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世界に誇るファインバブルで夢の「人間洗濯機」を 青山恭明 サイエンスホールディングス

サイエンス 青山恭明

独自のファインバブル技術を活用し、微細な気泡で体の汚れを落とすシャワーヘッド「ミラブル」が大ヒットしたサイエンス。ファインバブル技術は医療や農業、そして宇宙まで幅広い分野で活用できる可能性を秘めており、積極的に研究開発に取り組んでいる。(雑誌『経済界』2024年3月号「関西経済の底力特集」」より)

サイエンス 青山恭明
サイエンスホールディングス 青山恭明

顧客の声から生まれた口腔用ミラブルzero

 女性モデルの顔に油性ペンで書かれた線が「ミラブル」のシャワーを当てて軽くこするだけで消えてしまうテレビCMは、お茶の間に大きなインパクトを与えた。2018年の発売以来、ミラブルシリーズは累計140万本を超える大ヒット商品となっている。

 最大の特長である強力な洗浄力は、ファインバブルと呼ばれる毛穴より小さい直径1万分の1ミリメートルの気泡が、汚れの隙間に入り込んで洗い流すことで実現した。シャワーヘッドは用途に合わせて付け替えたり、持ち運べるものという新しいマーケットを創り出した。

 「ミラブルをはじめ、当社の製品はどれもお客さまのご意見から生まれています。ミラブルのケースでは、当社の入浴装置をマンションの居室に導入していたタカラレーベンさんの入居者にアンケートを実施したところ、多くの女性がバブルの発生しているお風呂に潜っていることが分かりました。そこで一時期ヒットした美顔器をつくろうとして、ほぼ完成していたのですが直前に中止しました。顔だけの美顔器は飽きたら使われなくなる。でもシャワーであればずっと使ってもらえると思ったんです」

 そうした顧客目線で新たに開発したのが22年発売の「ミラブルzero」だ。利用者は顔、頭、体だけでなく口の中を洗っていることも多く、口腔用に開発した。

 ミラブルの水流はミストとストレート2種類の計3種類。ミストは美顔器モードで、ストレートは頭専用。ただ普通のストレートとは違う。同社製品は全部の穴からY字型に出る水と水がぶつかり、その弾け飛ぶ瞬間にねじれを起こしてドリル状の強い打撃力を生む頭専用のスカルプモードとなっている。さらに口の中専用の口腔モードも搭載した。ミストで舌苔を取って、3本水流からなるリングストレートが歯間を洗い流す。

 「ミラブルzeroには美顔器モード、頭専用のスカルプモード、口腔モードの3つのモードがあります。お客さまの要望を受けて、手元で各モードを切り替えられるワンストップ機能を付け、強弱も変えられるので歯茎の弱い方も安心して使っていただけます。リングストレートができた時、開発段階から監修していただいた歯科医の先生に絶賛してもらいました。歯磨きに歯ブラシがいらなくなる日が来ると信じて技術陣が頑張ってくれました」

 試行錯誤を繰り返しながら1年以上かけて開発したミラブルzeroは発売前から10万本を超える予約が入り、今や60万本を超える人気商品となった。類似の商品も出回っているが青山会長は意に介さない。

 「ミストにバブルが入っている製品を、当社製品に似せて便乗してくる会社もあります。しかし、当たりが軟らかいのに洗浄力が強い当社のミストは他にありません。ミストのシャワーをつくるのは難しくありませんが、鍵は洗浄力。高速の渦の中にあるバブルが研磨剤の役割を果たしているので、『バブルの数が多いから洗浄力が強い』と強調する会社もありますが、数は問題ではありません。それよりもどういう水流にバブルを乗せてどんな役割に使うかが重要です」

医療、農業分野から宇宙分野にも広がる可能性

サイエンス 青山恭明
現在開発中の「ミライ人間洗濯機」

 住宅機器メーカーとして創業した青山会長がミラブルの開発を思いついたきっかけは20年ほど前。

 「あるテレビで、小さい泡をつくる技術で日本は世界を断然リードしていることを知りました。そして半導体などの精密機器はバブルで洗うことを知り、1970年開催の大阪万博で見た『人間洗濯機』を思い出したんです。その時に見て驚いた動く歩道やコードのない電話などはすでに社会実装されていますが、人間洗濯機はありません」

 2025年大阪・関西万博に出展する同社の目玉は「ミライ人間洗濯機」。体を洗うだけでなく、背中のセンサーで脈動を計り、自律神経の状態からAIが最適なリラクゼーションに適した映像を流すなど、近年の技術を凝縮した展示となるだろう。青山会長の想い入れは熱い。70年の大阪万博で人間洗濯機の開発に携わった元・三洋電機のエンジニア、デザイナーの2人を顧問に迎えた。

 「お見せするのはこれだけではありません。『宇宙シャワー』も出します。近い将来、宇宙旅行が一般的になると言われ、米国の実業家が27年に宇宙ホテルを開業させるという話もあります。でも宇宙ではたくさんの水を使って体を洗えません。既に複数の企業や大学などと共同で実験を行っています」

 日本が世界をリードしているファインバブルの技術は、厨房の洗浄や医薬品、農業など用途は多岐にわたるが、来たる2025年大阪・関西万博はその可能性を世界に発信できるチャンスだ。ファインバブルの可能性を広げるために青山会長の挑戦は続く。 

会社概要
設  立 2007年8月
資 本 金 3,000万円
売 上 高 54億4,172万円(2023年3月期)
本  社 大阪市淀川区
事業内容 ファインバブル製品の製造・販売およびメンテナンス。セントラル型浄水装置の製造・販売およびメンテナンス
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