亀田製菓といえば、米菓のリーディングカンパニーで、本社は米どころの新潟県にある。そんな会社に5年前、インド出身のジュネジャ レカ ラジュ氏が会長に就任した。発酵学の研究のために来日したジュネジャ氏が、なぜ亀田製菓入りすることになったのか。そして亀田製菓をどのような会社にしたいのか。そのためには何をすべきなのか。ジュネジャ氏に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2025年4月号より)
ジュネジャ レカ ラジュ 亀田製菓会長CEOのプロフィール

ジュネジャ・レカ・ラジュ 1952年生まれ、インド出身。84年に大阪大学工学部に微生物学の研究員として来日。89年名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程を修了。同年太陽化学に入社し2003年副社長。14年にロート製薬副社長兼最高健康責任者(CHO)に就任。20年に亀田製菓副社長に就任。22年6月から会長CEO。
米国企業勤務のはずが一期一会で日本企業に
―― 来日して40年以上ということですが、なぜ日本に来ることになったのか。その経緯から教えてください。
ジュネジャ インドで大学を卒業したあと、発酵関連会社で研究開発のマネジャーを務めていたのですが、もっと勉強したいと思い、その分野で最先端の研究を行っていた大阪大学の研究員となり、その後、名古屋大学大学院で学位を取りました。
―― 大学を出たあとも日本に残っています。
ジュネジャ 「一期一会」の出会いでした。名古屋大学大学院卒業後は、アメリカの会社で働くことが決まっていました。ところが最後に出席した学会で、太陽化学の役員に出会ったのです。その役員から、一度会社を見に来てくれと言われて行ったところ、社長、副社長が待っていて、そのまま面接です。そこで社長から、「他社のまねはせずに、世の中にないものをつくってほしい、グローバル化してほしい」と言われたことで気持ちが動き、これもご縁かと思い就職することになりました。
太陽化学は乳化剤などの素材メーカーで、私は基礎研究に従事していましたが、「世の中にないものをつくる」という思いは常にありました。そして免疫効果を高めるシアル酸を、ニワトリの卵から抽出することに成功、その後、会社の所在地であった三重県の名産品であるお茶の研究を始め、カテキンや、お茶にしか入っていないアミノ酸の一種であるテアニンの生産方法を確立したことで農芸化学技術賞を受賞しました。
―― そこからロート製薬副社長となります。
ジュネジャ 製薬や基礎化粧品の会社ですから、これまで経験したことのないチャレンジでした。ここで研究開発を担当するとともに、海外事業も担当することになりました。食品プロジェクトの立ち上げや、目薬やスキンケア商品などの新市場開拓を行いました。さらにはCHOとして健康経営にも力を注ぎました。
トップメーカーならではの「素晴らしい種」

―― ロートまでは化学です。それがなぜ亀田製菓に転じることになったのですか。
ジュネジャ これも出会いです。田中通泰前会長には何度かお目にかかっていたのですが、ある時「亀田製菓が2050年に向けてどういう会社になるのか」を検討するプロジェクトに有識者として呼ばれました。そこで田中前会長から「亀田製菓をどう思うか」と聞かれたので亀田製品に対して思っていたことをそのまま伝えました。
―― 亀田製菓に対してどのようなイメージを持っていたのですか。
ジュネジャ その時、話したのは「一回食べたらまた食べたくなるような美味しさ、食感を持っている会社です」ということでした。実際、私は「亀田の柿の種」が大好きで、インドに帰る際にも必ずお土産として持っていきます。世界のどこに持っていっても喜ばれます。
―― 実際に入ってみて入社前とのギャップに驚いたりしませんでしたか。
ジュネジャ いい意味で驚きました。ほとんどの人が亀田製菓は「亀田の柿の種」を筆頭に米菓の会社だと思っていると思います。私もそう思っていました。実際、米菓のリーディングカンパニーですし。ところが、中に入って分かったのは、米菓だけでなく、いくつもの「素晴らしい種」を持っている会社だということです。
