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新たな価値を創造しながら訪れたくなる「まち」を実現 長谷川一明 西日本旅客鉄道

西日本旅客鉄道 長谷川一明

近年、JR大阪駅周辺が賑やかだ。西日本旅客鉄道を中心にJR西日本グループが、鉄道からホテル・不動産・ショッピングセンターなどに事業を広げた「まちづくり」に取り組んでいるからだ。大阪・関西万博を控え、さらなる関西の経済活動をリードする。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)

西日本旅客鉄道 長谷川一明
西日本旅客鉄道 長谷川一明

大阪駅周辺の開発と北陸新幹線の延伸開業

 JR西日本グループでは「長期ビジョン2032」を掲げ、その実現に向けた3カ年計画「中期経営計画2025」を実行してきた。昨年その主体となったのが、大阪駅西側地区を中心とした「まちづくり」だ。充実してきたうめきたエリアに続きイノゲート大阪、また、同社グループも加わりJPタワー大阪を開業。さらに同エリアに広がる梅田貨物駅跡地ではグラングリーン大阪というまちづくりが進行している。

 「大都市圏の駅と直結している場所にグリーンがあるという、これまでにない『まち』です。また、3月には商業施設うめきたグリーンプレイスを全面開業します」と長谷川一明社長は説明する。

 まちの中心となるのはうめきた公園で、大規模ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大級の規模(4万5千㎡)を誇る。

 また、3月に北陸新幹線の金沢-敦賀間を延伸開業したことも昨年の大きな成果の一つだ。東京から福井県まで乗り換えなしでアクセスできるようになり、関東から北陸エリアへの観光客は急増。さらに現在は広島駅周辺の開発も進行中で、今春には駅ビルが開業し、駅を中心としたまちづくりを大幅に進化させていく。

 昨年4月には「中期経営計画2025」をアップデートした。「コロナからの回復スピードが予想以上に速かったこと」と「インバウンド需要の増加」が要因だと長谷川社長は語る。キャッシュフローが潤沢になった分、安全・設備投資、株主還元などに回すことができたという。長期ビジョンの実現に向けた第一ステップは、想定以上の成果を上げたと言えるだろう。

鉄道の安全性向上のため、たゆまぬ努力を使命に

 長期ビジョンにおいては当然「鉄道の安全性向上」も重要項目として挙げている。「JR西日本グループ鉄道安全考動計画2027」という5カ年計画を掲げ、ホーム柵や線路の逸脱防止ガードなどの整備、鉄道運行やメンテナンスの技術・業務革新などを行っている。

 「ホーム、踏切、自然災害への対応など、全てにおいて安全性を高めるよう努めています。特に関西はホーム柵の設置が遅れているので、早急に取り組んでいるところです。近年はこれまでに経験したことがない規模の自然災害が起こるので、構造から強くし、災害時のオペレーション訓練にも力を入れるなど、ハード・ソフト両面で取り組んでいます」

 また、「2005年の福知山線列車事故の反省を元に、安全性を高めることを追求してきた」とも語る。今年12月頃には事故車両を保存する施設の完成を目指しており、事故に向き合い続け、事故の反省と教訓を継承していく。

デジタルマーケティングと大阪・関西万博の成功が鍵

 同社はデジタル戦略による多様なサービスの展開にも力を入れている。「デジタルの活用方法は大きく三つある」と長谷川社長は説明する。

 一つ目は「お客さまとの接点を強めるマーケティング戦略」。利用データから顧客一人一人に合ったきめ細かいサービスを行う。二つ目は「鉄道のメンテナンス領域での活用」。例えば、検査データから故障予測を立てて先手で動くなど。三つ目は「従業員の働き方改革」。アナログな作業に生成AIや従業員自らが開発したアプリなどを採り入れることで効率性や安全面を向上させる。

 とりわけデジタルマーケティング戦略は、まちづくりの推進には欠かせない。同社グループの運営するホテルやショップ、レストランだけでなく、地域のさまざまな事業者が運営する店舗でも新たなスマホ決済サービス「Wesmo!」で決済できるようにし、金額に応じてポイントを付与して、鉄道予約や買い物等に利用してもらうことを考えている。

 「Wesmo!は現在、登録申請中です。これが実現すれば、お客さま一人一人に合わせて、鉄道からその他のライフスタイルに至るまでトータルでサービスを提供できるようになります」

 鉄道やホテルなどのモビリティサービス分野に対して、まちづくりやデジタルサービスなどのライフデザイン分野の構成比は現在25%程度だが、32年には40%まで伸ばすことが目標だ。

 また、今年4月より大阪・関西万博が開催される。国内外から大勢の人が関西へ訪れるため、「経済効果は大きい」と期待が高まる。期間中のスムーズな輸送に向けて、主要駅の整備からオペレーションまで万全の準備を整えている。

 「多くのお客さまが安心して大阪へ訪れ、万博を楽しんでいただけることを目指します。万博を成功させることはもちろん、これを一過性のものとせず、レガシーとして今後に生かしていかなければ」と語る。

 他にも、京都駅の混雑を解消するための隣駅・山科駅の整備、三ノ宮駅ビルの開発、関西空港と大阪駅のアクセス整備なども推進中。関西のネットワークは30年頃には目覚ましい進化を遂げているはずだ。

 「住みたいまち、訪れたいまちをつくることで、移動が生まれ、鉄道事業を維持・発展できる。そのためにも各地域と連携したまちづくりも大切にしたいと思っています」

 同社グループはこれからも、関西そして西日本全体の経済発展に貢献していく。 

会社概要
設  立 1987年4月
資 本 金 2,261億3,600万円
売 上 高 1兆6,350億2,300万円
     (2023年度連結決算)
本  社 大阪市北区
従業員数 2万4,300人
     (連結子会社含む4万4,366人)
事業内容 モビリティ業・流通業・不動産業・旅行・地域ソリューション業など
https://www.westjr.co.jp/