経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

ホテルキーを誰でも使えるスマホのウォレットに発行 深尾大地 アッサアブロイグローバルソリューションズジャパン

アッサアブロイグローバルソリューションズジャパン 社長 ふかお だいち 深尾大地

スウェーデンに本社を置くアッサアブロイは今春、アップルやグーグルが提供するウォレット機能との連携が可能なキーシステムの取り扱いを始めた。専用アプリを介さずに誰でも手軽にデジタルキーを利用できる世界初の電子錠は、ホテル業界に新風を巻き起こしそうだ。(雑誌『経済界』2025年5月号「注目企業」特集より)

アッサアブロイグローバルソリューションズジャパン 社長 ふかお だいち 深尾大地
アッサアブロイグローバルソリューションズジャパン 社長 ふかお だいち 深尾大地

クラウド管理でカードキーのセキュリティを向上

「ホテルのルームキーにはこれまでほとんどの人が関心を持ちませんでした。ゼネコン任せに従来通りの建材メーカーの鍵を採用し、一度設置してしまえば10年以上放置というホテルも少なくありません」

アッサアブロイグローバルソリューションズジャパンの深尾社長は、セキュリティ意識の低い国内ホテル事情に警鐘を鳴らす。

フィリピン・シャングリラホテルでホテリエとしてのキャリアをスタートさせた深尾氏は、その後も海外でハイアットやフェアモントなど外資系一流ホテルの開業プロジェクトを数多く手掛けた。帰国後はホテル向けIoT関連のスタートアップにCOOとして参画。宿泊者専用スマホを配るサービスで急成長を果たし、ソフトバンクグループに事業を引き継いだが、これが縁となりアッサアブロイから日本法人社長に誘われる。

「世界的セキュリティメーカーのアッサアブロイですが、長年の間、日本での営業展開は代理店任せでした。同社が新たな日本法人設立を考えていたところに、たまたま私がスマホと電子錠の連携を持ち掛けにいったのが誘われたきっかけです」

代理店を買収する形で2019年、日本法人社長に就任し事業を引き継いだ。アッサアブロイの全世界売上高は1兆円超。日本国内では宿泊業界のほか全国の在日米軍基地関連施設にも多様なセキュリティソリューションを提供している。特に非接触式電子錠「VingCard」(ヴィングカード)は世界初のホテル専用カード錠として認知されており、高セキュリティを求める施設で数多く採用されている。

そんなヴィングカードの強みは、クラウド型ホテルキー管理システム「VOSTIO」(ボスティオ)だ。従来のホテルキーシステムはオンプレミス型(施設内設置型)が多く、経年とともに脆弱性が高まりハッキングされやすくなるリスクがあった。24年4月には他社メーカーの電子カード錠をクローン技術で簡単に解錠できることが確認され、世界中のホテル業界で激震が走った。これに対して「ボスティオ」はキー発行サーバーの運用・保守・維持管理を全てクラウド上で運用。最新バージョンは遠隔・自動で定期的に行われるため、常に高いセキュリティ性能を発揮できる。

「今の時代、ホテルのルームキーは『建築工事で一度設置したら終わり』では済みません。ハードウェアの維持管理のみならず、ソフトウェアレベルでのサブスクリプション型維持管理、更新が求められます」

同社の電子ロックを利用すれば、ホテルキーも各種ウォレットアプリで解錠可能に
同社の電子ロックを利用すれば、ホテルキーも各種ウォレットアプリで解錠可能に

国内主要ホテルでも導入が加速。業界のゲームチェンジャーに

近年はカードキーが不要となる
「デジタルキー」の導入が外資系ホテルで拡大。この分野でアッサアブロイは、グーグルやアップルのウォレット機能と連携を可能にして画期的な進化を遂げた。これまで大手ホテルチェーンの直営サイトで予約した場合、発行されたデジタルキーを受領するにはホテルの専用アプリをダウンロードする必要があったが、その仕組みを提供できるのは一部の大手ホテルに限られる。

「単館ホテルや小規模ホテルチェーンに独自アプリの開発や継続的なメンテナンスは容易ではなく、またインバウンド客の利便性を考えれば専用アプリをダウンロードするのは煩雑かつ現実的ではありません。スマホさえあれば誰でも感覚的に利用できる。しかもシンプルなデジタルキーです。それを可能にしたのがアップルウォレットやグーグルウォレットとの連携です。彼らの審査や承認を受けることは難しかったのですが、今年ようやく実現に至りました。ホテル業界の鍵事情を一変させるゲームチェンジャーになれる可能性を感じています」

同社の従来型モデルを利用するユーザーであれば、ウォレットキーの導入に際して本体を交換する必要はなく対応ファームウェアへとアップデートするだけ。セキュリティ性能が高い「ボスティオ」の強みを最大限生かしつつ、ゲストの利便性が大幅に向上する最新技術に手が届く。

ヴィングカードのキーシステムは国内の外資系ホテルの9割に導入されており、日系のホテルチェーンでも近年、加速度的に導入が進んでいる。ウォレットキーやクラウドサーバーなどの最新かつ高いセキュリティ力を担保しながら、コスト的に国内大手鍵メーカーと遜色ないとなればその躍進も頷ける。今後は新規ホテルと既存ホテルの改修で5割ずつの設置比率を見込む。

「いきなり『ホテルの鍵を変えましょう』と持ち掛けても設備や電気工事、既存の業務システムなどさまざまな課題をクリアせねばならず、古い商習慣を打破するのは一筋縄ではいきません。外資系のわれわれがシェアを拡大していくことは『黒船』に見えるかもしれませんが、事業者にも宿泊客にも大きなメリットをもたらします。今後も営業展開を広げ、将来『ホテルキーと言えばヴィングカード』と言われるくらいの存在感を持ちたいと思います」 

会社概要
設立 2017年7月
資本金 1,000万円
売上高 15億円
本社 東京都中央区
従業員数 25人
事業内容 IT&セキュリティサービス
https://www.vingcard.com