今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩)
栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール
ピルボックスジャパンが越境ECで大ヒットを生んだ手法
SNSで火が付き販売個数が10倍に
少子化、人口減少で縮小する国内市場に限界を感じ、越境ECに活路を見出そうとする企業は増えている。特に、14億の人口を誇る中国は、多くの経営者にとって魅力的なターゲットだ。ただ、言語や商習慣、消費動向の違いといった課題を乗り越え、商売を成功させるのは簡単ではない。
そんな中、中国での躍進を原動力に、社員数わずか17人ながら売上高41億円という、驚異的な数字を叩き出しているのが東京都港区に本社を構えるピルボックスジャパンだ。
2016年以降、3年連続で売上高は200%増加。2002年の創業以来、安定的な経営を続けてきたが、ここにきて一気にブレイクした格好だ(グラフ参照)。現在、全社売上高の約半分を、越境ECで稼ぎ出している。
成長に大きく貢献したのが、独自開発の機能性表示食品「onaka(オナカ)」だ。2017年に中国のSNSで火が付き、その後1年間で売上個数が10倍に増加。累計で400万個を超える販売を達成した。
情報拡散を戦略的に展開
「実のところ、ここまで売れるとは予想していませんでした」と、栖原徹社長は語る。onakaは2016年に日本で販売を開始し、それなりに伸びていた商品。しかし、中国での爆発的ヒットは想定を超えていたという。
安全性が担保された機能性表示食品であり、内臓脂肪と皮下脂肪に着目したonakaは、20代女性を主なターゲット層としている。美容に関心の高いこの層のニーズを、的確に捉えたのが勝因と言える。
マーケティングに際しては、越境ECプラットフォーム上で展開した中国のKOL(キー・オピニオン・リーダー)による情報拡散が効果を発揮した。
さらに、中国版インスタグラムと呼ばれるRED、若者に人気のTikTok、WeChatなどで、ブログや動画を活用した口コミマーケティングも戦略的に実施。これらが相乗効果を発揮する形で、根強い支持を得ているという。
越境ECを成功させる秘訣とは
日本での販売実績と中国人の感性に訴える工夫
栖原氏によると、中国における有名人やインフルエンサーによる口コミマーケティングの爆発力は日本よりかなり大きいとのことだ。
「中国の消費者は少し前の日本と同じように、好きなタレントが身に付けているスニーカーやTシャツなどを欲しがる傾向が強い。熱し易く冷め易い国民性も影響していると思います」と言う。
しかし、一発花火を打ち上げただけでは、いつかブームは終わる。ヒットを再現性のあるものにするためにはどうすればよいのか。onakaがヒットした経験を通じて、栖原氏はいくつかのポイントを指摘する。
まず、独自性があり付加価値の高い商品であることが大前提。そして、大ヒットしていなくても日本における販売実績があり、小売りの店頭で目立つ商品であること。中国人のネットリテラシーは高いため、嘘っぽいPRはすぐにばれてしまう。信頼のおけるインフルエンサーが、自信を持って勧められる商品という部分が重要だ。
「メード・イン・ジャパンということで商品の有効性を担保したうえで、中国人の感性に刺さるようにしなければいけない」と栖原氏は語る。
感性に訴えるという部分では、商品パッケージのデザインなどを工夫することも必要だ。例えば、中国で流通しているサプリメント食品の多くが成分や効能を前面に打ち出しているのに対し、onakaはそのネーミングをはじめ、色味やデザインで視覚的に訴えるパッケージを採用し、若者の支持につながった。
さらに、人気が盛り上がっている最中も、切り口を変えて定期的に第2、第3のPRを打ち、プラットフォーム上での露出を高めることも怠ってはいけない。そうして口コミ数を維持することによって、ロングセラーに結び付くと栖原氏は説明する。
プラットフォームの特性把握と信頼できる現地パートナー選び
それぞれのプラットフォームの特性に沿った戦略を打つことも重要だ。
たとえば、中国最大の越境ECプラットフォームであるTモールの場合、女性客が多く比較的高額な商品が売れやすい、家電の販売からスタートした京東(JD)はサプリなどの販売は弱いがまとめ買いする層が多い。REDは口コミの数は多いが、あまり物が売れない、といった特徴があるという。
そうした傾向をつかみ、効率的な販売戦略を練るためには、現地におけるパートナー選びが重要になる。ピルボックスも越境ECを開始して以来、いくつかのパートナーと協業してきたが、その経験から学んだのは相性の大切さだ。
「必ずしも大企業と組む必要はなく、小さな会社でも自社商品の優先的に扱ってくれる相手を見つけることです。インフルエンサーを多数抱えているという売込みもありますが、簡単に話に乗ると失敗します。自分たちも痛い思いをしてきましたが、いろんな会社と組んでみて地道にやっていくしかないですね」と栖原氏は語る。
まだまだチャンスが豊富な越境ECの世界
サプリメントのような商品は一般貿易だと輸入規制が厳しいが、越境ECであれば成功する可能性が上がると栖原氏は言う。また、この分野で大成功している日本企業はまだ少ないため、今後しばらくは中小企業にもチャンスがあると見ている。日本であまり売れなくなったような商品でも、越境ECで再び注目されるケースもあるという。
「今後の目標は、3年後をめどに売上高70億円達成して、IPOも考えていきたいですね。それによって社員のモチベーション向上を図ったり、事業承継をしやすくしたいと思います」
ピルボックスでは今後、onakaをベースにしつつ、次のヒット商品を生むための取り組みを強化していく方針。継続的にヒットを生むことで、中国市場での存在感をさらに高めていく考えだ。
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