マネジメント

組織での意思決定は極端な方向に振れやすい

 自分の組織の意思決定はどうもオカシイと思う人は少なくないだろう。スピードが遅い、何も決まらない、誰も責任を取らないなど思い当たる人も多いだろう。組織でモノゴトを決める場合には、複数の人の知識を活用できるため、個人よりも質の高い意思決定ができるように思われるかもしれない。しかし実はそうではない。今回は、「みんなの意見は案外正しい」が「みんなで決めると結構正しくない」という点について考えてみよう。

 組織での意思決定は極端な方向に振れやすい。これを最初に発見したのは、MITの大学院生であったジェームズ・ストーナーであった。彼は、集団で議論をして意思決定を行うと、個人が独立して意思決定を行うときよりもリスキーな選択をしてしまう傾向を発見した。1961年であった。これは、リスキー・シフトと呼ばれ、その後の社会心理学の実験でも度々確認されてきた。

 これは、集団極性化(グループ・ポーラライゼーション)とも呼ばれており、ある極端な方向へと組織の意思決定が進む傾向のことである。

 トルーマンの北朝鮮の侵攻や、ケネディのピッグス湾事件、ジョンソンのベトナム戦争の意思決定でもこの組織の意思決定における集団極性化は起こっていた。組織論の観点から客観的な戦力の分析から逸脱していく日本軍の行動を分析した有名な『失敗の本質』も、組織における意思決定の集団極性化がポイントの1つである。これらの歴史は、集団極性化が組織を大きなリスクへと導く可能性を示唆している。

 なぜ、このような集団極性化が起こるのだろう。組織内では多数派の意見が知らぬ間に増幅されていく。組織の中では他のメンバーに対して、「勇敢であること」「高い自信を持っていること」を「顕示」する傾向が出てくる。これは、集団極性化を促す。

 また、集団的な合意に対する圧力が強い場合には、注意が必要である。反対意見を言う人は、組織から弾かれてしまう。組織の「忠実」なメンバーではないとみなされるからである。その反対意見が、極めて的を射たものであったとしてもである。

 組織に「NO」と言えないマジックワードがある場合も危険である。これは、カリスマ的なリーダーが組織の中で構築されていく時によく見られる。日本には松下幸之助や本田宗一郎、出光佐三や小倉昌男などカリスマ性の高いリーダーがいる。彼らが去った後、組織の中で独り歩きする彼らのカリスマ性に悩まされている企業も少なくない。彼らが神聖化されてしまい、彼らの残した「言葉」が反対意見を封じ込めるために使われてしまうのである。

「エコ」や「グローバル」などもマジックワードになる。これらに正面から「NO」と言うのは難しい。その結果、集団的な意思決定が極端化してしまう。「エコ」や「グローバル」という名の下に、極端な意思決定がされるのである。

 良い例が2009年から開始された家電エコポイント制度であろう。「エコ」という観点から、環境省、経済産業省、そして総務省がエアコン、冷蔵庫、そして地上デジタル放送対応テレビにエコポイントを支給した。支給額はテレビが大きな割合を締めた。

 しかし、地デジ化が迫っていたために、テレビに関してはわざわざエコポイントを支給しなくても、消費者の買い換えは進んだはずである。政府の人材育成関連の政策でも「グローバル」と名の付くものが乱立している。そのマジックワードが狡猾に利用されると、組織の中で同床異夢が起こってしまう。NOと言えないマジックワードは集団極性化を促進する。

多様性と独立性が意思決定の極性化への歯止めに

 組織の意思決定がいったん極端な方向に向かってしまうとその舵を元に戻すのは難しい。そうならないようにするにはどうしたら良いのだろう。まず、集団的な合意に対する圧力を弱めておく必要がある。組織のリーダーは、組織内での批判を促進しなければならない。そのためには、一般的なリーダーシップ像とは反対であるが、時には自分の意見をできるだけ積極的に示さないようにすることも重要である。

 集合知が衆愚にならないためには、多様性と独立性が大切であると『「みんなの意見」は案外正しい』の著者のジェームズ・スロウィッキーも言う。多様性がなく、お互いが気を使い出すと組織はあっという間に衆愚になる。

 多様性や批判を組織内に醸成するのは簡単ではない。多様な意見や批判が組織内でなされれば、それをまとめるためには、当然、意思決定に高いリーダーシップが必要とされる。自ら組織をかき回し、多様性を高めながらも、最終決定を行うリーダーである。また、株主などのステークホルダーの声も重要である。

 日本企業は、安定株主をつくり、株主からの圧力を避けることを好む。株主からの声が小さいほうが、「長期的な視野」で経営ができるという。しかし、彼らの「声」は、組織の意思決定が極端な方向に向かうことの歯止めとしても機能しうる。社外取締役などの選定についても、摩擦を避ける傾向がある時には要注意である。

 

[連載] 世界で勝つためのイノベーション経営論
米倉誠一郎氏 & 清水洋氏の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る