家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた。(吉田浩)

 

ペット供養と仏具が与えるペットロスの癒し

 

ペットエンディング専門店誕生のきっかけとなった社長のペットロス体験

 ペットエンディング専門店「ディアペット」が営業を開始したのは2007年。創業者の仁部武士氏は檀家が数件しかない小さなお寺に生まれ、ベンチャー系企業など数社で働いたのち起業した。

 実家に持ち込まれた霊園開発の案件をきっかけに独立した仁部氏は、霊園運営の傍ら墓石販売も手掛けるようになる。そんなあるとき、勉強のために訪れた英国で、家族のお墓が中心の日本と違い、個人のお墓が多いことに驚いたという。

 「その時、少年時代に飼っていた愛犬にうっかりお餅を食べさせて死なせてしまったことを思い出したんです。ちゃんと火葬してやればよかったなと」

 個人のお墓という概念をペットに置き換えて、日本で展開すれば需要があるのではないか。そう考えた仁部氏は、ペット用のお墓の販売を開始。同時にインターネットでペット用仏壇、仏具の販売もスタートさせた。

 

ペット専用仏具がない環境でのスタート

 亡くなったペットをお墓に葬るには、まず遺骨の状態にしなければならないため、火葬のサービスも始めた。

 当時は、ペット霊園が火葬した遺骨を顧客に渡すサービスもあったが、供養についての知識がない、または顧客を騙すようなやり方をしている業者も少なからずいた。仁部氏は、きちんとした供養の方法を伝え、顧客が安心できるサービスを提供していったという。

 また、ペット仏具に関しても、当初は人間用の仏具にペットの足跡のシールを貼って間に合わせたような簡易なものばかりで、ユーザーからの不満が出ていた。そこで仁部氏はオリジナルのペット専門仏具をつくるために、陶器で有名な岐阜県多治見市の業者にアプローチした。

 「葬儀の簡素化などが進んで、人間用の仏壇、仏具が売れなくなってきていたので、これから大変な時代になるという部分を業者さんに訴えました。それで、ペット専用仏具を作ってもらえることになったんです」

ペット供養・仏具

ペット専用の仏具でしっかり供養を行うことが飼い主の安心感につながる

カラフルでデザイン性が高いペット仏具

 ペット専用の仏具は、人間用とはかなり違っている。たとえば人間用の仏具は基本的に白や黒基調のものが多いが、ペット用はピンクや青色、黄色など色合いもカラフルでデザインもさまざまだ。

 仁部氏と共に、創業直後から事業に携わってきた取締役統括事業部長の関口真季子氏はこう説明する。

 「仏壇にしても、人間用とペット用では意味合いが異なります。人間の場合は家の中に作るお寺としての位置づけで、ご本尊、仏像があるという感じですが、ペットの場合は骨壺を納める場所が必要なので仏壇を用意するという感覚です」

 骨壺、仏壇仏具、おりん、線香、ペットの毛や遺骨を納めるカプセル等、現在1200種類ものグッズを提供。愛犬や愛猫の姿を写真入りで残したいというニーズに応えるため、写真付きの位牌やクッションといったペットならではのものもある。

 また、仁部氏によれば

 「われわれが始めて最初の5年ぐらいは、仏壇仏具メーカーが参入してくる感じでしたが、最近は雑貨屋さんや写真屋さんが加わって色とりどりでデザイン性の高いものが出てくるようになりました。面白いところでは、テレビ台を作っていた業者がペット仏壇を製作して、人間の仏壇よりしっかりしたものができたりしています」という。

 仏具を揃えてしっかり供養することが、ペットロスに苦しむ人々の癒しに繋がっている。

ペット仏具

カラフルでデザイン性の高いペット仏具が、ペットロスに苦しむ人々の癒しにつながっている

 

「ペットロスカフェ」をペット仏具販売店に併設した理由

 

ペットロスの人々が交流して癒しを得る場所

 現在、ディアペットはネット販売以外にも東京、埼玉、大阪、名古屋に店舗を持ち、ペット仏壇・仏具の業界ではシェアナンバーワンとなっている。そうした中、新たに始めたのが、ペットロスに苦しむ人々が集って癒し合う「ペットロスカフェ」だ。

