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業界統一団体の考える日本ならではのeスポーツ振興 早川英樹 日本eスポーツ連合/コナミデジタルエンタテインメント

早川英樹 コナミデジタルエンタテインメント/日本eスポーツ連合(小)

日本のeスポーツ振興をリードする統一団体、日本eスポーツ連合。プレーヤーに対するプロライセンス発行や公式大会の認定など、短期間で仕組みを整備してきた。業界の功績を称える「日本eスポーツアワード2024」の表彰式直前、現会長の早川英樹氏にインタビューを行った。聞き手=小林千華 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2025年4月号「『ゲーム』を超えるeスポーツ」特集より)

早川英樹 日本eスポーツ連合会長/コナミデジタルエンタテインメント社長のプロフィール

早川英樹 コナミデジタルエンタテインメント/日本eスポーツ連合(小)
早川英樹 日本eスポーツ連合会長/コナミデジタルエンタテインメント社長
はやかわ・ひでき 1970年、神奈川県生まれ。96年、コナミ(現コナミグループ)入社。家庭用ゲームやモバイルゲーム事業などを手掛ける。2015年、コナミデジタルエンタテインメント社長に就任。18年、コンピュータエンターテインメント協会会長就任(現在は理事)。23年、日本eスポーツ連合会長に就任。

統一団体の発足で法規制周りから整備を開始

―― 2023年6月、日本eスポーツ連合(JeSU)会長に就任されました。まずJeSUについてお聞かせください。

早川 00年代初頭から世界的にeスポーツが広まりつつあった中で、日本では盛り上がりを主導する団体が3つに分かれて活動していたんです。しかし18年、インドネシアで開催されるアジア競技大会でeスポーツがデモンストレーション種目となり、日本からも統一団体をつくって代表選手を派遣しようという動きが強まりました。そして、当時あった3団体を統合する形で立ち上がったのがJeSUです。

 私は当時、コナミデジタルエンタテインメント社長と同時に、ゲーム産業全体の振興を図るコンピュータエンターテインメント協会(CESA)でも会長を務めていました。CESAを通して、JeSU初代会長の岡村秀樹さん(当時セガホールディングス社長と兼務。CESAでも早川氏の前に会長を務める)と一緒に、eスポーツ産業の発展についても議論をしてきた。そうした経緯もあり、岡村さんの退任と同時に私が会長職を引き継ぐことになりました。

 コナミデジタルエンタテインメントでも当時からサッカーゲームタイトルを提供していましたし、私自身もeスポーツに関心は持っていました。ただ海外では大規模な大会も多く開かれている中、日本ではまだ、さまざまな課題を解決していかなければ業界の成長は望めない状況でした。

―― その課題とは何でしょうか。

早川 最も大きかったのは、大会賞金への法規制ですね。JeSU発足から今までの功績の中でも、経済産業省や消費者庁といった関係官庁とのコミュニケーションを通して、こうした法規制の整備ができたことは非常に大きいことでした。

 日本の刑法では、プレーヤーの参加費から賞金を出しているとみなされれば、賭博罪に問われます。他にも景品表示法の規定で、賞金額に10万円の上限を設けなければならない場合もあります。しかしJeSUの発足前は、こうした論点の整理もあまりされていませんでした。

 そこでJeSUでは、公式大会の認定制度を設けました。われわれ公認の大会では、プレーヤーの参加費は大会の運営に充て、賞金はスポンサーフィーから出す、と明確に分けることで、賞金額に規制がかからないガイドラインをつくりました。開催までに、その大会がレギュレーションに沿っているか入念に確認しています。

 設立当初はまだ関係省庁にも「eスポーツは遊び」という印象を持たれることも多かったですが、徐々にその魅力と重要性を伝えてきたことが結果につながりましたね。

世界のゲーム人口40億人の目を向けさせるには

―― 世界のeスポーツ市場において、日本は今どのような立ち位置にいるのでしょうか。

早川 ゲーム産業全体で見れば、ゲーム人口も多い日本は、非常に良い位置にいます。しかしeスポーツとなると、日本は世界で比較すると後発だった分、まだ伸ばせる余地が多くあります。

 そんな中、今後IOC主催で初の「オリンピックeスポーツゲームズ」が開催される予定です。しかも2年ごとに定期開催ということで、われわれにとっても大変ありがたい話です。近年スケートボードやブレイキンなど、オリンピックの新しい種目が若い人々に注目されるのを見てきているので、このオリンピックeスポーツゲームズから、日本でも「eスポーツはスポーツだ」という認識が広がっていくんじゃないかと期待しています。

―― 初回のサウジアラビア大会を経て、eスポーツ業界を取り巻く環境はどう変わると思いますか。

早川 開催国が日本ではないという点で、日本で何かの数値に表れるほど顕著な影響を残すのは少し難しいかもしれないですが。ひとつの大きなキーとなるのは、日本の代表選手がメダルを獲得するかどうかですね。それこそ金メダルを勝ち取る選手が出れば注目度は一気に上がるはずです。

