1890年に大阪で創業したクボタは、海外売上比率が約8割を占めるグローバル企業へと成長した。現在、食料・水・環境の事業領域でソリューションビジネスを強化している。2026年には再開発が進む大阪・梅田エリアへの本社移転を予定している。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)
大規模再開発エリアで事業変革を進める
1890年、久保田権四郎(旧姓は大出)によって、クボタの前身となる「大出鋳物」が設立された。
当初ははかりの分銅や部材などの鋳物の製造・販売を手掛け、創業間もなく水道用鉄管の国産化に成功する。その後も農工用エンジンや耕うん機など、人の暮らしと社会に貢献するさまざまな製品を世に送り出してきた。現在のクボタは、食料・水・環境分野で事業を展開し、2023年12月期の売上高は3兆円を超える関西を代表する企業に成長している。
そんな同社は、26年5月にJR大阪駅北側のグラングリーン大阪パークタワーへ本社を移転することを発表している。
同エリアでは、13年に開業を迎えたグランフロント大阪を皮切りに、大規模な再開発事業「うめきたプロジェクト」がスタートした。現在は再開発の第2段階として、商業施設やホテル、オフィス、都市公園などを設けるグラングリーン大阪のまちづくりが進んでいる。同社が新オフィスを構えるグラングリーン大阪パークタワーも、この大規模再開発の目玉となるオフィスビルだ。
「ここ30年、40年で東京が急激に成長し、本社を移転した関西企業もあります。私自身も関西出身ですから、ある意味で関西が後れを取っている状況を寂しく感じていました。しかし、弊社が本社を移転する大阪・梅田エリアでは大規模な再開発が進んでいます。また、25年は大阪・関西万博もあります。相乗効果によって、グローバルに人が集まりイノベーションが次々と生まれる新たな街になってほしいと考えています」と北尾裕一社長は語る。
同社の本社は現在、大阪・難波にある。1970年前後に竣工した5棟の建屋から構成されるが、老朽化が進行していた。
もっとも、本社移転は老朽化だけが要因ではない。同社は元来ものづくりを得意としてきたが、モノからコトへの産業構造の変化を見据えてICTなどを活用したソリューションビジネスの強化を図っている。
そのためには、グループ会社や部門間のシナジー強化、社外のステークホルダーとの連携によるオープンイノベーションの推進が不可欠となる。これらを実現するためにも、よりアクセスのいいオフィスが必要になったことで、このタイミングでの本社移転を決断した。
移転先となるグラングリーン大阪エリアは、イノベーション創出をコンセプトの一つに掲げている。大企業やスタートアップ、大学、研究機関、ベンチャーキャピタル、クリエーターなど多様なプレーヤーが集まるハブを目指している。この立地を生かして、新オフィスでは国内外の顧客やパートナー企業などが気軽に立ち寄れるコラボレーションエリアを設置し、イノベーションを創出する空間をつくる。
また新オフィスでは、従業員のワークススタイル変革にも力を入れ、生成AIなどの先進ITを活用することに加え、国籍や組織などを問わず多様な従業員が情報やアイデアを共有でき、コミュニケーションが活性化する仕組みを整備する。本社移転による社内のシナジー強化と地理的な特性を生かしたイノベーション促進により、企業価値を向上させていく。
ちなみに、難波の現本社ではグループ全体で約2700人が働いており、地元企業として愛着を持つ住民も多い。本社移転後の敷地については、地域のさらなる成長と発展に寄与する有効な土地活用方法を検討していく予定だ。
関西発グローバル企業として地域の発展に貢献していく
同社が26年から本社を構える大阪市北区梅田周辺は、一連の再開発によって、グランフロント大阪やグラングリーン大阪以外にも、商業施設ルクア大阪や、JR大阪駅直結の大規模公園であるうめきた公園などを含めた新たな街に生まれ変わる。グラングリーン大阪の全体開業は27年春頃を予定しており、これをきっかけに関西全体の魅力が一段と高まることが期待されている。
「関西地域には中小企業が多く、昔から多彩な商いが集まる商人の町として栄えてきました。下町文化とでも呼ぶような、独特な気風があるのも特徴です。ただし、一口に関西地域と言っても、大阪、京都、滋賀、奈良、兵庫、和歌山の2府4県それぞれの特色があり、それらが合わさって形づくられるのが関西だと思っています。うめきたプロジェクトを起点に、これから新しい関西地域の文化や経済が生まれていくはずですから、弊社としても地域にしっかりと貢献していきます」
創業から130年以上、関西に根付いて成長してきた同社だが、売上高の海外比率が約8割を占めるグローバル企業でもある。
30年に向けた長期ビジョン「GMB2030」(GMBはGlobal Major Brandの頭文字)の中で目指す姿は、「豊かな社会と自然の循環にコミットする〝命を支えるプラットフォーマー〟」。創業以来、その時々の社会課題の解決に貢献してきたことを再認識し、今後も製品やサービスを通じて豊かな社会と自然の循環を支えていくとの思いを込めた。
本社移転を好機とし、さらなる事業展開を加速させることで、関西を代表するグローバル企業として、関西経済のみならず日本経済を牽引していく。クボタの進む道に間違いはない。
会社概要 設 立 1890年 資 本 金 841億円(2023年12月31日現在) 売 上 高 3兆207億円(連結・2023年12月31日現在) 本 社 大阪市浪速区 従業員数 5万2,608人(連結・2023年12月31日現在) 事業内容 食料・水・環境の領域において、多彩な製品・技術・サービスによるソリューションを提供 https://www.kubota.co.jp/ |