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生涯学習とは異なるリスキリングの切迫感 森 健志郎 Schoo

リスキリング特集 森健志郎 スクー

社会人向けオンライン教育事業を手がけるSchoo(スクー)は、現在3千社に向けてサービスを提供している。森健志郎氏は「リスキリング」の意義を明らかにする上で、いわゆる生涯学習やリカレント教育との根本的な違いを述べる。文=金本景介(雑誌『経済界』2023年8月号より)

リスキリング特集 森健志郎 スクー
森 健志郎 Schoo社長
もり・けんしろう 1986年生まれ。大阪府出身。近畿大学経営学部卒業後、 2009年4月リクルートコミュニケーションズ入社。 11年10月にSchooを創業、社長に就任。

 成長産業への雇用流動性を高めたい政府の狙いに呼応しつつ、大手企業を中心にリスキリングには熱が入っている状況が続く。このリスキリングという言葉は一過性のブームに過ぎないという見方もあるが、森氏はこの意見をしりぞける。

 「今までとは切迫度が違います。リスキリングという流行ありきではなく、採用の難しいデジタル人材を社内で育て上げなければ競争で淘汰されるという切実さがあります。法規制によりアメリカのような大胆な雇用調整ができない日本企業は、既存メンバーを再教育し、DXに対応していくという方式が望ましいのです」(森氏)

 リスキリングは、いわゆる生涯学習、リカレント教育とは異なる。リカレント教育も、業務に生かすための知見や技術の向上にスポットが当てられるが、これは期間が長期的で、個人の自発性にも依存している。リスキリングに期待されているのは、あくまで組織および社会の中で短期的に生産性向上を見込む経済的なメリットだ。現状であれば、必然的にデジタル人材の育成が求められる。とはいえ、誰しもが畑違いのIT領域の学び直しに対応できるかというと、一筋縄ではいかない。組織としてのリスキリングは、今まで学びに向かわなかった人達に努力を促すことでもあるからだ。スクーの法人向けサービスでは、アーカイブされた動画をメンバー間で日時を合わせて同時的に視聴することで、集合研修や勉強会に活用でき、リスキリングとは相性が良いと森氏は述べる。

 「リスキリングは一人で黙々と努力できる優秀層だけに向けられたものではありません。真にリスキリングが必要なのはメンバーの過半数を占める中間層です。当社のオンライン教育動画は双方向的ですから、学びに苦手意識を持ち、参考書だけでは学習が継続できない人たちに向けた工夫を重ねています」(同)

 今年、同社はインキュベイトファンドやSBI新生銀行などから、約21億円をデット(借入)で資金調達した。拡大する法人向けのリスキリング市場に対応できるようコンテンツ拡充に注力しつつ、さらに全国27自治体と連携しながら、同社のオンライン教育サービスを通した地方創成事業にも取り組む。

 人口減にあえぐ地方にとって、ウェブを通じた遠隔教育によるリスキリングは、地域経済活性の一助にはなるかもしれない。一方で森氏は、都心部で取り組まれるようなリスキリングを地方でも本当に実施する必要があるのだろうか、という視点も示す。

 「陸上養殖技術の発展やドローンの活用など、第一次産業をIT技術でスマート化していくことは重要です。しかし、地方の真の魅力は、収入を高めるために努力を強いられる都会での暮らしから降りて、美しい自然の中でほどほどに豊かな生活を送ることができる点にあります。極論すれば、全ての人が常にリスキリング圧力の強い都心部での激しい競争に参加する必要はないわけです。このオルタナティブな生き方を積極的にアピールし、都心から地方へ人を集める必要があります」(同)

 人的資本経営が脚光を浴びる中、リスキリングへの取り組みを組織がどれほど強化しようとも、あくまでこの潮流に乗るか、乗らないかを決めるのは各個人であることに変わりはない。