マネジメント

 都会的でありながら、車寄せには石垣、カーペットや壁面に文様を施すなど和の落ち着きを併せ持ったパレスホテル東京。最近ではサービスでも高い評価を得ている。リニューアルから4年がたち、その躍進の裏に何があるのか、小林節会長に聞く。聞き手=古賀寛明 写真=佐々木 伸

日本のホテルで初の5スター

―― リニューアルから4年がたちました。振り返っていかがですか。

小林 2012年5月17日にオープンして、私どもとしてはその間、大きな事故もなくこられたことに安心しています。また、営業的なことを言えば非常に恵まれていたと思いますね。

20160802PALACE_P02

 契機となったのはオープンした年の10月にIMFの総会が東京で行われたことでしょうか。その時に、海外の金融機関の方と話していまして、東日本大震災の翌年でもあったので悲観的な空気が漂っているのではないかと思っていらしたそうなんです。ところが、「街はきれいで成長もしており、何より食べ物もおいしい」と仰っていただきまして、その時、潮目が変わったのかな、と思ったことを覚えています。さらに、その年の12月に安倍政権が誕生し、翌年9月には20年の東京五輪も決定しました。

 大型イベントに加え、金融緩和による円安や株価の上昇も訪日外国人観光客の増加につながり、昨年はほぼ2千万人に到達。そういった外部環境にも恵まれたな、と感じています。

―― インバウンドの増加要因のいちばんは円安でしょうか。

小林 そこには3つの理由があると思います。円安もそうですが大交流時代に入っていることも大きいですね。現在、11億人以上が国境をまたがって旅をしています。そして、その数は毎年、5千万人ずつ増えているんです。日本にもさまざまな国から来られて、しかも円が安い。そして観光立国の実現に向けた政府の取り組みも大きいと思います。それらが訪日外国人観光客数を増やして1974万人にまでなった要因だと考えています。今年も3割近く増えていますから、英国のEU離脱という不安材料もありますが、順調にいけば年間で2500万人に迫るのではないでしょうか。

―― ソフトの部分でも、今年2月に『フォーブス』の5スターを獲得し評価されました。

小林 おかげさまで、日本のホテルでは初めてなんですね。日本のホスピタリティーが世界基準からも認められた、ということだと思っています。

 チェック項目が800ほどあるんですが、その内ハードの部分が3割、ソフトが7割です。ホテルを新しくする時に「世界で評価されるホテル」を目標にしていましたから、これまで培ってきた日本のホスピタリティーを、英語力も含めた努力の積み重ねを評価していただけたと思っています。

―― 具体的には、どんなサービスが評価されたのでしょうか。

小林 言葉で説明するのは難しいのですが、例えて言うならば、私どもには、グローバルチェーンのホテルにあるようなガッチリしたマニュアルはありません。ですが、それが逆に、部署を超えたおもてなしを行う柔軟な姿勢となって評価された、ということはあるかもしれませんね。

ハードが変わればソフトも変わる

―― ホテルが新しくなったことでサービスも変わりましたか。

小林 以前のホテルでは、「ハードの古さをサービスでカバーせよ」と口では言っていましたが、やっぱり、ハードがよくなったことで従業員も「ハードにふさわしいサービスにしたい」という想いが芽生えたんじゃないかなと思いますね。また、宿泊客の6割強が外国のお客さまになりましたから、言葉も文化も違えばより鍛えられることも多いと思います。それと、新しいホテルでは国家元首をお迎えすることもありますから、それもまた自分のレベルを上げようとするスタッフのモチベーションになったのではないでしょうか。

 もう1つは、これは私の考えなんですが、ホテルの覆面調査というのは英語で行われます。

 ということはやはり英語ができなければ、おもてなしの気持ちがあっても、なかなか通じません。ですから、開業した時から従業員全員の英語レベルの向上に努力しました。表現するには言葉は必須ですからね。これも大きなサービスの向上だと思います。

―― 先ほど外国人のお客さんが6割ということでしたが、旧ホテルでは何割くらいでしたか。

小林 だいたい5割でした。外国人のお客さまが増えてきた理由については格付けといった部分もあるのでしょうが、独立系のホテルですのでグローバルチェーンのホテルに比べると、世界的な知名度は低いのです。ですが、ネットの口コミなどの情報で泊まってみたいと思っていただけるようになったことが大きいですね。

 また、国家元首が宿泊される場合、その国の経済界の要人も同じホテルに宿泊されるため、そうしたことで知名度も上がり、また利用していただけるようになっています。昨年は、平均して6割が海外のお客さまでしたが、今年の1月から5月はもうちょっと割合が高まっていますね。

