コロナ禍で九州各地の観光地を訪れる人々が激減した。観光産業は、製造業と並んで九州経済を長らく支えてきた大黒柱であり、その打撃は計り知れないが、現在はアフターコロナを見越した新たな成長戦略が動き出している。キーワードはオフィスビル・商業施設等の都市再開発による魅力向上、スタートアップの育成、観光インフラの再構築など。本特集では九州経済の現状と地元有力企業のチャレンジングな取り組みをレポートする。
九州経済圏の動向―九州各地で相次ぐ再開発にコロナ後の景気浮揚を期待
コロナの打撃から製造業が回復傾向
経済産業省「2020年工業統計調査」によると、九州の産業別出荷額は、自動車関連が約3・7兆円、集積回路や半導体など電子部品関連が約1・8兆円と上位を占める。これら産業は九州経済の象徴であった。
日本銀行「全国企業短期経済観測調査」を見ると13年12月以降、九州・沖縄では製造業・非製造業を合わせた全産業で業況判断DIがプラスを記録、17年から18年にかけては全国を上回る数値で推移してきた。中でも電子部品関連の「電気機械」、自動車などの「輸送機械」は高い数値を維持し、九州経済を牽引してきた。
ところが新型コロナ感染が拡大し始めた20年3月に全産業の業況判断DIがマイナスに転じ、6月には▲27に落ち込んだ。「輸送機械」が40ポイント、「電気機械」が33ポイント下落。外出自粛の影響で宿泊・飲食、対個人サービス(美容、学習塾など)、運輸・郵便も落ち込んだ。
その後の回復状況は二極化。国内外における自動車需要の回復や半導体需要の高まりなどを背景に、「輸送機械」が同年12月に、「電気機械」が21年3月にプラスに転換。一方、宿泊・飲食や運輸・郵便、対個人サービスなどは、断続的に続いた緊急事態宣言の影響で回復が遅れている。
農業も19年の出荷額は1兆7520億円で、全国比で約20%を占める重要な産業。近年は九州経済連合会を中心に、農林水産物・食品の輸出促進や販路拡大、スマート技術の活用などの支援に力を入れている。
天神・博多の都心部で再開発事業が活発化
コロナの影響を受けず業況判断DIがプラスを維持するのが建設事業だ。その背景には、九州各地の旺盛な再開発事業やインフラ整備がある。
福岡市の都心・天神地区では、市が主導する再開発事業「天神ビッグバン」によりビルの建て替えが進んでいる。国家戦略特区による航空法の高さ制限の特例承認や市独自の容積率緩和制度などを活用して民間ビルの建て替えを促進、新たな空間と雇用を創出するプロジェクトだ。
9月末には規制緩和認定第1号のビルとして19年に着工した19階建ての天神ビジネスセンターが完成。主要機能を東京から移転するジャパネットホールディングス、NECグループなどが入居している。22年12月には旧大名小学校跡地に25階建ての複合ビルが完成予定で、ザ・リッツ・カールトンも入る。24年には西日本鉄道が旧本社ビル跡地に建設中の19階建てビルや、オフィスビル・高級ホテルや商業施設を併設するヒューリック福岡ビルなども誕生する。
博多駅周辺でも、ビル建て替えや回遊性を高め都市機能向上を図る「博多コネクティッド」が19年にスタート。賑わい拡大に寄与するビルには容積率緩和などの特典があり、NTT都市開発と大成建設が建設するオフィスビルが第1号認定を受け、22年7月の完成を目指している。
長崎、鹿児島なども駅前を中心に開発計画
22年秋に西九州新幹線の部分開業(武雄温泉‐長崎)を控え、JR長崎駅周辺でも再開発が進む。21年11月1日、駅前に大型コンベンション施設「出島メッセ長崎」とホテル「ヒルトン長崎」が開業した。中核となる新長崎駅ビルは23年秋の全面開業を予定しており、商業施設のほか九州初進出となるマリオットホテルが入る。佐世保市のテーマパーク・ハウステンボスにカジノを含む統合型リゾート施設の誘致を目指す長崎県は8月、運営者にカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパンを選定。22年春にも区域整備計画を国土交通大臣に申請する。
熊本市ではNTT西日本が都心部にシティホテルやオフィス、商業機能が入る複合ビルを建設する。防災機能の強化や公開空地の確保などに応じて容積率の割増しなどが受けられる熊本市の「まちなか再生プロジェクト」を活用しており、24年度の開業予定だ。
鹿児島市では繁華街の天文館地区で22年春の開業を目指して再開発ビルのセンテラス天文館の建設が進む。15階建ての複合ビルには商業施設やホテルが入居する。JR鹿児島中央駅西口でも、駅と直結する複合商業ビルをJR九州が開発、23年春に開業予定している。
こうした再開発が都市の魅力向上につながり人を呼び込み、低迷する飲食・宿泊、運輸業界などの浮揚につながることが期待されている。