 アイペット損害保険社の調査によれば、ペットを失った飼い主の63.2%が「何らかの不調を感じ」、68%が「後悔していることがある」と回答。多くの人々が「突然悲しくなる」「疲労感、虚脱感を感じる」といったペットロスの症状を発している。

 仁部氏も仏壇・仏具の販売を通じて顧客と接する中で、こうした人々に数多く接してきた。そこで仏具販売店と併設する形で、ペットロスに苦しむ人々が交流できる場を設けることにしたというわけだ。

 カフェでは顧客同士の交流の他、同じくペットロスの経験がある店員も話し相手になってもらえる。亡くしたペットの種類や、話しかけなられたくない顧客のために、その時の気分を意思表示できるカードを用意するといった気配りもなされている。

 「実は、以前『ペットロスケア専門店』というキーワードでも仏具を販促したことがあります。ただ、それだとカウンセラーと勘違いされるということがあったので、『ペット仏具専門店』という言葉の方を使ってきました。ペットロスのケアは心療内科のお医者さんやお坊さんの仕事と思っていたので、ペットロスという言葉を封印していたんです。でも、顧客からペットロスの話を聞く機会が増え、これを機会に『ペットロスカフェを併設するペットエンディング専門店』としてやっていこうと考えました」

 カフェスタイルにしたのは、「モノを売るだけでは限界を感じたから」とも仁部氏は言う。誰かが一方的にペットロスを癒す役割を担うのではなく、ペットロスを克服した経験のある人が同じ状況の人を癒し、さらにその人が別の人を癒すような仕組みづくりを目指している。

 カフェを運営するにあたっての課題は、ペットを亡くした状況や、属性の違う顧客同士の交流をどう上手くコントロールするか、という点。東京本店でのオペレーションがうまく行けば、大阪など他店舗で展開する可能性も見据えているという。

ペットロスカフェ

ペットロスを癒す場として開設した「ペットロスカフェ」

 

ペット仏具の持つ意味、供養の仕方を丁寧に説明

 今後の会社の方向性としては、「ペットのエンディング」という分野に引き続きフォーカスすると語る仁部氏。ペット供養の分野では競合も増えているが「ペットの遺骨も見たことがない業者も増えているので、そこで成り立つ商売にはなってほしくないですね」と、業界の先駆者としてのノウハウを武器に展開していく考えだ。

 ペット関連ビジネスについて、以前より世間の認知度は上がったが、生き物の生死をビジネスに結び付けることに対する批判はいまだにある。最近では、一部ペットショップの仕入れ方法などに世間からの批判が強まっている状況もあり、ペット関連業界全体をグレーとみなす風潮も見られる。

 そんな中、仁部氏は供養する意味や仏壇、位牌といった仏具の意味などを丁寧に伝えることによって、信頼構築に取り組んでいるという。

 「人間が亡くなると、通夜があり葬式があり四十九日がありとやることが決まっていますが、仏壇・仏具業界やお坊さんも含めて、それらの必要性をあまり伝えてきませんでした。そのツケが今回ってきて、必要性を感じない人たちが増えているのではないでしょうか。ペット供養では仏壇・仏具の持つ意味をしっかり説明したり、供養の仕方を提案したりということを丁寧にやっていきたいと思います」

 近しい人が亡くなったとき、業者に言われるがまま、葬儀や仏具の購入などを行った経験がある人は多いことだろう。

 ペット供養では亡くなった対象に対して真摯に向き合う人が多いため、ある意味誤魔化しの効かない分野とも言えそうだ。

仁部武士社長と関口真季子取締役

ペットロスカフェをオープンさせたインラビングメモリーの仁部武士社長(右)と関口真季子取締役

 

株式会社インラビングメモリー概要

2002年11月、石材店として創業。07年より仏具の小売り、ペット霊園への卸売り販売を開始。人の手元供養・位牌専門店「ディアファミリー」、ペット仏壇仏具「ディアペット」、猫専門仏壇・仏具「ディアキャット」などで展開。19年2月、ペットロスカフェを併設したペットエンディング専門店「ディアペット東京本店」をオープン。

 

 

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