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新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

ヤマハ発動機社長 日髙祥博氏

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成長を加速する。聞き手=榎本正義 Photo=西畑孝則

日髙祥博

ひだか・よしひろ 1963年愛知県生まれ。87年名古屋大学法学部卒業。同年ヤマハ発動機入社、2010年米国法人バイスプレジデント。13年MC事業本部第3事業部長、14年執行役員、17年取締役、上席執行役員。18年1月1日から現職。

強化された財務体質を背景に成長を加速させるヤマハ発動機

―― 社長に就任しての意気込みを。

日髙 これまでの「ひとまわり・ふたまわり大きな個性的な会社へ」という大きな方向性を変えることなく、ものづくりで輝く会社としてさらに実力を上げていきたい。柳弘之前社長(現会長)の時代に収益改善に取り組んでいただいたので、かつてないほど財務体質は強化されています。これを将来のために投資しながら、マーケティングやプランニングを強化することで、危機感を持ちながら成長のスピードを速めていきたいと考えています。

―― 足元の業績は好調ですね。

日髙 2017年12月期は営業利益が1497億円と過去最高を更新しました。特に二輪事業の利益率が伸びたことが寄与しました。5年ほど前に東南アジアでの戦略を転換。複数モデルで車体を共有化するプラットフォーム戦略が奏功し、二輪車事業全体の営業利益率が向上したためです。

―― 成長戦略の具体的な方策については。

日髙 現在の売上高約1兆6千億円のうち、約1兆円は2輪事業、約3千億円が船外機を中心としたボートやウオータービークルなどのマリン事業、それ以外がロボティクス、電動アシスト自転車などで約3千億円という構成です。この中で最も高い伸び率なのがロボティクス事業。全世界的な省人化投資が進んでいます。

特に中国は非常に多くの受注があり、この流れは数年続くでしょう。この分野は10年以内に倍になるくらいのポテンシャルがあると見ています。電動アシスト自転車も日本市場は既に60万台、ヨーロッパには200万台の市場があり、共に伸びています。自転車市場自体は何千万台もの市場があり、少しずつ電動アシスト自転車の市場にシフトしてきています。この流れは日本もヨーロッパも続くでしょうし、アメリカの市場開拓にも着手しているので、この先、非常に有望です。

マリン事業は船外機の大型化シフトなど高額化傾向にあり、10年スパンで見れば1.5倍くらいになると予想しています。産業用無人ヘリコプターにも取り組んでおり、農薬散布など農業の効率化は全世界的に必要になっているため、非常にチャンスがあると思っています。2輪事業はインド市場の需要、インドネシアの底打ち反転などをきちんと取り込めれば、2割から3割増は見込めるのではないかと見ています。ここは分母が大きいだけに大きな売り上げ貢献が見込めます。

日髙祥博・ヤマハ発動機社長は海外経験の長い国際派

―― これまでのキャリアで海外経験が長いと伺いました。

日髙 フランスに5年、オランダ6年、米国に2年半駐在しました。フランスの時はまだ20代で、何も分からないながら一生懸命仕事をしました。次のオランダでは中堅社員になっての赴任で、オランダはアムステルダムに欧州統括本部が置かれ、工場もいくつか持っていたので、それらの製造技術関係のプランニングを一手に行いました。時代の変遷に伴いスクラップアンドビルドが必要となっていたこともあり、私はヨーロッパを1つの組織体にまとめるべきだと考え、ヨーロピアンセントラルインベントリーマネジメントというものを企画しました。

それまでは国ごとにディストリビューターがあり、20の製品倉庫があったものを、4つに集約するプロジェクトです。ところが大きなビジネスモデルの変換だったので、トラブルが多発し、当時の社長から大目玉を食らいました。もっともその後のリーマンショックでは、この成果が発揮され、生産調整なども一気に行うことができたため、あの時断行していて良かったと評価されました。

08年に帰国し、任されたのは会社の成長戦略。その後、リーマンショックに突入し、業績は急降下しました。経営企画部にいた私は、成長戦略どころかリストラ案を作り、これが経営会議にかけられ、国内外の工場を縮小し、人員削減も断行することになりました。10年からは北米事業の再建のためにバイスプレジデントとして赴任しました。渡米する前に、米国では何をするべきか分かっていましたし、現地を見てまだ赤字ではあるものの、ポテンシャルがあったので黒字化は早いなと思いました。結果的には3年弱で立て直すことができました。

―― そうした海外を含め幅広い業務経験の手腕を買われての登板です。先ほどおっしゃった3つの柱それぞれが描いたとおりのいい形になりそうですか。

日髙 実際にはそううまくいくことばかりではないでしょうが、それくらいの気持ちで臨みたい。当社の社員はそういう気質なのでしょうか、どちらかというと前向きに頑張ろうと鼓舞したほうが力を発揮すると思います。もともとヤマハ発動機は楽器のヤマハから分かれた会社なので、100年以上の歴史がある日本楽器が持っていた社風なのかもしれません。

日髙祥博・ヤマハ発動機社長が胸に刻む「居安思危(きょあんしき)」とは

―― 守りより攻めが得意なのですね。

日髙 そのほうが楽しいし、好きなのだと思います。とはいえ私は企画畑が長かったので、ヤマハ発動機の創業者である川上源一さんの「居安思危(きょあんしき)」(孔子が編集した史書「春秋」の注釈書「春秋左氏伝」より)という言葉を常に胸に刻んでいます。調子の良い時ほど気を付けろという意味です。過去に3回ほど会社がおかしくなりかけたと先輩諸氏から聞かされ、気を付けろと言われましたので。早めに世の中の流れ、お客さまの価値観の変化を察知して、世の中のトレンドを見誤ることなく、新たな価値を市場に提供していきたい。

―― モビリティーとロボティクスを融合した次世代バイクの開発も進んでいると。

日髙 ヒト型自律ライディングロボットのMOTOBOTやフロント2輪でモーターサイクルのように傾斜して旋回する3輪コミューターLMWなどの取り組みをやりながら、その先には4輪もあります。これは思った以上にハードルが高いですが、年内には判断をしなければいけないと思っています。

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