コロナ禍の巣ごもり需要が追い風となり急成長を遂げている動画配信市場。そこにデジタル領域で幅広い事業を展開するDMM.comが新たなサブスクサービスを立ち上げ、本格参入した。巨大資本の外資系から国内サービスまで群雄割拠のレッドオーシャンで後発となる同社の勝算を聞いた。聞き手=武井保之 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2023年2月号より)
エンタメを多角的に楽しむ、若年層を意識したサブスク
ーー この12月に新たなサブスクリプションサービスとなるDMMプレミアムおよびその主軸の動画配信サービス・DMM TVをローンチしました。
村中 日本では、1つの作品に対して、SNSでの交流、二次コンテンツ、グッズなどファンが作品の世界を拡張していく多角的な楽しみ方が定着しています。DMMは17領域60事業以上を手掛けるなか、エンターテインメント領域においては創業当初から幅広い事業展開に注力してきました。そんなDMMだからこそユーザーが作品を盛り上げる日本独自のエンタメカルチャーに寄り添うことができると考え、アニメをメインにした動画配信、漫画を含む電子書籍、ゲーム、2・5次元などの舞台演劇、関連グッズ販売等多様なサービスを横断的に楽しむことができるサブスクリプションサービスとしてDMMプレミアムを立ち上げました。
その主軸となるのが、同時にローンチしたDMM TV。基本的にSVOD(会員制定額配信)になりますが、PPV(都度課金)作品もラインアップするほか、ゲスト(非会員)で無料配信作品も楽しめる総合動画配信サービスになります。
ーー 動画配信ではこれまでにもDMM動画を運営してきました。
村中 DMM動画は1998年にVODとしてスタートし、黎明期のPPV市場を作ってきたと自負しておりますが、一方で世の中全体がサブスクに進んでいく流れのなか、この先10~30年サービスを継続していくことを考えたときには、PPVとは異なるサブスクネイティブ世代のSVODユーザー層を取り込んでいかないといけない。過去に2度ほどサブスク化にチャレンジしてきましたが、作品調達などが障壁となり継続できていませんでした。未来に向けてそこに振り切ることにしたのが、今回の新たなサブスクサービスのローンチです。
ーー ターゲット層や強化するジャンルはどう考えていますか?
村中 20~30代をメインユーザーに想定しています。そこに向けてのコンテンツをラインアップするうえで、まずはもともとのDMMの強みであるアニメを強化します。より若年層に向けた編成にしていきたいと考えていますが、スタート当初はある程度の幅を想定し、トライ&エラーを繰り返していくことになるでしょう。
動画配信単体ではなくプラットフォームで利益
ーー レッドオーシャンの動画配信市場への新規参入になります。
村中 そこは違う見方をしています。DMMは動画配信だけでなく、いろいろなサービスを扱うプラットフォーム事業の会社と位置付けています。ですから、動画配信を軸に単体収益を求める他社とは異なり、プラットフォームでどう収益を出すかというビジネスモデルです。
動画配信は入口であり、そこからさまざまなサービスを使っていただくことでプラットフォームを伸ばしていく。あくまで動画配信のDMM TVは、エンタメ総合サービス・DMMプレミアムの一部であり、DMM.comというプラットフォーム全体での収益に重きを置いて設計しています。他社サービスを直接的な競合とは考えていません。
ーー 月額料金は550円。他社動画配信サービスを意識した割安設定のように感じます。目標設定を教えてください。
村中 もちろん他社サービスを意識しながら、ユーザーが利用しやすい価格を目指しました。プラットフォーム全体で収益を上げるギリギリの割安設定です。
目標は2年間で会員数200万人。コンテンツ数は22年内に12万本となる見込みですが、最終的に20万を目指しています。オリジナル制作は年間数十本を想定。制作予算は初年度から数十億円単位で投資していきます。売り上げは、B2Bを除いたプラットフォーム事業で現在2400億円ほどですが、そこからDMMプレミアムとDMM TVをスタートして2年で3千億円を目指します。
ーー 動画配信市場へのサブスク参入としては後発になりますが、なぜ今なのでしょうか。
村中 正直なところ、2~3年早い方がよかったとは思いますが、U-NEXTやABEMA、ニコニコ動画など国内サービスを研究し、特徴的な良いところを参考にさせていただいて、DMM流のオリジナルサービスを作り上げるのにそれなりの時間がかかりました。後発にはなりますが、時間をかけたからこそできたDMMらしいサービスで挑みます。
DMMらしくニーズを補完位置付けは2ndサービス
ーー 〝DMMらしさ〟はどういうところですか?
村中 特徴としてはまずアニメに注力し、22年内で約4600作品を揃える見込みです。オリジナル制作のほか、ラインアップ拡充のための作品調達では、過去のあらゆるカタログ作品、全新作の獲得に動いているのはDMMくらいだと思います。今アニメは1クール(3カ月)に60~70本の新作があり、毎日2~3本の新話が放送されています。常に誰も見たことがない新作が生まれており、そこを強化するのはユーザーにとってのメリットになり、サービスの武器になります。
そのうえで同時性を大事にしたい。われわれはみんなが同時に見られる上映会を設け、将来的にはそこでコメントを共有できる機能も提供します。さらに、出演声優や著名人が参加するウォッチパーティも開催していきたい。これらは有料会員でなくとも、無料で誰でもゲスト視聴できる放送型コンテンツにします。そういったみんなで楽しむ世界観のコンテンツを当初は70本ほど配信し、どんどん増やしていく予定です。
ーー ABEMAやニコニコ動画の一部コンテンツと近いようですが、ベンチマークしているサービスはありますか?
村中 サービス自体の構造も内容も価格も違うので、意識していません。ただ、われわれはファーストサービスではなく、どこかに入っているユーザーにもうひとつ入ってもらうセカンドサービスでいいと思っています。ファーストにはないユーザーのニーズを補完していく位置付けです。複数のサービスに加入するユーザーが増えていますが、それが一般的になるなか、選ばれるサービスのひとつになることを目指します。
ーー 動画配信市場はこの先どうなっていくと見ていますか?
村中 Netflixが広告付きプランをスタートしましたが、世界的にコンテンツ制作費も調達費も上がるなか、会費設定を維持しようとすればどこのサービスもそうせざるを得ない状況になると思います。近い未来にそれがスタンダードになっていくかもしれません。
この先10年で動画配信事業単体での収益化はより難しくなり、乱立しているサービスの統廃合が進むことも予想されます。既存のポータルサイトも、通販、金融、動画、ゲームといったさまざまなサービスをつなぐ形で総合化が進んでいますが、動画配信サービスも同様の流れになっていくでしょう。われわれはそこを最初から意識しており、できるだけ早くプラットフォームを拡充させることで先手を打ち、未来への差別化に向けて動いています。