経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

エンジェル投資家が語るバイオベンチャーの在り方 キヨイズミ・タカシ

キヨイズミ タカシ

新薬の開発には500億~2千億円もの費用と9~17年の時間を要するといわれている。そのため多くの創薬系ベンチャー企業は資金調達で壁にぶつかる。カリフォルニア州サンディエゴに在住のエンジェル投資家、キヨイズミ・タカシ氏に、日本のバイオベンチャーが発展するための課題を聞いた。構成=萩原梨湖(雑誌『経済界』2023年11月号 巻頭特集「ベンチャーが導く『がん治療』革命」より

キヨイズミ タカシ
キヨイズミ・タカシ

VCへのアピールポイントは経営チームの経験と能力

 私は2000年にメディシノバというバイオベンチャーをアメリカで立ち上げ、VCからの資金調達に奮闘した経験があります。その会社を05年に上場させ、一区切りついたところでサンディエゴを拠点にエンジェル投資家としての活動を始めました。それから17年間、アメリカを中心にバイオベンチャーの動向を見ています。

 最近私が関心を寄せているバイオベンチャーは21年に設立された「Altos Labs(アルトス・ラボ)」というアンチエイジング研究を行う会社で、12年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏も、上級科学アドバイザーとして参画しています。初期投資では約30億ドル集まっていて、アマゾン創設者のジェフ・ベゾス氏やロシアの富豪などの個人投資家が出資しています。ここは資金調達にVCを介さないため、外部投資家から口を挟まれることなく開発、製造、販売まですべて自由なビジネスモデルにできます。バイオベンチャーにとってはこれが最も理想的な形ですが、一般的にはVCに頼ります。

 VCが投資先を評価する際、バイオベンチャーの技術や将来性、市場価値などを細密に審査しますが、私はそれに加えて経営チームの能力と業界経験を重視しています。良い創薬技術でも失敗する可能性のほうが高いため、バックアップ体制があるかというのは大事なポイントです。特に大学発のベンチャーへの投資は、原則として臨床研究以前の段階となるため、投資の際に存在するデータからだけでは成功確率を完璧に判断することが困難です。したがって投資家は、経営チームに業界経験者がそろっているか、もしくは適任者を外部からどのようにリクルートしてくるかということを重視しています。

 また、バイオベンチャー業界全体が成長するためには、投資のエグジットとしてM&Aを選択することも重要です。日本でM&Aというと、経営がうまくいかなくなった企業の救済というようなマイナスイメージが定着していて、IPOが好まれるようですが、一方でアメリカにはベンチャー企業の売却を成功と捉える風潮があります。成功ベンチャーのチームの一員だったことが実績となるため次のベンチャーを立ち上げる時に資金が集まりやすい。そのためアメリカでは、バイオベンチャーが臨床治験において安全性とある程度の有効性を確認したら、後のことは大手製薬会社に売却してバトンタッチする流れが一般的です。このようなエコシステムが醸成されることで、ベンチャー企業の増加に合わせてVCの投資額が増加する好循環ができます。

 現在アメリカでは、バイオベンチャーを投資対象としたVCが1千社以上存在しますが、日本にはまだ50社ほどしかありません。日本はアメリカの発展を振り返りながらスピード感をもって成長できるといいですね。(談)