政治・経済

6月3日、経団連の定時総会で米倉弘昌・住友化学会長から榊原定征・東レ会長へのバトンタッチが正式に行われ、経団連の会長が交代する。1946年の発足から日本経営者団体連合会(日経連)との統合を経て12代目にあたる米倉経団連会長はどんな足跡を残したのか。

 

政治との関係に苦慮した在任期間

6月に経団連会長を退く米倉弘昌氏(Photo:時事)

6月に経団連会長を退く米倉弘昌氏(Photo:時事)

 2010年5月27日、東京・大手町の経団連会館で就任後初めての会見に臨んだ米倉氏は「経済の活性化」を最優先課題に掲げ、政府に頼らずに民間企業の成長戦略を描く考えを示した。長引くデフレで国内市場は縮小し、海外では新興国の追撃を受け厳しく国際競争力が低下していた。逆風を跳ね返すには民間力しかない。意欲満々の氏は最後にトレードマークの白い眉毛を一段と下げながら「財界総理と言われるのは大嫌い」と破顔一笑した。だが、前途には困難がいくつも待ち構えていた。

 ひとつ目は「政治との関係」だ。経団連会長は企業の成長をとおして国民の生活や文化の向上に貢献することが使命だ。壮年時から住友化学の先達のスタッフとして経団連活動に加わってきた米倉氏はその使命を熟知しており、鳩山由紀夫首相、菅直人首相と〝アンチビジネス〟政策を掲げる民主党政権とはもともと水と油だった。

 対立が本格化する契機となったのは11年3月の東日本大震災だ。民主党政権下では、かつて存在した経団連と官邸とのパイプが断絶して情報が錯綜。米倉経団連は被災地の自治体や企業と直接連絡をとって救援物資を送り、義援金を集めた。震災にともなって発生した東京電力の福島第一原子力発電所の事故では、事故当初から東電擁護の立場を崩さず、中部電力の浜岡原子力発電所の停止要請など、迷走を繰り返す菅首相を率直な言葉で糾弾した。

 だが、政権との関係が希薄化するにつれ、経団連の影響力も低下した側面は否めない。

 12年末に第2次安倍晋三政権が発足してからは、首相に同行して中東やインドも訪問し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)やアフリカ開発会議(TICAD)などの国際会議では政府間協議と併せて開かれる民間の意見交換会にも積極的に参加。また政党に対する政策評価を再開して「高く評価する」と持ち上げ、デフレ脱却のための政府の賃上げ要請にも応じた。

 それでも経済財政諮問会議など政府の会議の民間議員選定で経団連が蚊帳の外に置かれるなど、自民党政権になっても政治とのぎくしゃくした関係はいまだに続いている。一部には米倉氏が当初、安倍政権の掲げるアベノミクスを「無鉄砲」と批判したためという観測もあるが、もはや経団連が豊富な政治資金を背景に政策や人事に注文を付ける時代ではないということだ。

思いを残した「中国」「後継人事」

 米倉氏は住友化学でシンガポールやサウジアラビアでの社運を懸けた大事業を成功させてきた国際派の経営者だ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や経済連携協定(FTA)など自由貿易を促進する政府間協定の締結を応援し、主要先進国に比べて高過ぎる日本の法人実効税率の引き下げにも意欲を示し、民間外交にも熱心に取り組んだ。

 経団連会長は海外では日本企業全体の代表者と見なされ、高いステイタスを誇る。自ら団長となって経済使節団を率い、各国の首脳や経済人と意見交換を重ねた。

 特に熱心だったのは中国だ。毎年9月の日中経済協会の訪中団に加え、先鞭をつけた御手洗冨士夫前会長(キヤノン会長兼社長)にならい、5月にも経団連単独の訪中団を出すことを決め、北京に経団連の駐在員事務所を開設。日中国交正常化40周年にあたる12年には記念事業の実行委員長にも就任した。だが、政府による尖閣諸島国有化や安倍首相の靖国神社参拝などを背景に日中関係は急激に悪化し、改善の糸口はつかめていない。

 「後継者の指名」も最後まで困難を極めた。

 経団連会長は次期会長の指名権を持つ。歴代会長の最大で最後の仕事は自身の後任を選ぶことだ。報道されているように、13年夏、任期4年目の仕上げの年に入っていた米倉氏は18人いる副会長の筆頭で日立製作所の川村隆会長(当時)を後継にと考え、同氏に口頭で就任を打診した。だが日立経営陣の若返りを念頭に置いていた川村氏は固辞。再考を迫られた米倉氏がたどり着いたのは、経団連副会長OBの榊原氏という選択だった。

 米倉氏も経団連のナンバー2にあたる評議員会議長(当時、現在は審議員会議長)からの横滑り組で、御手洗前会長から「あなたしかいない」と懇願されて会長に就任した口だ。旧財閥系の出身で就任時は73歳の高齢、そして現職の副会長でもなかったという自身の経験が榊原氏を説得する決め手になった。

 平坦ではない道を歩んだ米倉氏にとって、最大の困難は自身の健康問題だったろう。元来、グルメの大食漢で飲酒も喫煙も酒も制限なしに楽しんでいたが、次第に持病の喘息が悪化し、会長就任の翌年の11年春には夫人の助言もあって禁煙に踏み切った。ストレス解消策が食べることだけになったせいか、体重が増加して今度は腰痛に見舞われた。

 12年暮れには長時間立っていることが難しくなり、医師に「減量で腰への負担を減らすこと」と言われ、徹底した食事制限で改善を図った。会食やパーティーでも果物に口をつける程度で、約10キロの減量に成功したことを最後に付記しておく。

(文=ジャーナリスト/梨元勇俊)

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