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海外展開や独自商品開発に挑む老舗プラスチック成形加工会社 石川忠彦 天昇電気工業

天昇電気工業 石川忠彦

プラスチック製品の設計・製造・販売を手掛ける天昇電気工業は80年以上にわたり、プラスチック成形加工の技術を培ってきた老舗だ。自動車業界をはじめとする主要顧客からの信頼も厚く、業績は拡大傾向にある。次なる成長を目指し、商品拡充に取り組んでいる。(雑誌『経済界』総力特集「注目企業2024」2024年5月号より)

天昇電気工業 社長 石川忠彦氏

天昇電気工業 石川忠彦
天昇電気工業 社長 石川忠彦 いしかわ ただひこ

最大の経営資源は「人」人材育成と採用を強化

天昇電気工業は1936年創業(40年設立)のプラスチック成形加工大手だ。長年にわたって技術力を磨き揺るぎのない独自のポジションを築き、61年には東証に上場した。

直近の2023年3月期の連結業績は経営環境が厳しい中で売上高239億円、経常利益7億5千万円と増収増益を達成。24年3月期は自動車業界の生産停止の解消が進んだことを受け、売上高は280億円を見込んでいる。

堅実な経営で知られる同社だが、2000年代初めには経営不振に陥った時期もあった。当時、主要顧客だった大手電機メーカーの経営危機がきっかけだった。売上高の7割がその1社で占められていたため、同社の業績悪化が響いていた。

三井物産出身の石川忠彦氏が社長に就任したのは13年。商社からの転身だったが、石川社長は当時の様子を次のように振り返る。

「優秀な人材を含め、会社を離れていく社員は少なくありませんでした。売上高が100億円を切ろうかというところまで落ち込み、会社は大きく傷つきました」

業績が低迷し、人材も離散していくなか、社長に就いて2年ほどは残った人材で会社を立て直していった。同社は技術面の評価が高く、大手自動車メーカーをはじめとして取引先にも恵まれている。そのポテンシャルを最大限に引き出すためリーダーシップを発揮した石川社長は並行して人材育成と採用に力を入れた。

「経営にはヒト、モノ、カネ、そして情報が必要ですが、詰まるところヒトが全てだと私は思っています。会社に残った人材をパワーアップさせること、そして中途、新卒の採用に力を入れて、質と量の両方で勝負できるようにしてきました」

社内の教育制度は、必要な知識やスキルを先輩社員が実践を通じて伝えるOJTを基本に置き、先輩社員が新入社員を教育する「ブラザーシスター制度」を取り入れている。幹部クラスには、コミュニケーションを通じて部下を指導、育成するように徹底している。

「総合商社はモノや設備がなく、人しかいないのです。『人の三井』と呼ばれた会社に長年いましたから、人こそが最大の経営資源だと思っています」

高い技術力を駆使してオリジナル商品の開発へ

対米輸出の拠点となる三甲プラスチックスメキシコ工場
対米輸出の拠点となる三甲プラスチックスメキシコ工場

成長期に入った同社にとって最大の強みは、先人が長年にわたって培ってきた強固な顧客基盤である。売上高の約7割を占める自動車業界からの厚い信頼こそ価値がある。

「自動車業界からは品質・価格・納期の3要素について、常に最も高い水準を要求されます。そのレベルは世界最高で、それらの要望に応えていることが、当社への評価につながっています。当然ですが技術力が上がりノウハウも蓄積されていくので、その成果は他の産業でも応用でき、さらなる業容の拡大につながると思っています」

その一方で今、力を入れているのが非自動車業界向けのオリジナル商品の開発だ。

既存商品には主に病院などで利用されている医療廃棄物専用の容器「ミッペール」がある。密閉構造になっており、容器ごと廃棄するタイプ。新型コロナウイルスのワクチン接種の会場などで大活躍した。また、雨水貯留浸透施設「テンレイン・スクラム」は、スーパーやショッピングモールの駐車場、公園・学校のグラウンド地下に埋め込み、雨水を一時的に貯めて浸水リスクを軽減する製品だ。プラスチックの特性が生かされ、施工に当たっては重機が不要で、期間も短くできるのがメリットだ。このほか、物流をはじめさまざまな産業で利用できる多目的容器や、導電性プリント基板収納ラック「テンサートラック」などもある。

海外展開を進めている同社ではメキシコに工場を持つが、ここでは大株主である物流資材最大手の三甲の物流製品を製造し、無関税で米国に輸出できる制度を利用したビジネスを展開している。同社が製造し、国内外でブランド力がある三甲の販路を生かした協働だ。パレットやコンテナなどのプラスチック化を進めている米国で、三甲と組んで巨大市場の開拓を目指していく。

日本を代表する大企業との取引が多いが、採算が見込めれば企業の大小にはこだわらない。

「小ロット多品種でもチャレンジをすることによって技術やノウハウを身に付けていくことができ、それが会社を強くしていくことにつながります」

売上高300億円達成が見えてきたが、500億円を突破して1千億円にするのが目標だ。「まだまだやるべきことはある」と語る石川社長の決意は固い。 

会社概要
設立 1940年9月  
資本金 12億800万円  
売上高 238億9,900万円(2023年3月期)  
本社 東京都世田谷区  
従業員数 約700人  
事業内容 プラスチック製品およびプラスチック金型の設計・製造・販売  
https://www.tensho-plastic.co.jp