経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

食文化を守りながら循環型社会をつくる フィード・ワン 庄司英洋

庄司英洋 フィード・ワン

畜産業や水産業で使用される飼料を製造するフィード・ワン。畜産用配合飼料の原料には食品廃棄物が多く活用されている。飼料業界トップクラスのシェアを誇る同社に、日本の食品とエシカル消費の関係を聞いた。聞き手=萩原梨湖 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』巻頭特集「エシカルを選ぶ理由」2023年3月号より)

庄司英洋・フィード・ワン社長のプロフィール

庄司英洋 フィード・ワン
庄司英洋 フィード・ワン社長
しょうじ・ひでひろ 1964年生まれ。88年東京大学農学部卒業後、三井物産入社、2018年食料・流通事業業務部長、20年フィード・ワン上席執行役員経営企画部長、21年常務執行役員経営企画部長兼水産飼料部副管掌、22年6月より現職。

動物性食品は環境に必ずしも悪いものではない

フィードワン グラフ 食品副産物および食品ロス排出量
フィードワン グラフ 食品副産物および食品ロス排出量

ーー リサイクルの分野で食品廃棄物は特に手が付けづらいイメージがあります。

庄司 実は畜産においては食品廃棄物が非常に役立ちます。食品廃棄物を使用すると聞くと環境のための事業のように聞こえますが、飼料メーカーができるよりずっと前から習慣づいていたことです。昔は鶏や豚を家庭で飼育しており、その時代から人間の食事の残飯を家畜のえさとして与えていました。戦後、人口の増加とともに動物性たんぱく質の需要が高まる中、家畜の生産性や成長の効率化が求められ、人間の残飯だけでは家畜の成長に十分な栄養を補うことができなくなりました。残飯だと日によって栄養価や量に差が出ますし、水分を多く含んでいると腐ってしまいます。このような安定供給と衛生上の問題をクリアし、継続的に畜産に取り組むことを目的に配合飼料業界はできました。

ーー 昔と同じやり方をより効率化させて事業にしたのですね。

庄司 今も昔も食品廃棄物には、畜産飼料に必須なでんぷん、脂肪、たんぱく質が十分含まれているため有効に使用することができます。

 飼料に活用している食品廃棄物は大きく2つに分けることができます。食品工場で出る食品副産物と、コンビニエンスストアやスーパー、飲食店から出る食品ロスです。

 代表的な食品副産物としては、サラダ油を製造する過程で出る大豆から油を搾ったあとの残りかすが挙げられます。食品工場から出る副産物というのは、その食品が商品として作り続けられる限り安定的に発生するものなので、この安定性は飼料を作るのには重要です。

ーー どれくらいの食品廃棄物が飼料として再利用されているのですか。

庄司 2019年の統計では、国内の食品廃棄物総量1756万トンのうち919万トン、約52%を飼料として利用しています。これは国内全体の話で、当社に関しては配合飼料の販売シェアが14%ですのでそこから換算すると約129万トン利用していることになります。01年に施行された「食品リサイクル法」では、廃棄物の再利用を実施する場合、食品循環資源が有する豊富な栄養価を最も有効活用できるものとして、飼料化を最優先する、と規定されています。そのような理由もあって飼料メーカーは原料として食品廃棄物の約半分を活用するに至っています。

 しかし、グラフをご覧いただくと分かるとおり、環境への配慮や各企業の工夫により食品廃棄物は年々減少しています。

 その一方で食品廃棄物を飼料化する割合は維持されているため、その分だけ焼却や埋め立てに回される食品廃棄物が減っています。

 これには食品ロスを飼料化する取り組みも大きな役割を果たしていて、食品ロスを活用した飼料で育った畜産物が再び飲食店等で提供されることで、資源循環に貢献しています。

ーー その飼料を食べて育つ動物ですが、動物性食品は環境破壊を促進するとも言われています。

庄司 確かに畜産では大量の水を使用しますし、家畜の排せつ物が環境汚染物質を含むというのも事実です。そのような理由から動物性食品を食べることは環境に悪いという見方をされることもありますが、動物性たんぱく質は人間の体をつくるには欠かせない物質です。

 一方で食事とは、エネルギーの補給という役目だけでなく、文化としても確立しています。食事を通して喜びを感じる方が多くいらっしゃると思いますが、食の多様性を確保するという意味でも動物性食品は大切なものだと言えます。

 フィード・ワンでは環境負荷低減につながる飼料の開発も行っています。今までは早く育てたいという思いから栄養を過剰に与えていましたが、最近の研究では一度の給餌で必要なアミノ酸やたんぱく質といった個々の栄養素の適正値が分析できるようになりました。過剰な栄養素を配合しないことは飼料のコスト低減にもつながります。また、過剰な栄養素を与えすぎるとアンモニアやリンなど環境負荷の高い成分が家畜の糞中から放出されるため、その問題解決にも貢献できます。

消費者の理解が市場の拡大につながる

ーー 水産資源の保全にも取り組んでいるそうですね。

庄司 われわれは1986年からクロマグロの完全養殖にも取り組んできましたが、それも食の多様性の一端を担うことにつながります。クロマグロ漁は主に太平洋で行われていたのですが、一時期クロマグロの資源量減少により漁獲量が制限されました。日本人にとってマグロは特別な魚ですから、少しでもマグロの資源量を保護し、天然資源に頼らない消費ができるように、マグロの卵をふ化させるところから始め相当な時間と費用を費やしてきました。なかなか効率的な生産ができないため、スーパーに並ぶ完全養殖クロマグロの価格は天然クロマグロより高くなります。クロマグロの完全養殖において、事業としての収益を確保するには、エシカルな取り組みを市場が評価してくれる社会環境でなければいけません。現在の消費者やスーパーなどの小売店は物価高の影響などから低価格指向が強いため、まだ完全養殖クロマグロの市場シェアを広げることは時間がかかります。

ーー 海外では日本以上にサステナブルな取り組みが活発です。

庄司 今世界では欧州を中心に、畜産におけるアニマルウェルフェア、即ち家畜を快適な環境で飼育すべきとの主張が唱えられています。例えば採卵鶏の飼育方法で言うと、日本ではケージ飼いが主流ですが、鶏にとって劣悪な環境だと批判を受けることがあります。欧州では1羽あたりの面積基準を定めたり、放し飼いを義務化する動きも出ていますが、日本で同じ方法を取るとなると別の問題が生じます。

 採卵鶏をすべて放し飼いにした場合、まず土地の面積が足りません。

 さらに日本では卵を生で食べる習慣があるため衛生面が第一優先になります。しかし、放し飼いで産まれた卵の採卵日は把握しにくくなり、土中で繁殖した雑菌が地面に触れた部分から入り込む恐れもあります。

 このように各国の環境や状況・食文化が異なるため、全世界で一つの基準を設けることは現実的ではなく、特に食品の衛生基準とアニマルウェルフェアの両立は畜産のエシカルにおいて難しい問題になってきます。今、養鶏業界では日本の特性に合わせたアニマルウェルフェアが実現できるよう、独自のルールを作り始めています。当社はそのような分野にも精力的に協力していきます。