昨今、慢性的な人手不足が企業の成長を阻害する大きな要因となっているが、中でも最も深刻であると言われているのがサービス業だ。そうした流れにいち早く対応し、新たなビジネスに乗り出したキング。極力、人の手を介さないビジネスに取り組むという同社の戦略を聞く。
飲食事業から多角化経営へ
1992年の創業時から、飲食店の多店舗展開やカラオケボックスなどのアミューズメント事業を手掛けてきたキング。貸しビル事業や貸し駐車場事業も手掛け幅広い分野で順調に成長してきたものの、2011年の東日本大震災を契機に徐々に事業をシフトしてきたという。
「震災後は外出や外食を控える傾向があり、アミューズメント系は一気に厳しくなりました。そこで、今度は家庭向けのビジネスをやってみようと考えて開発したのが『ゴリラソース』です」と語る中村利哉会長。
ゴリラをシンボルマークとするロゴデザインが特徴的なソースは、厳選した国産素材の旨味を最大限に引き出した味が自慢だ。業界は競合も多いが「今はまだ『100年後の老舗』を目指して種まきをしている段階で、すぐに大きく伸びる業態ではないと考えています」と地道に販売ルートを開拓している。
自由が丘駅周辺には、飲食業のノウハウを生かして「ゴリラソース」を実際に使用する飲食店も数店舗運営しており、連日多くのお客で賑わっている。
また、震災での原発事故を受けて再生可能エネルギーの需要が高まったことから、太陽光発電事業にも参入。グループ会社のゴリラエナジーでは、既に国内13カ所で太陽光発電所を運営している。
このエネルギー事業について中村会長は「一番のポイントは、発電所が増えてもそれほど人を増やす必要がないところです。飲食業ではどうしても多くの従業員が必要になりますが、今後人材不足がより進んでいく中で、われわれ中小企業は極力人の手を介さないビジネスでないと成長するのは難しいでしょう」
無人の店舗で効率の良い経営を
そして、同社が新たなビジネスとして注力するのが、18年12月に第1号店を出店した24時間営業のコインランドリー「LAUNDRY GORICO(ランドリーゴリコ)」だ。最新の大型洗濯機・乾燥機を導入し、靴を傷めずに洗える「スニーカーランドリー」も備えている。
「いわゆる駅近ではない目黒区の住宅地という立地ですが、店の周囲500メートル圏内の人口が8千人程度という条件を満たせば成り立つビジネスです。商圏が小さいので、コンビニのように競合同士の店舗が乱立して共食いする、という事態は避けられるでしょう」
ただ、住宅地であれば各家庭とも既に洗濯機を所有しているため、わざわざコインランドリーに出掛けるというニーズがどれだけあるか疑問にも思えるが、実際には学生街などよりも大きな可能性を秘めているようだ。
「例えば、共働きのご夫婦が週末にまとめ洗いをするためにお二人で来店する。あるいは、マンション管理組合の規約でベランダに布団を干せない方が、ダニ退治のため羽毛布団を洗濯乾燥する、といったさまざまなニーズにお応えしています」
そして「ランドリーゴリコ」の一番の特長は、洗濯や乾燥を待っている間の約1時間をどのように過ごしてもらうか、店舗を活用したさまざまな提案を行えることだ。1号店には、カフェ空間を併設するとともに最新のシミュレーションベースボール機を設置。幅広い年代層が楽しむことのできる店作りを心掛け、今後オープンする店舗では1人用カラオケボックスの設置も検討している。
各店舗は無人でのオペレーションを前提に、キャッシュレス決済の導入による集金業務の効率化も視野に入れている。今後は、コンパクトな商圏に無人店舗というメリットを生かして国内1200店の出店を目指している。
「一人暮らしの単身者や高齢者が人恋しくなった時、気軽に訪れることができるスペースにしたいですね」
洗濯目的のユーザー以外にも、多くの人が集まる地域のコミュニティー的な存在になれるのでは、と期待しているという中村会長。高齢者といえば「踏んだら壊れるゴリオルーペ」というユニークなキャッチフレーズで新たにルーペの販売も開始した。
「ゴリラソースもそうですが、お客さまに笑顔になってもらえるような楽しいネーミングを常に心掛けています」
中村会長のアイデアを次々と形にしながら、同社では今後もさまざまなビジネスに取り組んでいく。
会社概要
設立 1992年10月
資本金 1,000万円
売上高 60億円(グループ)
所在地 東京都品川区
従業員数 550人(アルバイト含む)
事業内容 外食事業、エネルギー事業、アミューズメント事業、貸しビル事業
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