東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)はヘッドハンティングファームとして半世紀の歴史を有すパイオニア。業界横断的な採用支援や幅広いサーチ手法に定評があり、特に採用難易度が高いエグゼクティブポジションや高度専門職の採用支援に強みを持つ。(雑誌『経済界』2025年9月号より)
福留拓人 東京エグゼクティブ・サーチのプロフィール

半世紀の経験値と独自の手法で転職動機の薄い潜在層を開拓
東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)設立は1975年。創業者の江島優氏は、「資源のない日本が世界市場で生存するためには人材が核となる」との想いから人材ビジネスを立ち上げた。終身雇用が一般的な昭和にあって、その創業は日本の人材ビジネスの黎明期に当たる。
現社長の福留拓人氏は、「現在、国内に人材会社は約1万6千社あるとされていますが、創業時は当社を含めて7社しかなく、『7社時代』とも呼ばれています」と回顧する。
TESCOの強みはエグゼクティブからミドル、若手幹部候補に至るまで幅広いクライアントの人材ニーズに対し、期待以上のソリューションを提供可能なことにある。
人材紹介会社は通常、登録されたデータベースから紹介を行うが、TESCOは豊富なサーチ経験や幅広いネットワークから独自の候補者群を構築する。
「われわれが求める人材は、転職動機の薄い潜在層です。膨大なネットワークの中から求める人物像に適した候補者を選定してコンタクトします。時にはクライアントが競業企業の有力人材を『バイネーム』で求めるケースもあります。例えば業界の著名人や競業企業の若手幹部であっても、独自の手法やスキームを用いて『3人たどれば会えない人はいない』というポリシーに基づき行動します。接触の難しい人物であっても、高い確度で交渉のテーブルへのプロセスを提供できることが、当社の存在理由の一つとなります」
一方、不特定多数からのサーチにおいては、クライアントの求める人材像に合致する50人ほどの候補者群を構築することから開始する。50人の中で1割に当たる5 人は交渉のテーブルに着き、そこから1~2人が決定する。
「経験則から、成功率は概ね50分の1です。つまり最初に50人の候補者群をいかに形成できるかに成否がかかっています。候補者群の想定数量がこれを明らかに下回る場合は依頼を断るケースもあります」
その後の交渉プロセスにおいても、TESCOのサポートは欠かすことができない。第一線で活躍中の優れた人材を翻意させるには「心を動かす」ことが求められる。
「競争力のある報酬やポジション、キャリアパス等、決定に至る条件はさまざまですが、優れた人ほど待遇のプライオリティは低い傾向があります。仮に1・5倍の年収提示があっても、同じ業務を任されるより、新しい挑戦ができる環境や経営陣へのキャリアパスがある方が、決定への確度は高くなります」
競合他社からのヘッドハンティングにはさまざまなリスクが懸念されるが、同社が培ったナレッジがその救済となるケースは少なくない。
「業種や職種、ポジションによって候補者の志向性は大きく変わります。『競業に移ることは自身のポリシーに沿わない』と固辞される方もいます。また訴訟リスクもゼロではないため、法的、倫理的観点から安全圏がどこまでか、という予見とその対策を幾層にも施しています」
ミドルクラスの人材争奪戦も賃金、流動性、定着率の循環を
TESCOが取り扱うインダストリは、製造業、IT、不動産建設、消費財、コンサルティング、ヘルスケア等幅広く、近年は将来の幹部候補を見据えたミドルクラスの依頼も増加している。
「この主要因は少子高齢化です。年間出生数が70万人を割る現況を鑑みて、若手人材の争奪競争は当面続きます。経営幹部の育成のため、『ゴールデンゾーン』と呼ばれる28~38歳までの優れた人材の確保は特に激しさを増しています。国内市場が縮小していく中、新規事業を試行する企業も多く、事業戦略を実行できる幹部候補は常に求められています」
初任給の高額化など人材獲得競争が加熱する中で、福留社長は「雇用の流動性向上が賃金を浮揚させる」という視点が必要だと語る。
「雇用の流動性が高まれば、賃金も上昇することは必然です。そして人材を定着させるための環境整備等も欠かせません。賃金、流動性、定着率という一見矛盾したトライアングルの好循環が、企業の競争力を高めていると捉えることも可能です」
TESCOが要するヘッドハンターは約20人。全体では年間300~400人程度の決定を継続しており、人数比での実績は高い。
「人材業界経験者からコンサルタントを採用することは稀です。人材サーチは労力とストレスを伴う仕事であり、アカデミックな基礎教養と交渉力の両立が求められます。私もヘッドハンター出身で、創業者の江島と血縁はありませんが、入社後3年目に2代目社長にアサインされました。私もいずれは優れた人材にオーナーシップを譲りたいと考えています」
ヘッドハンティングファームとして老舗の定評のある同社だが、福留社長は挑戦へのコミットメントを崩すつもりはない。
「外資系金融機関や資源・エネルギー企業、戦略コンサルティング、医療テック等の未踏領域は少なくありません。ただし、その達成と会社の急拡大はイコールではありません。人材サーチファームとしてカニバリゼーションを防ぐためにも、50人程度の陣容が最適と考えています。教育や修練には時間も含め多くのコストを投資し、洗練を基調とした緩やかな規模拡大を考えています」
| 会社概要 設立●1975年11月 資本金●5,650万円 本社●東京都中央区 従業員数●25人 事業内容●人材サーチ、顧問サービス、後継者紹介サービス等 https://www.tesco.co.jp/ |