 現在、世界のeスポーツの競技人口は1億5千万人ほどとされているのに対し、ゲーム人口は40億人と言われています。つまり今後eスポーツプレーヤーになるかもしれないポテンシャル層が、それだけ厚いということです。今回のオリンピックeスポーツゲームズを通して、この40億人の目をどれだけ向けられるか。これが今世界のeスポーツ業界の目下の課題だと思います。

―― 日本のeスポーツ業界が現在抱えている課題は何でしょうか。

早川 大前提として、eスポーツは果たしてスポーツなのか。これについての認識をより浸透させていくことはまだ課題だと思っています。

 例えば、よりプレーヤーの裾野を広げていくための手段のひとつとして、若い人が自主的にeスポーツに関心を持ってくれるのを待つだけでなく、学校などでeスポーツとの接点を持てるような機会をつくることが効果的だと思うのです。ここはまだわれわれの後押しが十分ではない点です。もちろん現在でも、高校などでeスポーツ部を設け、活動してくれているところも増えてはいます。しかしもっと、中体連・高体連のような機関に向けてもeスポーツという「競技」を発信し、若い人が参加してくれるチャネルをつくらないと、なかなか発展が進まない。これはJeSUとしても今後取り組んでいくべき点かと思っています。

―― 早川さんが社長を務められるコナミデジタルエンタテインメントでも、eスポーツに注力しています。

早川 そうですね、特に当社のタイトルは「プロ野球スピリッツ」、「eFootball」などスポーツ系のものが多いです。既存のタイトルについては、もちろん売り上げを伸ばしたり、大会規模を大きくしたりするための努力は続けていく一方、スポーツ系以外のeスポーツタイトルの開発もしています。

 また、私自身も10年ほど前からプレーヤーとしてeスポーツをしているのですが、プレーを通して、これからはゲームの楽しみ方が変わっていくんだと感じています。単にソフトを何本売るかという話ではなくて、一人でプレーして楽しい、誰かとプレーして楽しい、オンラインで人とつながって楽しい、ひいては世界中とつながって楽しい、といったさまざまな楽しみ方を支えていかなければならない。もちろんその中で大会に参加する人、見て応援する人といった楽しみ方の違いも出てくると思います。

 その中で一つのゲームの持つエンタメの可能性が広がってくる。そうなるとわれわれも、単なるゲーム事業ではなく総合エンタメの形で、需要に応えていかなければなりません。

 今詳しくお話しできることは少ないのですが、興行としてのイベント・大会運営やその配信、施設運営などでeスポーツの魅力を伝えていくこともその一部です。eスポーツの事業化の可能性は計り知れないと私は考えています。

目標は五輪誘致 日本ならではの振興とは

―― 今後、日本が世界のeスポーツ産業の中で存在感を増していくために、JeSUとしてどのような取り組みを進めていきますか。

早川 もちろんプレーヤーの実力をもっと高めていったり、プレーヤー人口を増やしていったりということも必要だと思います。

 われわれとしては、サウジアラビアで行われる「オリンピックeスポーツゲームズ」を、ゆくゆくは日本に誘致したいですね。JeSUはサウジのeスポーツ連盟とも提携しているので、ぜひ今後の働きかけを強化していくつもりです。

―― 今日この後は、「日本eスポーツアワード2024」の表彰式が行われます。昨年に引き続き2度目の開催ですね。

早川 アワードの開催は、JeSU設立当初から目標にしていました。世界のeスポーツ産業において日本の立場がまだまだ弱い中で、業界の発展をこれまで支えてくれた方にもスポットライトを当てたいなと。プレーヤーが業界に貢献してくれているのはもちろんですが、彼らも周りのサポートがないと輝けない部分も大きい。プレーヤー本人たちにもそういう認識があるはずです。

―― 早川さん個人としては、eスポーツの魅力をどう捉えていますか。

早川 やはりいろいろな人と関われるところですね。私の子どもも、外国語ができない中で海外の人とゲームで対戦し、少し言葉ができるようになっているのを目にします。年齢も性別も関係なく人と触れ合えるエンタメは、私の知る限りでもそう多くないですから。高齢者専用のリーグなどもありますし、一方でそうした枠組みを超えてみんなで楽しむこともできる。本当に自由な楽しみ方ができるのが魅力だと思います。

 eスポーツを通した共生社会への取り組みには、eスポーツが盛んな他の国でもそれほど重視されていないと思います。eスポーツ産業をどう盛り上げるかを考えつつ、人々の垣根のない交流を促進する形を、日本が先駆けてつくっていく。これもわれわれの目指すべきeスポーツ振興の在り方だと思っています。