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増刷率9割の出版プロデューサーが明かす「本が売れない時代に売れる本をつくる」秘訣

一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

出版不況と言われて久しい。インターネットに読者を奪われ、紙の本がますます売れなくなっている。そんな時代にあって、手掛けた本の増刷率90%、平均部数5万部を達成しているのがかぎろい出版マーケティング代表出版プロデューサーの西浦孝次氏。同氏がこれまでの経験から培った、売れる本をつくるためのノウハウを披露する。(取材・文=吉田浩)

西浦孝次氏プロフィール

(にしうら・こうじ)出版プロデューサー。一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表。奈良県出身。大手出版社で書籍マーケティングを手掛けた後に独立し、かぎろい出版マーケティングを立ち上げる。その後プロデュースした書籍は平均増刷率90%、平均販売実績48,000部を達成。20万部を突破した堀江昭佳氏の『血流がすべて解決する』を仕掛けるなど、数々の実績を持つ。独自に培った「売れる本づくり」に必要な販促ノウハウや、読者づくりのためのオウンドメディア構築に関するセミナーも開催している。

 西浦氏は学研の販売部門勤務を経て2010年に独立。書店や取次への営業を通じて培ったマーケティングノウハウをベースに、出版プロデューサーとして平均で5万部という実績を重ねてきた。

 販売畑出身の西浦氏が得意とするのは、書店のどの棚に本が置かれ、どのような広告を打ち、どうやって口コミを広げていけば売れるかといったところから戦略を組み立てていく逆算のマーケティングだ。いくつもの出版社に企画を持ち込んで、あとは著者と編集者にお任せといった出版プロデューサーも多い中、本の制作から発売後の販促まで、アグレッシブに関わっていく。

 一方で、企画力についても学研時代に鍛えられた。同社は伝統的に販売部門の力が強く、編集部が上げてきた出版企画を突き返すことも日常茶飯事。本のタイトルや内容について、販売から編集に逆提案するのも珍しくない社風だった。年間1千本に近い企画に目を通してきた西浦氏も、ここで「売れるか売れないか」を目利きする力を養ったという。

 以下、西浦氏がサラリーマン時代と独立後を通じて、試行錯誤の末にたどり着いた「本が売れない時代に本を売る」ためのポイントを紹介する。

売れる本をつくる秘訣①―市場規模を考える

 書籍は企画の段階から、単に内容が面白いというだけでなく、どうしたら売れる形になるかを考える必要がある。そのために重要なのが市場規模だ。内容が同じでも、大きな市場を取れるように切り口を工夫することが大切だ。

 例えば、西浦氏が手掛けた著者の1人に、食育についての本を書きたいという女性がいたが、食育に興味のある読者は限られていた。著者に書きたい内容を聞くと、若い女性たちが偏ったダイエットにより不健康なやせ方をして、流産や早産、不妊などの問題につながりやすいという現状があるので、これを何とかしたいという。

 そこで、健康的に痩せるノウハウを提供することで、結果的に食育の啓発になればいいのではないかと考え、ダイエット本として売り出したところ、大きく部数を伸ばせた。

 市場を見る基準は、「直近で10万部以上のベストセラーが出ているジャンルかどうか。潜在読者数で見ると失敗する」と西浦氏は指摘する。

 たとえば風邪をひく人はたくさんいるが、ほとんどの人は病院に行くか薬で治してしまうため、風邪の治し方を本にしても売れないのは容易に想像がつくだろう。

 市場が大きくなると競合も増えるため、ウェブ検索で上位に食い込むのは難しいが、ダイエットや美容健康本などは紙の書籍だとまだ売れやすい。

 「ターゲットの属性や競合性から、ウェブでは届きにくいテーマがまだまだ存在する。そういった『紙の本の方が強い』ジャンルが狙い目」だという。

売れる本をつくる秘訣②―発売後の初速を上げる

 

 市場が大きい分野で戦うためには、本の発売後、販売の初速をいかに上げるかが重要だ。初速で消化率が高ければ、出版社サイドも広告宣伝に力をかけやすくなるからだ。

 そのためには、本の発売から1週間~6週間ぐらいまでの計画を綿密に立てる。発売後にどう売るかを考えても遅いのだ。西浦氏の場合は、著者の原稿が完成する前に販売戦略を練り、スタートダッシュに成功することで増刷率が9割を超えた。

 初速を出すためには、書店で新刊本を常にチェックしている読書マニアの心をいかに掴むかが重要になる。老若男女問わず、毎週本屋に立ち寄って、特定ジャンルの新刊本をチェックしている層は一定数存在する。彼らに刺さるメッセージを送るための具体的なアクションとして、ポップや本の帯など、打ち出し方を考え抜くことが求められる。

 ちなみに、西浦氏が手掛けて22万部を達成した『血流がすべて解決する』(堀江昭佳著)という本の場合、“「血液サラサラ」ではなく、「血流たっぷり」をめざしなさい。”という帯のフレーズが、ある週刊誌編集者の目に留まり、すぐに取材依頼が来たことで勢いがついた。「無料の広告スペース」である帯を有効活用することが、いかに重要かを物語っている。

