経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

イトーヨーカドー撤退跡地に続々出店するロピアの正体

ロピア

かつては流通の主役だった大型スーパーの苦戦が続く。その筆頭であるイトーヨーカ堂は赤字が恒常化、店舗の大幅削減を進めている。その跡地に次々と出店しているのが、神奈川県に本社を持つディスカウントスーパーのロピアで、売上高1兆円も見えてきた。その急成長の秘密とは――。文=下田健司(雑誌『経済界』2024年5月号より)

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3年ごとに倍増で売上高は4千億円

 経営再建中のイトーヨーカ堂は2月、北海道・東北・信越にある17のイトーヨーカドー店舗を閉鎖し、この地域から撤退することを明らかにした。同社は2023年2月期までの3期連続で最終赤字に陥っており、親会社のセブン&アイ・ホールディングスは26年2月までに33店舗を削減し、事業展開地域を首都圏に集中する再建策を打ち出していた。すでに直営衣料から撤退し、首都圏にあるセブン&アイ傘下のスーパーと経営統合したほか、最近では本社移転を計画したり早期退職を募集したりするなど構造改革を加速している。

 イトーヨーカ堂の再建の行方も気になるところだが、それにも増して注目を集めるのがスーパーを運営するロピアという企業だ。閉鎖を予定するイトーヨーカドー17店舗のうち、北海道・青森・岩手・新潟・長野の7店舗を引き継ぐのが、ロピアを傘下に持つOIC(オイシー)グループだったからだ。

 ロピアは、スーパー業界でこそ今最も勢いのある企業の一つとして知られていたが、メディア取材に応じてこなかったこともあって一般の知名度はほとんどなかった。それがイトーヨーカドーの撤退店舗を引き継ぐことで一気に広く知られる存在になったのだ。

 ロピアは神奈川を地盤にディスカウントスーパー「ロピア」を展開する。同社によれば、ロピアという名称の由来は「ロープライスのユートピア」。「同じ商品ならより安く」「同じ価格ならより良いものを」をモットーに「高品質なものをお得に」提供することをミッションにしている。

 ディスカウントスーパーはことさら珍しい業態ではない。全国にはいくらでもあるし、ロピアもその一つにすぎなかった。業界で注目されるようになったのはロピアの経営手法や出店攻勢からだ。

 ロピアは、1971年に髙木秀雄氏が神奈川県藤沢市に開いた精肉店「肉の宝屋藤沢店」に始まる。76年に多店舗展開に乗り出すとともに、80年には加工肉の製造・販売も手がけるようになった。94年には「ニュータウン中川店」(横浜市)を出店し、生鮮と安売りを前面に打ち出すスーパーマーケット業態の運営を開始した。96年には肉の宝屋からユータカラヤに社名変更。「新鮮大売ユータカラヤ」を出店し、精肉を中心にした生鮮食品と安売りを強みに売り上げを伸ばしていった。

 現在の屋号「ロピア」の出店を開始するのは2009年だ。1号店「綾瀬店」(綾瀬市)の成功はその後の出店を勢いづけた。11年にはユータカラヤからロピアに社名変更するとともに、ロピア・ホールディングスを設立した(23年にOICグループに社名変更)。11年に開業した「港北東急SC店」(横浜市)がとりわけ年商規模の大きい店舗となった。ユータカラヤも生鮮と安売りで評判を呼んでいたが、ロピアの成功によって注目度は一気に高まっていった。

 08年度(09年2月期)に200億円強だった売上高は、12年度に500億円を突破。17年度に1千億円を超え、20年度には2千億円超に達した。22年度は3401億円、23年度は4千億円超を計画する(いずれもグループ合計)。1千億円から2千億円に倍増するのに3年、2千億円から4千億円に達するのも3年。その急成長ぶりには目を見張るものがある。急成長の要因は出店攻勢だ。

 この10年ほどは出店ペースを引き上げ年間5〜8店舗の出店で売り上げを伸ばしてきた。近年は店舗過剰の中で出店しても売り上げが伸びないことから出店数を抑えるスーパーが多い。ロピアはそんな中にあっても強気の出店を重ねる。年商規模の大きい繁盛店が多いため、出店に応じて成長スピードも速くなった。

 出店地域も、神奈川を中心とした関東にとどまらない。20年9月には関西に進出し、現在までに大阪・京都・奈良・兵庫に16店舗を展開する。22年には岐阜、23年には愛知と、中部への出店を開始する。さらに23年には宮城、福岡に出店するなど、東北、九州にも進出した。まさに大都市圏に的を絞った出店戦略だ。海外進出も果たしており、23年に台湾で1号店を出店、現在3店舗を展開している。

高い販売力を生み出す徹底した売り場主導

 ロピアを率いるのは創業者の髙木秀雄氏の子息である髙木勇輔氏だ。髙木勇輔氏は1981年生まれの42歳。大学卒業後、菱食(現三菱食品)を経て06年にユータカラヤに入社。13年にロピアおよびロピア・ホールディングス(現OICグループ)の代表取締役に就いている。大都市圏への出店や海外進出などロピアの拡大路線の陣頭指揮にあたってきた。

