国内最大の車両保有台数を誇るタクシー会社の第一交通産業は、田中亮一郎社長の「地域の足を守りたい」という思いの下、全国76地域で乗合タクシーを展開している。一方で、MaaSなど次世代移動サービスへの参画にも積極的だ。(雑誌『経済界』2025年1月号「躍動する九州」特集より)
業績は3期連続増収。コロナ前水準に回復
第一交通産業の業績がコロナ禍を経て回復してきている。2024年3月期は、売上高が3期連続増収で1007億1100万円となり、4期ぶりに1千億円を超えた。主力の交通部門はタクシー事業、バス事業共に増収。もう一つの柱である不動産部門は、不動産分譲事業が前年の反動減で減収だったが、不動産賃貸事業が増収となった。マンション販売は健闘し、23年の販売戸数は九州地区で1位となった。全体の営業利益は同15・2%増の30億5400万円で3期連続増益となった。
25年3月期予想は、売上高で3・1%増の1038億円、営業利益で14・6%増の35億円。交通部門は客足が戻ってきたこととインバウンドの増加が奏功して5期ぶりの営業黒字を見込む。分譲マンションの引き渡しが下期に集中する不動産部門は、24年9月引渡物件の契約率が9割と好調に推移しており計画通りに着地する見通しだ。
76地域に乗合タクシー。同業ネットワーク800社
8千台以上のタクシーを保有し、全国34都道府県で展開する同社。田中社長は「地域の足を守りたい」という思いを強める。その象徴が、交通インフラが縮小する地域の住民をサポートする「乗合タクシー」だ。
約20年前から取り組んでおり、今では全国76地域・312路線となった。コロナ禍の間に約100路線増やした。24年5月にも、坂の多い北九州市内で廃業した乗合タクシー会社の路線を引き継いだばかりだ。地元住民の移動手段と同地域の商店街の賑わいを守ることに貢献した。今後も交通インフラの縮小に悩む地域や自治体に積極的に声を掛け、乗合タクシーでサポートしていく。
同業他社との連携も強めている。16年に他のタクシー会社との間で「No.1タクシーネットワーク」を発足。24年9月末時点で、47都道府県の800社以上が加盟し、車両台数約4万台のネットワークになっている。結果、国内にある約640のタクシー営業区域の全てを網羅できるようになった。日頃からタクシーチケットの相互利用や配車を協力し合っているが、特に効果が大きいのが資材の共同購入や燃料調達、車両のリースなど。同ネットワークが窓口となることで、仕入れコストを下げることができる。
近年はそのスケールに魅力を感じる他業種の参画も増えている。自社商品を売り込みたいリース会社や保険会社、商社など20社超が賛助会員として参画。各社からの提案は子会社のダイイチモビリティネットワークスが対応し、加盟会社のメリットになる商品を各社に卸す新たなビジネスが生まれている。
MaaS、自動運転にも積極的に取り組む
次世代の移動サービスにも携わる。MaaSはアプリに電車やバスなど複数の交通手段の中から最適な移動ルートが提示され、利用者が予約や乗車券購入などを一括できるサービス。24年8月から九州7県を対象に「九州MaaS」が官民100社の連携でスタートし、同社は中心メンバーの1社として参画している。
また沖縄県豊見城市では、地元自治体やNECらと組んで、10月から自動運転バスの実証事業が始まった。
一方、ライドシェアについては「全面的に反対するわけではない」としつつも、「タクシーの台数規制を含め、まず規制緩和に取り組むことが先決。また日本版ライドシェアは事前確定運賃が採用されるので、スマホで配車アプリやキャッシュレス決済機能が必要になる。過疎地域の高齢者などが積極的に利用するのは想像しにくい」と指摘する。
また、「高齢者にとってMaaSや自動運転を『利用できる地点に行き着くまで』と『利用した後の先にある目的地まで』は、乗り慣れたタクシーが最も使いやすいのではないか」と話す。こうした状況を踏まえても、今後はむしろタクシーの出番が増えていきそうだ。
会社概要 設立 1964年9月 資本金 20億2,755万円 売上高 1,007億円(連結) 本社 福岡県北九州市 従業員数 約1万3,000人(グループ) 事業内容 タクシー・バス・船舶事業、不動産分譲・賃貸・再生事業ほか https://www.daiichi-koutsu.co.jp/ |