売れる本をつくる秘訣③即実践できる販促プランを用意する

 著者の努力も必要だ。出版社としては、初速で10%以上の消化率が欲しいところ。新刊の配本部数が4千冊なら、発売後1週間で400冊は売りたい。そのうちの100冊程度は著者自身に売ってもらうのがベターだ。

 西浦氏いわく「企画書づくりや、原稿執筆で力尽きて、いざ出版のときに販促がノープランという方が非常に多い。これでは売れる本も売れないので、行動できるレベルでプランを用意しておくことが大切」とのことだ。
「たとえば著者の知り合いで買ってくれそうな人をリストアップして、一人ずつアプローチすれば65%くらいは買ってくれる傾向にある。100人に売るには200人程度にメッセージを送ればよいので、発売から逆算して、だいたい10日前までに200人にメッセージを送るというプランが立てられる」

 そのために、著者にはSNSでの丁寧なコミュニケーションに力を注いでもらう。フォロワーだけが増えても関係が薄いと本当の意味では力になってもらえないからだ。

 「タイムラインをコミュニケーション・ボードだと思って、意見交換をしていくのが大事」とコミュニケーションの質を重視する。

 SNSをやっていない著者の場合は、たとえば自分の顧客などにアプローチしてもらうことをアドバイスする。そしてSNS以外で「著者のことを全く知らない層」へのアプローチにも力を注ぐ。

 具体的には著者に自分のウェブメディアを立ち上げてもらい、SEOを意識した記事づくりで潜在顧客への情報発信を行う。発売までに月間30万PVくらいまでにしておくことができれば、かなり初速はつけやすいという。

 「サイト立ち上げから、検索ユーザーの流入、リピーター化を考えると相当の準備期間がいる。発売後に慌てて準備していては間に合わない」と事前準備に余念がない。

売れる本をつくる秘訣④―コアなファン以外に読者層を広げる

売れる本づくりのために、セミナーで講師も務める西浦氏。

 コアなファンに売れた後は、違う層に訴求するために向けにポップなどを変更していく必要がある。

 「読者層を広げる努力をしっかり行うことによって、10万部までは売れる。本は早く、長く売ることが大事。初速で成功しても、その後1年以上店頭に置かれない本は10万部に達しない」と、西浦氏は言う。

 10万部を超えた後は、SNSなどを利用して、口コミでどれだけ拡散できるかがポイント。口コミはネットとリアルがあるが、リアルの口コミを広げるには、テーマが女性向けの本が有利だ。

 自動車などの高額商品より、化粧品や美容健康、ファッション関連など、「商品が低額で、かつ、使ってはじめて良さが分かる商品」のほうが他人の評価が気になり、口コミが広がりやすい傾向にある。

 もう1つ、本のテーマ選びの1つの基準として西浦氏が挙げるのは「弱っているときにも抵抗なく読める本」。つまり、勇気づけられ、元気が出て、身体がしんどくても読める本ということだ。

 また、「口コミの際は本のフレーズを抜き出して伝える人も多いので、見出しなどに名言らしきものを10個程度仕込んでおくと良い」ともアドバイスする。

 

売れる本をつくる秘訣⑤―信頼できるパートナー選び

 出版プロデューサーの中には、著者を出版社に紹介して企画を持ち込んで終了といった人物も多い。中には、50社に一気に企画書をバラまいて、返事が来たところから会いに行けと著者に指示するケースもある。結果として複数社で似た内容の本を出すことになってしまい、部数が分散してしまうようなこともある。著者としては1社からベストセラー出した方が大きな実績になるので、これではもったいない。

 編集者から書店員にいたるまでしっかりした人脈を持ち、企画段階から本の発売後まで一緒に動いてくれるプロデューサーであれば心強い味方になるはずだ。

売れる本をつくるには全方位のマーケティングが必要

 上記に加え、現在はツイッターやインスタグラムなどのインフルエンサーによるマーケティングも重要度を増してくるだろう。特にツイッターは日本においては影響力が大きく、「バズりやすい」メディアだ。

 「以前は10代、20代がツイッターユーザーのメインだったが、今は30代まで利用者層が伸びている。10年後には40代、20年後には50代もツイッターを見て本を買うようになるかもしれない。今まで以上に数千、数万人のフォロワーがいる読書アカウントの重要度が増すのでは」と、西浦氏は指摘する。

 本を書くということのハードルは下がっているが、「売れる本」にするためには、全方位のマーケティングと相当な努力が必要な時代となっている。だが、

 「本を売るための方法は分かっているので、きちんとやれば結果は出ます」と西浦氏は断言する。

 しっかり頑張れば結果が出るという意味では、無名の著者にもチャンス到来と言えるだろう。

 いずれは本を出版したいと考えている人は、西浦氏のロジックを参考にしてみてはいかがだろうか。

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