【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方
こんにちは。加藤昌治です。社員あるいは部下の方々から「アイデア入りの企画」を出しやすくする環境マネジメントを実践的に考える本連載。第6回は、出てきたアイデアを他のモノに交換あるいは入れ替える「云い換え」技についてです。ブレストにも役立つアイデア出しの基本技ですので、ぜひ覚えて使ってみてください。(文=加藤昌治)
加藤昌治氏のプロフィール
今回も、まずは読者からのご質問と前回の復習
質問:ブレーンストーミングでの具体的なアイデアの出し方はありますか?
質問:部下が「他人のアイデアに『乗っかる』のが怖い」と言います。どう助言したらいいですか?
今回もご質問ありがとうございます。前回(「上司は正しいブレーンストーミングを覚えて実施しよう」)は、チームとしてアイデアを増やす方法であるブレーンストーミング(以下ブレスト)についてご紹介しました。またブレストを実施する際に、上司がやってしまいがちな失敗も。しかし「やっちゃダメなことの列挙」だけでは、物事は前に進みません。前回では、「AをA’、さらにA’’にする」なんて記号を使ってましたが、概念はまあわかったけど、それで部下たちはリアルにどうやるの? は当然気になるところですよね。
また「’(ダッシュ)と言っても?」も実際、よく聞かれるご質問です。私はこの「AをA’、さらにA’’にする」技、スキルを「云い換え」の技、と呼んでいます。第3回(「アイデア出しの技『云い出し』と『云い換え』って?」)、第4回(「直感的な云い出しの技「死者の書」でアイデアを考えてみよう」)でお伝えした「云い出し」との対比をした云い方です。ではどうやって「云い換え」るのか? それが今回のテーマです。
「云い換え」はアイデアのパーツを入れ換える技
「云い換え」技って、実はシンプル。目の前にあるアイデアが持っているパーツ・要素を他のモノに交換・入れ換えること。基本的にはそれだけです。
例えば次の図のような「アイデアスケッチ」が目の前にあった、としましょうか。
「給料振込み禁止令!」なるアイデア。これが良いのかどうか、判断は後でするんでしたね。また、こちらはまだアイデア。企画としては整っていませんから、このままでは実現できないでしょう。現金……って、それ経理部が毎月用意するわけ? 渡すにしても、その後その現金なくしたらどうするの?! などなど質問だらけ、疑念だらけ。ツッコミどころ満載です。でもアイデアってそういうもの! なのは過去連載を参照いただけると幸いです。
それはそれとして、このアイデアを「云い換え」ていきます。このアイデアスケッチのどの辺が「入れ換える対象」になるのでしょう? ベースとなるのは、実際に記載されている情報です。つまりは「給料」「振込み」「禁止」。さらには「現金」「渡す」など。
こうしたアイデアを構成してくれているパーツ、要素を「ズラして」みます。
例えば、「給料」→「ボーナス」とすると、次のようになります。
■元アイデアA:「給料」振込み禁止令!
■新アイデアA’:「ボーナス」振込み禁止令!
これでOKです。元アイデアが「アイデアA」。そして新アイデアが「アイデアA’」です。え、これだけ? はい。これだけ。「給料振込み禁止令!」と「ボーナス振込み禁止令!」は別のアイデアです。だって給料=月給なら、ボーナスは年に1回もしくは2回。当然金額だって違います。違うモノを現金で頂戴するんですから、これは全然(という感覚になってもらえると嬉しいのですが)、別のアイデアです。こうやって捉えるのが「云い換え」上手への近道です。
……なのですが、多くの方は、ここで止まってしまいがち。止まる理由はいくつかあります。
まずは「給料もボーナスも同じでしょ?」な疑問。抽象化のレイヤーを上げたら、そりゃお金はお金、でしょう。けれども、こちら先ほど申し上げたように、もらう側からしても、あるいは渡す側からしても全然まったく別種類のお金じゃありませんか? と改めて見直してください。アイデアのレイヤーは具体的なものです。抽象度が高すぎるものはアイデアとして機能しません。括り上手はアイデア下手、とでも申しましょうか。上司の皆さんはこの点、ご注意いただきたいところですね。
そして、「ズラすこと自体への恐怖/畏れ」も確かにあります。特に、そのアイデア(給料振込み禁止令!)が上司や先輩から出てきたアイデアだとしたら、「云い換え」に対する恐怖感は増しがちです。おそらく、その背後にある感情は、「給料……」はダメなアイデアで、「ボーナス……」はちょっと良いアイデアかもしれない、というアイデアを相対的に比較してしまう心持ちです。
比較する=判断する、に直結しがちなんですよね。もちろん人間なのでアイデアを見たりしたときに判断に近い感情、意識がチラッと脳裏をよぎるのはよぎります(前回参照)。それ自体は否定しません。ただ、それを前に出してきてはいけません。アイデアの善し悪しを判断するのは「後で」やること。今アイデアを出している段階では「給料……」があるなら「ボーナス……」だってあるよね? と素直に「ズラして別のアイデアをつくる」を求めたい。
慣れない期間は、むしろ淡々と作業的に「云い換える」のもお勧めです。「給料→ボーナス→交通費とか経費として請求した金額だけ→毎月2万円だけ→……」といった感じ。
■アイデアA:「給料」振込み禁止令!
■アイデアA’:「ボーナス」振込み禁止令!
■アイデアA’’:「請求した経費だけ」振込み禁止令!
■アイデアA’’’:「毎月2万円」振込み禁止令!