 高速出店が可能な理由は、駅前や郊外の商業施設のテナントとして出店したり、同業他社の撤退跡に出店したりすることが多いからでもある。京都、宮城、福岡では家電量販店ヨドバシカメラの商業施設に出店しているし、関東・関西ではホームセンター島忠の店舗に出店している。

 企業年商と店舗数からすると、ロピアの1店あたりの年商は30億円を下らないと見られており、15億円程度が多い一般のスーパーを大きく上回る。ロピアの店舗販売力が高い理由の一つに仕入れ・販売方法がある。

 多店舗展開する一般のスーパーでは本部の商品部が一括して仕入れ、店舗に振り分けるほか、販促企画を立てたりプライベートブランド(PB)を開発したりしている。本部集中によって規模の利益を狙うというのが基本的な考え方だ。

 これに対してロピアでは徹底した売場主導の運営方法をとる。ロピアによれば、店舗の各売場のチーフが自ら商品を買い付け、売価を決定する事業部制をとっているという。精肉・鮮魚・青果・食品・総菜の各部門のチーフに部門長として大きな裁量を持たせ、地域にあった事業を主体的に展開するほか、PBの企画・開発も手がける。店舗主導どころか売場主導の比重を高めることによって専門性や地域対応力を高めている。

 高い販売力を生み出している理由はそれだけではない。買物体験を楽しんでもらおうと「食のテーマパーク」をうたう。ロピアは売場チーフを個人商店の店主、店舗を個人商店が集まる商店街にたとえているが、実際の各売場にも個人商店のように屋号を付けている。精肉売場は「肉のロピア」、青果売場は「八百物屋あづま」、鮮魚売場は「日本橋魚萬」、総菜売場は「Meat Deli肉の十八番」といった具合だ。店内に埋め尽くされた派手なPOPも、整然としたスーパーにはない躍動感を生み出している。

 生鮮や総菜では人気商品も少なくない。精肉では家族層を対象にした約1キロの大容量パックは競合店に比べて3割以上安い商品もある。オリジナルブランド牛の希少部位や自社製加工肉なども人気定番の一つだ。鮮魚では厚切りのネタを使った人気のデカネタ寿司、総菜では600円程度から販売する店内で焼き上げたピザのほか、おにぎり・ナポリタン・ガーリックライスなど総菜担当が考案したという「小林さんち」のシリーズなど好評を得ている商品がある。このほか、丸越醸造のスンドゥブチゲの素、利恵産業の濃厚焼きチーズケーキなどグループ会社が製造したオリジナル商品なども顧客の支持を集めている。

 ちなみに、ディスカウントスーパーの中で、ロピアのこうした経営手法と好対照をなすのがオーケーだ。同じ神奈川を地盤に関東で店舗展開することもあって引き合いに出されることも多い。

 オーケーの年商は約5500億円(23年3月期)で、国内ディスカウントスーパーの代表格だ。オーケーは、ロピアの売場主導と違い、本部主導の運営方法をとる。運営を標準化するとともに、仕入れ、売価設定、販促など本部主導で効率化を図る。物流やITの整備にも力を入れており、チェーン運営の常道を行く。売場が主体となって仕入れるロピアとは全く異なる。

 オーケーは21年に関西地盤のスーパー、関西スーパーマーケット買収を巡り、エイチ・ツー・オー リテイリングと争奪戦を演じたことがある。争奪戦に敗れたオーケーだが、24年11月に関西1号店を出店することを公表している。ロピアとの関西対決が見られそうだ。

2031年度の目標はグループ100社2兆円

 OICグループはグループ売上高を27年度に1兆円、31年度に2兆円を目標に掲げる。そのために自らを食品総合流通業と位置づけ食の製造小売化に取り組むとしている。

 この10年ほどの間に総菜や調味料の製造業、卸などをM&A(合併・買収)でグループ化してきた。グループ会社は20社以上に上る。製造小売化を強化するためにさらに食品製造会社などを、31年までにグループ会社100社を目指している。

 2兆円を目指すうえでは自力出店だけでなくM&Aも必要となってくる。22年にスーパーとホームセンターの複合店舗を展開する売り上げ規模700億円のスーパーバリューを子会社化。23年には青果を強みとするスーパーのアキダイをグループ化している。今後、同業のM&Aがさらに増えていきそうだ。

 急ピッチで店舗を増やし売り上げ成長を目指しているロピアには懸念材料もある。

 一つは人材確保だ。ロピアでは売場チーフが重要な役割を担うが、育成するのに一定の時間がかかる。人材を確保できなければ、競争力の低下に直結するだけに人材をどう集め育てるかが成長を左右する。

 もう一つは物流やITなどの整備だ。店舗網が広がればその必要性は高まる。売場主導一辺倒ではなく、本部の主導部分を一定程度強めることも避けて通れないだろう。過去の例を見れば、急成長を遂げた小売業には必ず踊り場が訪れるものだ。ロピアの良さを失わずにチェーンとしての仕組みを整備できるかが、安定成長に向けた試金石となる。

 チェーン経営の常道から逸脱しつつも、年商2兆円という目標に向けて拡大路線をひた走るロピアがスーパー業界にダイナミズムを与えているのは確かだ。優良企業が不振企業に陥り、新たな成長企業が登場する浮沈の激しい小売業界でどんな存在となるのか。まだその評価は定まっていない。