―― 外国の方は主にどちらの国の方が多いのですか。

小林 圧倒的に欧米、特に米国の方が多いんです。米国40%、欧州22%、合わせると62%にも上ります。アジアは26%です。

 外国のお客さまにも2つの顔がありまして、ビジネスとレジャーのお客さまに分かれます。以前はビジネスのお客さまが多かったんですが、プール、スパと揃ったことで富裕層のレジャーのお客さまも増えてきています。しかし、米国のお客さまは依然としてビジネス利用が多いですね。この丸の内、大手町エリアは外資系、例えば米国系のインベストメントバンクのオフィスも多いですからね。

―― 客単価も上がりましたか。

小林 以前のホテルは、1961年に地方のお客さまが比較的気軽に泊まれるホテルというのがコンセプトでした。そういった理由でシングルルームが全体の4分の1ほどを占めていましたから、1室当たりの単価は2万4千円程度でした。現在はスタンダードで45平米とかつての2倍弱にまで部屋が広くなりましたから、昨年は平均単価で4万5千円にまで上がっています。

 建て替えのプロジェクトに10年ほどかけましたがインバウンドの影響といった周辺環境の好調さもあって想定よりも若干上振れしていますね。

毎日がドラマのよう

―― 大手町、丸の内界隈にもライバルが増えてきますが。

小林 みずほ銀行のビルの上にはアマン東京が、7月にはそのすぐ近くに星のや東京が開業し、ほかにも20年には三井物産と三井不動産が開発する高層棟にホテルが開業します。かつて、この界隈にはパレスホテルだけでしたから随分にぎやかになりますね。もちろんライバルではあるのですが、都市間競争を考えればニューヨークやロンドン、パリと競いますし、東京の中でも赤坂や新宿などと地域間競争があります。ですから競争しながら共存共栄していく存在であり、競争が厳しくなるものの、そう悪いことではないと思っております。ただ、われわれには大きな宴会場もあり、良いロケーションもあります。今後は、従業員のクオリティーをさらにレベルアップして差別化して、ホテルのアイデンティティーを確立していきたいと思っています。

―― そのパレスホテル東京の強みでもある宴会部門の状況はいかがですか。

小林 当社の売り上げ構成を申し上げますと、宴会が5割、宿泊が3割、レストランが2割という状況です。宴会場の稼働は月から金曜日は企業の利用が中心です。一方、土日、祝日は、おかげさまでほぼウエディングで埋まっています。この3年間は年間900件も入っています。土日だけですから、1日最大で11組の結婚式でご利用いただいております。ですから、土日にはホテルの顔がガラッと変わりますね。

―― 最後に、小林会長はもともと銀行マンでしたが、ホテルマンになったなと思う瞬間はありますか。

小林 もう、26年目になりますね。銀行にも22年いましたから銀行を忘れたわけではないんですが、この業界は、毎日がドラマみたいで刺激的ですね。例えば、建て替えは私たちにとっては生きるか死ぬかの大事業でしたから、必死で研究しました。おかげさまでホテルのつくりひとつ見ても、ホテル側がコンセプトをもって設計したか、設計会社に任せたのかなどよく分かるようになりましたね。

 ですから、よくほかのホテルに泊まるのですが、結構楽しんで観察してしまいますね。

(こばやし・たかし)1945年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、69年、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。91年、パレスホテル取締役。常務、専務・ホテル総支配人を経て2001年社長に就任。14年3月から現職。

「赤プリ」跡地に総力を結集する西武グループ

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界12月号
[特集]
東京新起動

  • ・二度目の変貌を遂げる大都市・東京
  • ・虎ノ門エリアはグローバルビジネスセンターとして進化中
  • ・東京ミッドタウン日比谷誕生で映画・演劇の街が再興
  • ・文化の発信地「渋谷」の百年に一度の大改造
  • ・泉岳寺・品川とも連携 品川新駅(仮称)のエキマチ一体開発
  • ・城北、埼玉方面への玄関口は行政が積極的
  • ・辻 慎吾(森ビル社長)
  • ・若林 久 西武鉄道社長

[Special Interview]

 稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

 「DNAの“第一主義”で圧倒的な未来をつくる」

[NEWS REPORT]

◆若者のクルマ離れに抵抗する豊田章男・トヨタ自動車社長の意地とプライド

◆ヤマトHDが人手不足よりも恐れる「送料無料」という意識

◆有機EL転換は避けられず 新生JDIは生き残れるか

◆シェール革命が動かす世界のパワーバランス

[特集2]今さら聞けないビットコイン

・可能性と危険性が共存するビットコインの魅力

・ビットコインだけではない! 1千種類を超える仮想通貨の世界

・ビットコインの2つの謎 ブロックチェーンとマイニング

ページ上部へ戻る