はアナログな世界だったので苦労しました」と、振り返る。

 「壁に穴が開いている」「柱が邪魔で新郎新婦が見えにくい」といったネガティブ情報も載せる口コミサイトに対して、顧客企業の多くが拒否反応を示した。毎日のようにクレームの電話が鳴り、「営業妨害だ」とののしられることもあった。

 そんな場面で発揮されたのが、前職で鍛えた営業力だった。

 「奇策はなく、地道にやりました」と言うように、日紫喜氏はクレームを入れた顧客のもとに自ら出向いて、会社としてのスタンスや事業の将来性について熱意を込めて説明して回った。「ピンチはチャンス」と捉え、顧客に理解を深めてもらう努力を続けていった。

 「ネット企業はどうしても軽いイメージがあったので、自分自身を見てもらおうと思ったんです。結婚式場の経営者がメンバーの業界団体の会合にも通って、そこで自分を信用してもらえれば事業の説明ができるだろうと。そういう集まりを面倒がるネット業界の人たちもいましたが、泥臭いお付き合いをしているうち、幹部の方々が勉強会を開いてくれたりするようになりました」

 とはいえ、参考になる他の口コミサイトもほとんどなく、独自に試行錯誤するしかない中、経営的に厳しい状況はしばらく続いた。

事業撤退のピンチを乗り切ったウエディングパークと日紫喜社長の信念

 サイバーエージェントグループでは、CAJJプログラムと呼ばれる制度によって、新規事業の撤退ルールが厳密に決められている。事業の成長度合いによってサッカーのJリーグさながら、組織をJ1~J3に格付け。収益面で各カテゴリーの基準を満たさなければ撤退という厳しさだ。

 ウエディングパークも、初期のころは事業撤退寸前まで追い込まれた。期限までに収益目標達成が絶望的な状況となり、当時20名ほどいた社員の半数ほどがやめたいと言い出したのだ。この時、「経営が厳しくなれば社員が離れていく」という現実を日紫喜氏は思い知った。

 残された道は藤田社長との直談判。藤田氏に呼び出された日紫喜氏は、収益は追いついていなくともユーザー数自体が伸びている状況を必死に説明し、例外的に数カ月だけ事業継続の承認を獲得。最終的に目標をクリアし、撤退を免れるという綱渡りだった。

 「そのときに学んだのが、苦しいときに団結できる社風がなかったということ。そこから会社のビジョンや理念を作って、社風を強みにできるようにしなければならないという教訓が得られたんです」

 顧客から広告出稿をすべてやめると言われたこともある。それでも続けられた理由についてはこう答える。

 「多くのカップルにとって、結婚式は一生に一度の絶対に失敗したくないイベントなので、式場の良いとこだけでなく悪い部分も見たいのは当然のことです。誹謗中傷以外ならネガティブな情報もすべて載せると決めていたので、スタートから5年ぐらいは自分自身で口コミの承認をしていましたね。ご理解を完全に頂けるまでに7~8年はかかりました」

 ポリシーは曲げない一方で、顧客とのアナログな人間関係も大事にしてきた日紫喜氏。努力の甲斐あって、いったんは絶縁状態になった顧客が戻ってきたケースもあるという。こうした苦労は、後に社員たちが団結するためのヒストリーになったと語る。

 

ウエディングパークの今後と新たな展開

 

 インターネットによる結婚式場選びが一般的になった現在においても、広告出稿自体は雑誌が依然として上回っている。そのため、ネット広告による集客を後押しする体制を拡大し、式場経営の効率化に貢献したいと日紫喜氏は語る。

 そこで、ウエディングパークが現在力を入れているのが、アドテクノロジーへの投資だ。従来は自社メディアの広告枠販売が中心だったが、ブライダル業界のネットリテラシーの向上に伴い、優秀なネット広告を顧客に選んでもらう方向にシフトしている。

 また、2016年には人工知能(AI)の研究ラボも立ち上げた。ここではチャットボットの導入で簡単に式場情報が得られたり、AIがユーザーの悩みに応えたりといった試みが行われている。このほかにも、カップルの記念日を教えてくれるアプリの開発など、将来的な自社サービス拡大の可能性を追求している。

 「結婚式場自体は、運営を含めてまだアナログな世界なので、IT化の相談が来ることもよくあります。メディア事業が今はメインですが、これらの研究成果がリアルな場のソリューションとして提供できるのではないか。さらに、人材育成などの面でもアプローチできるのではないかと考えています」

 メディア運営を通じて、ブライダル業界のアップデートに貢献してきたウエディングパーク。今後は結婚式場のアドバイザーやコンサルタント的な立場としても、活動領域が広がっていくかもしれない。

 

 

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