進撃のベンチャー徹底分析 第20回
今回は米サンフランシスコの一等地、Hayes Stに店舗を構える22歳にしてDestore代表の大東樹生氏に話を聞いた。文・戸村光(雑誌『経済界』2023年1月号より)
18歳で単身渡米20歳でシリコンバレーで起業
大東氏が海外に目を向けるきっかけとなったのは、高校3年生の時だ。父の転勤でイギリスに引っ越したことで、いつか自分自身も世界で挑戦できる起業家になろうと強い志を持つようになる。そしてどうせやるなら世界で最も投資家とエンジニアが集まるシリコンバレー(サンフランシスコ含む)でチャレンジしようと移住を決意した。高校時代にファッション系YouTuberとして流行りの服や海外スタイルのアパレルを紹介しているチャンネルを開設。同領域の先駆者として名を轟かせる。その強みを生かそうとサンフランシスコの一等地であるHayes Stに店舗を構える。
日本の投資家から10万ドル調達サンフランシスコで不動産開拓
一等地で物件を探すも、預金残高にあるのは、日本の投資ファンドから調達した金額のみ。通常サンフランシスコでは3年契約以上でないと物件を貸してくれる不動産オーナーが少ないため苦労したという。スタートアップが3年生き残る確率は5%以下であることが業界では広く知れ渡っており、1年単位で借りられることが理想であるものの、その条件に見合う物件は存在しない。そこで大東氏は1年間の家賃を先払いするという条件で月6千ドル(坪単価日本円で約10万円)の物件を借りることができた。
スタート時の売り上げはゼロ残高は300ドル
ようやく不動産を借りることができ、店をオープンすることになった大東氏。当時はファッションやアパレルなど、大東氏が〝これは売れる〟と思った品物を商品棚に陳列していたという。
一等地にあることもあり、お客さんは入ってくるものの、なかなか商品購買にはつながらない。家賃だけが減っていく日々を送り、ついには残高が300ドルになったこともあったという。そんな不安な日々を送っていた時に一つの兆しが見えてきた。Web3・0時代の到来だ。
同世代の起業家たちがこぞってWeb3・0スタートアップを立ち上げており、自分の店舗もWeb3・0へと方向転換させることを決意した。
Web3・0と店舗の連動。世界初のオーナー所有権NFT
それが所有権のNFT化だ。1つの店舗を共同所有するというのは、これまでも存在していたビジネスだ。その所有権をNFTで発行することによって、NFTを持っていると誰でも意思決定に介入できるようになった。
それまでの意思決定は、株式保有数で決めていたことからの大転換だった。また、NFT所有者である店の共同所有者は決算状況はもちろんのこと、日々の売り上げデータ、店のセキュリティーカメラにもアクセスできる権利を得るという。簡単にいうと、NFTを1つ所有すれば、サンフランシスコの一等地にある店の所有権の一部を手にすることができるようになったというわけだ。
現地投資家から連絡が殺到。累計で80万ドルを調達
サンフランシスコの一等地の所有権を持つということは、顧客を引き込むうえで有利になるだけでなく、近所に住んでいるシリコンバレーの投資家、ジャーナリストたちとも知り合うきっかけにもなる。Destoreでは店の看板にWeb3・0の店舗であると記載しており、リテラシーの高い通りがかりの人からの注目を集めることができると大東氏は語る。その戦略が実り、シリコンバレートップのアクセラレーター(スタートアップに教育と投資を行う会社)Y Combinaterの卒業生が中心に集まったWeb3・0特化型ファンドであるOrange DAOからの資金調達を実施している。
次世代に引き継ぐべきシリコンバレーでの挑戦
筆者はシリコンバレーに在住して8年が経過したが、起業したいという日本の学生が年間1千人以上やってくる。肌感覚ではあるが、その中で実際に起業するのは10人程度、資金調達してスタートアップする企業はわずか5社程度だ。今回の取材を受けて感じたことは、〝挑戦し続ける重要性〟である。同社の商品棚には商品が置かれているわけではなく、売り上げも上がっていない。しかし、シリコンバレーの現地で毎日のように開かれるWeb3・0の勉強会に顔を出し、学んだことを投資家に教えるというギブをすることで信頼を生み、シリコンバレーのトップとよばれる投資家たちからの資金調達を成功させた。
大東氏の旅はこれから果てしなく続く。Destore1店舗目を成功させ、価値と信頼のある共同所有型NFTをつくっていかなければならない。この記事を読んだ読者が、彼に続いて、世界で、シリコンバレーで挑戦する未来が来ることを願ってやまない。