ゲストは、24歳でクラブホステスとなり、現在は大阪・キタ(北区曽根崎新地)の老舗高級クラブ「山名」でオーナーママを務める山名和枝さん。御年89歳ですが、元気いっぱいです。半世紀にわたり一流のお店を経営し続けるすごさ、元気であり続ける秘訣を伺いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=藤岡修平(雑誌『経済界』2024年12月号より
山名和枝 クラブ山名 オーナーママのプロフィール
33歳で山名を開店し56年。活力あるお客さまが集う店
佐藤 和枝ママが経営する「クラブ山名」は今年6月に56周年を迎えたそうですね。その前に同じ場所にあった「クラブ太田」には私の父・正忠(経済界創業者)が足しげく通っていたようです。父は太田の恵子ママに惚れていたのかなと思います(笑)。和枝ママが太田跡地で山名を始めたきっかけは何だったのですか。
山名 私は24歳の時にクラブで働き始めてもう65年になりますが、ずっと憧れていた太田を2億円で売るという記事を見て、「何としてもこのお店が欲しい! 私が経営したい」と思って手に入れたんです。41歳の時でした。
佐藤 それまでは和枝ママは別のお店を経営されていたのですか。
山名 33歳で独立して今の前身の山名を経営していました。独立に際しては、高度経済成長期でお客さまも増えていたので、自信はなくともやる気だけはありました。
佐藤 そのやる気は今も。
山名 やる気満々です(笑)。昨年88歳で感謝の会を開きました。卒寿まで健康なら、もう一度御礼の会を催したい。パーティーは良いですね。昔のお客さまも思い出してくれますし、華やかな場を一緒に楽しめて。
佐藤 そうですね。和枝ママは今もお店に毎日出ていて、ゴルフもされているとか。その元気の源はどこにあるのでしょう。
山名 山名には月曜から土曜まで毎日出ていますし、お呼びがかかればどこへでも伺います。ゴルフは年数回コンペに誘われるくらいですね。私の元気の源は、お店にいらっしゃるお客さまです。1次会のお食事の後に、2次会でクラブに来られる男性は、経済的にも体力的にも余裕がある方ばかりです。いつもたくさんの元気をもらっています。
佐藤 今は社交場としての役割を果たすクラブは減りましたが、和枝ママのお店は老舗高級クラブでありながら、幅広い年齢のお客さまが出会う場になっていますね。
山名 年配の人も若い人も元気な人たちが集まっていますね。若い人でも、うちのお店に来られると出世する方が多いんですよ。古くからいる年配のお客さんから、「お店のお客さん若くなったな」と言われることがありますが、「あなたが歳を取ったんじゃないの?」と言い返しています(笑)。有美社長こそ、経済界倶楽部で若い世代の経営者やその卵たちを大事にされているのは素晴らしいし、若い男性もうれしいですよね。
佐藤 若い人と話すと、夢のような話が現実になっていく過程が楽しいですね。若さゆえの奇想天外な発想もありますが、それが実となり、世の中の常識になっていく。熱い想いと行動力を応援したくなります。
山名 その可能性のある芽を見つける着眼の鋭さに敬服します。
佐藤 ありがとうございます。最近は夜の街にも活気が戻ってきましたが、企業は交際費に厳しくなり、若い人は山名のようなクラブにはなかなか行けませんよね。
山名 飲むのが好きな男の人にはかわいそうな時代です。それでも身を粉にして働いて、思いっきり遊ぶ人は出世していますよ。もっとも若いお客さんには、「無理に高いお酒を入れようとしなくていい。恥をかかなくていいでしょ」と諭しています。
佐藤 和枝ママの一流のホスピタリティですね。
若い人相手でも雑に扱わない。出会いを大切にして今がある
佐藤 昔は大企業の経営者が、クラブのママたちにお小遣いをあげて海外のリゾートホテルに招待したりしていました。さすがにそういう豪快な経営者は減りましたね。
山名 そうですね。でも、クラブではそういう大企業の社長や会長さんばかりを大切にしていると、他のお客さんを下に扱うことになり、お店をつぶします。例えば、「うちは格式を重んじるお店だから、1番偉い会長や社長さんは上の階で接待します。次に偉い人はこちら、若い秘書やお付きの人は下の階で飲んでいて」という対応をしていては、下に扱われる男の人は良い気はしません。さらに若い人が出世して社長になった時に、「あんなお店には行かない」と見向きもされなくなります。
佐藤 プライドがスーツを着て歩いているのが男性ですしね。
山名 だから私は若い男性にも女性にも名刺を渡しますし、それを皆さん喜んでくれます。くすぶっている若手芸人から相談を受けたりもしますが、一人一人にアドバイスしています。素直な人はすぐに実践して表舞台に立つようになりますね。
佐藤 親身ですね。そうして今の山名はできているのですね。もともと和枝ママのご家族はクラブのお仕事を応援してくれたのですか。
山名 明治生まれの母は、水商売と言えば「体を売る仕事」と考えており、「あなたにそんなに貧乏させた?」といくらそんな世界ではないと言っても信じず56歳で亡くなりました。父には「すごい社長も来る店だから心配しないで」と説明して理解してもらいました。
佐藤 誤解の多い商売ですし、苦労しますよね。それでも今が楽しいと思えるのは素晴らしいですね。
山名 こんなに良い仕事によくぞ巡り合えたと思っています。先日はテレビ番組で、着物姿でゴルフをして150ヤード飛ばしました。そういうお店以外の出会いも楽しい。健康的に生き続けて、人生をもっと謳歌したいですね。