ちょっと云い換えるだけでダッシュが増えて……3つも新しい「云い換えアイデア」が誕生しました。こうした「ちょっと」をポジティブに推進する、部下を励ますのがブレーンストーミングでの上司の役割でした。
そして慣れてくると、もっと大胆に「云い換え」が自然にできるようになります。「給料→ボーナス→ボーナスの個人差定額分……」なんて感じ。
■アイデアA’’’’:「ボーナス個人査定金額」振込み禁止令!
「云い換え」の最初はもともと記載のあった要素に近いところから始まって、だんだん離れていく=突飛な要素に云い換えられていく。アイデアの数はどんどん増えていきます。素晴らしいです。この辺まで来ると「云い換え」なんだか「云い出し」なんだかよくわからなくもなってきます。それはそれでOK。欲しいのはアイデアの数。「云い換えマスター初段」になりたいわけじゃありません。「云い換え」はあくまでもスキル、道具でしかありませんから。
アイデアスケッチにないことも「云い換え」の対象に
ここまで、「給料」を要素のサンプルとして説明してきましたが、「振込み」「禁止」「現金」「渡す」も同様です。「現金→アメリカドル→メキシコペソ→何とかポイント→飛行機会社のマイル→ストックオプション→……」もう止まることなくアイデアが出てきます。「元のアイデアに悪いな~」なんて感情の壁を取っ払えたら、もうアイデアが止まらなくなるハズ、です。
そして、「云い換え」の対象は、そのアイデアスケッチには「書いてないこと」でも可能です。例に戻って「給料振込み禁止令!」ですけど、これ「現金でお給料をもらえる回数」については具体的な記載はありません。明確には描いていないけど……たぶん「毎月」なんだよね? と仮定できたら、ズラせます。
「毎月→偶数月→年2回(指定可能)→年3回(ランダムで選べない)→……」といった具合です。当然ですが、これはこれで「別アイデア」になるわけです。
もうちょっと整理をすると、あなたの目の前にあるアイデアスケッチの要素とは、基本的には5つのWに分類されます。Who(誰が)、Why(なぜ)、What(何を)、Where(どこで)、When(いつ)、ってヤツですね。アイデアによっては、5つのW、すべて揃ってはいません。というか、多分揃ってないことがほとんどでしょう。しかし、描かれていようがいまいが、「云い換えの対象」にはなり得るわけですね。
さらに言えば、ズラす対象が1つだけ、である必要もありません。いっぺんに2つ3つを同時に「云い換え」ていただいても大丈夫!
■アイデアA:「給料」振込み禁止令!
■アイデアA’’’’’:「ボーナス」振込み禁止「部署」!
「給料→ボーナス」にプラスして、描いてないですけど「全社一律」を「当該部署だけ」に交換したら、こんなアイデアになりました(そんな部署に配属されたいかどうかは別の話です)。
「云い換え」も「云い出し」同様にわがままに!
こんな風に「云い換え」技を解説していくと、「基本的なやり方はなんとなくわかったんですが……」というご質問を頂戴します。どのくらいズラして/交換していいの?! 的な疑問ですね。
私のお応えは「わがままに!」です。縛りなんてありません。好き勝手にやっちゃってください、です。
Q:どの対象をズラす?
A:わがままに!
Q:どれくらいズラしてよいの?
A:わがままに!
そう、アイデアを出すときに欲しいのは「わがまま」でした(第1回(「『企画』と『アイデア』は同じモノではありません」)。これは「云い出し」だろうと「云い換え」だろうと変わりません。むしろ一見作業的な「云い換え」こそ、わがままになってもらった方が良いかも、と真面目に思います。
かつ、その「わがまま」はアイデアパーソン各人の体験・経験に裏打ちされています。先ほど「給料→アメリカドル→メキシコペソ」なる例を出しましたが、これ、メキシコペソ自体を知らないと、ペソ……なんて出てきません。
■アイデアA:「給料」振込み禁止令!
■アイデアP:給料は「メキシコペソ」で振込み令!
たぶん、「なんでペソなの?」なんて聞かれても出した本人でもよくわからないでしょう(だから上司の皆さん的には、そんな質問をしてはいけません)。アイデアを出すときにはそれで大丈夫だよ、とエンパワーメントして欲しいです。
自分の中から湧き上がってきた「何かよくわからないけど、そう思いついてしまった、わがままな言葉」をそのまま、わがままに吐き出していいんだよ、と。アイデアの善し悪しは「後で」決めます。だから思いついたら口にする、あるいは描き出してしまう。それが正しきアイデアパーソンの姿です。
どうでしょうか。「云い換え」技を1度身につけてしまえば、元手さえあれば、もういくらでもアイデアを出せる、量産できる構造です。出てきたアイデアが玉石混淆なのは前提ですよ。でも「うーん、うーん」と唸っているよりも、ヒラリヒラリと身軽に「云い換え」てみるだけで、その先にはスゴいアイデアがあるかもしれません(ないかもしれませんけど)。
その意味で、実はとっても使える「云い換え」の技。この技を知らないとブレーンストーミングがうまくいかないのですが、そもそも知らないともったいない、アイデア出しの基本技である、と宣言したくなるのでした。
※本連載では読者の皆さまから加藤氏へのご質問もお待ちしております。質問は全て加藤氏にお届けします。その質問、送ってください!
質問送り先:企画編集担当・大澤osawa@keizaikai.co.jp(タイトルに「加藤氏連載の質問」とご明記のうえ、本文に「質問内容」と、記事の感想なども頂けたら嬉しいです)