例えば乳酸菌。亀田製菓の長年の研究の中から見いだした植物性乳酸菌は、コメや植物性発酵食品に由来する300株以上の中から選ばれたものです。「K-1」は整腸作用が確認されていて、「K-2」は花粉症軽減効果が認められています。添加しても味の変化がないため、サプリメントやお菓子、飲料など、さまざまな商品で使われています。
長期保存食もそうです。防災備蓄品として国産米100%の商品を数多く出しています。グループ会社の尾西食品が販売している「尾西のカレーライスセット」は、レトルトカレーとアルファ米が一つの袋に入っていて、お湯か水を注ぐだけでカレーライスが出来上がります。しかもCOCO壱番屋が監修しているので味も折り紙つきです。水を注ぐだけでおにぎりができる「携帯おにぎり」は非常に画期的な商品です。
このほかに米粉を使ったクッキーやパンもあり、グルテンアレルギーのある人たちに喜ばれています。米粉パンは28品目アレルギーフリーです。おいしさを追求するだけでなく、健康も追求していく。そのための種が、亀田製菓グループにはたくさんあります。
こうした種は、もともと亀田製菓やグループ会社の中にあったものですが、私が亀田に来た時から、さらに加速しています。製菓業から米業へ。それを社内外にはっきり示すため、2023年には理念体型を再構築し、ビジョンを「ライスイノベーションカンパニー」と定めています。
―― となると、米菓事業はどうなっていきますか。
ジュネジャ 国内の米菓は「亀田の柿の種」以外にも「ハッピーターン」や「ぽたぽた焼」のように強いブランド力を持つ商品がいくつもあります。ただこれまでは売り上げを伸ばすために価格戦略に頼ってきたところがあります。そこで現在、進めているのが「価格」から「価値」へのシフトです。お客さまにとっての価値をしっかりと追求し、強いブランドをさらに強くしていきます。
世界で通用するKAMEDAブランドに
―― 海外市場への展開はいかがですか。ジュネジャさんを迎えたということは、当然、そこをにらんでのことだと思うのですが。
ジュネジャ 実は亀田製菓グループは、アメリカや中国、インドなど6カ国に工場を持っています。それぞれの工場で米菓やグルテンフリー食品などを作っています。亀田製品を販売している国・地域は50を超えます。
ただし、これまではそれぞれの地域で商品名は知られていても、「KAMEDA」は知られていませんでした。例えばベトナムでは「ICHI」という揚げ米菓が人気ですが、それが日本の亀田製菓のグループ会社が製造していることはあまり知られていませんでした。何しろパッケージを見ても、KAMEDAの文字は小さくしか入っていない。そこでパッケージをリニューアルして目立つ場所にKAMEDAの6文字を入れました。これを全世界でも進めています。
さらに、これまでは製造やマーケティングがそれぞれの国で完結していて、日本の経営資源は活用されてきませんでした。そうではなく、部門間や国・地域間に横ぐしを入れ、全世界でノウハウを共有していく。それにより、KAMEDAの商品力は大きく強化され、認知度も高まると考えています。目指すのは「ALL KAMEDA」で考える会社です。そのために人の交流も盛んにしています。今まで海外に行くのは海外事業部の人たちだけでしたが、今ではそれ以外の部署の、英語がまったくできない人たちにも行ってもらっています。言葉の壁はありますが、それでも彼らの持つ技術やノウハウは、海外のグループ社員にとても喜ばれています。
―― 海外売り上げをどこまで伸ばすつもりですか。
ジュネジャ 現在(23年度)の海外売上高は150億円で、残念ながら利益が課題です。これを、現在進めている中期計画では、26年度に180億円、営業利益率向上が目標です。そして海外事業が、今後の亀田製菓グループの利益成長ドライバーになることを目指しています。
―― 亀田製菓の本社は新潟市にあります。なじむことはできましたか。
ジュネジャ 副社長として入ったのが20年。コロナ禍の真っ最中でした。ですからミーティングはオンラインがほとんどでした。そこでコロナが明けてからは積極的に国内外のあらゆる現場に出かけてコミュニケーションを取ってきましたし、今でも続けています。やはり直接会って対話することで親しみも増してくるし、一緒にやろうとやる気も出てくる。それが収益につながっています。そして利益が出れば社員は笑顔になる。この笑顔を、もっと増やすことが私の仕事です。