「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)

大石英司・みんな電力社長プロフィール

大石英司・みんな電力社長

(おおいし・えいじ)1969年生まれ。大阪府出身。明治学院大学経済学部卒業後、広告制作会社などを経て凸版印刷へ転職。2011年、みんな電力を設立し、小型ソーラー充電器の販売や世田谷区との再エネ啓発事業などを手掛ける。「顔の見えるでんき」のコンセプトを掲げ、再エネを中心とした電力小売り事業を展開。現在、法人約3500社と電力供給契約を結んでいる。

 

消費者が発電事業者を自由に選ぶ

 

 「今の姿は全く予想していませんでした。隔世の感がありますね」

 と、本人が語るように、大石英司氏がみんな電力を設立した2011年当時と比べて、現在の業容は様変わりした。

 電力小売り事業で展開するみんな電力は「顔の見えるでんき」をキャッチフレーズに掲げ、電力消費者が発電事業者を自由に選べるサービスで業績を伸ばしている。

 「どうせ電気を使うなら頑張っている町工場から買いたい」「福島の事業者から買って復興支援したい」。そんな個々のニーズに応えることができるのが魅力だ。

 現在、全国の発電事業者から電気を仕入れ、約3500社に供給。電源構成は再生可能エネルギーとFIT電気が約7割を占める。供給先には、丸井グループ、ビームス、TBSホールディングス、タカラレーベン、キュービーネットといった有名企業が名を連ねる。

 FIT(固定価格買取制度)の導入や電力小売りの全面自由化によって、再生可能エネルギーを取り巻く環境はこの10年ほどで大きく変化した。さらに、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の盛り上がりによって、企業のエネルギー問題への意識も大きく向上。こうした状況が、事業への追い風となっている。

 

「顔の見えるでんき」のコンセプトはなぜ生まれたか

 

 とはいえ、単に時流に乗っただけではない。新電力企業の撤退、倒産が相次ぐ中、生き残ってきたのは、創業当時のコンセプトを愚直に貫いてきたからだ。

 電力業界出身でない大石氏が起業したキッカケは、ささいな出来事だった。電車の中で携帯電話の充電が切れそうになった大石氏の目にふと留まったのが、前に立つ女性がかばんにぶら下げていたソーラーパネル式の携帯電話用充電器だった。

 「この女性が作った電気、200円なら買ってもいいな」

 そんなことを思ううちに、「誰でも電気が作れて、誰が作ったかも可視化されると面白いんじゃないか」との考えに至ったという。

 「電気はそれまで一部の人たちに独占された富でしたが、生産人口に含まれない子供や高齢者も電気という富をつくれるようになったら素晴らしい。失業している人も野菜を作れと言われたら大変ですが、電気なら作れるだろうと思ったんです」

 と、大石氏は言う。

みんな電力受付

 

広がる事業コンセプトへの支持

 

 当初は手のひらサイズのソーラー発電機の販売からスタートした。東日本大震災の後、自律分散型発電への意識が高まっていたことを受け、個人で発電できる機械を世界で初めて製作した。しかし製造原価が高く、売れば売るほど赤字が膨らむ状況。機械の不具合によるクレームも多数発生し、最初の試みはあえなく失敗した。

 だが、成果はゼロではなかった。

 「失敗の先にいろんな縁ができていった」と大石氏が言うように、商品は売れなかったが、みんな電力の取り組みに興味を持つ人々が周囲に増えはじめた。折しも、自律分散型発電やFIT制度が話題になり始めた時期でもあった。みんな電力のコンセプトに賛同する人々から支援される形で、新たな仕事も受注できるようになった。

 「東日本大震災後に、自衛のために自ら電気を調達したいという意識が人々の間に高まりました。それで世田谷区の再エネ啓発活動に協力するようになったり、地方企業からソーラーパネル設置の大型案件を受注できたりするようになったんです」

 とはいえ、経営的には危機的状況の連続だったという。

 「事業開始の翌年には、預金通帳の残高が561円しかなかったこともあります。その後も大手商社からの資本提携の話が直前でダメになって、支払い計画が狂ってピンチになったり、受注した太陽光発電の工期が延びて入金が遅れたり、いろいろありました。われわれのようなベンチャーはなかなか銀行融資も受けられないので、そのたびにどうしようかと思いましたね」

そんな時期を経ながらも、小さな支持が徐々に広がり、今やみんな電力の再生可能エネルギー調達量は国内屈指を誇る。

荒井ビーガーデン

みんな電力が小売りを手掛ける、福島市初のソーラーシェアリングとなる「荒井ビーガーデン発電所」

 

みんな電力が企業から注目される理由

 

 現在、大手電力会社は、ダンピングともいえる低価格を提示して、新電力から顧客を取り戻そうと必死だ。しかし、これまでみんな電力との契約を解除したのは、手違いによる1件のみだという。「『価格』ではなく『価値』で電気を買ってもらっているから」と、大石氏は言う。

 販売を代理店任せにしなかったことも奏功した。

 「代理店任せにすると、コミッションが高い会社の電気を優先的に売って、1年後に契約を他に切り替えさせて再びコミッションが入るようなやり方をするので継続しないんです。代理店フィーが跳ね上がって販管費も重くなってしまいます。それだと不健全なビジネスになるので、われわれは口コミと紹介のみの直販でやってきました。当初は苦労しましたが、企業会員が増えるにつれ、今は宣伝しなくても広がっている状況です」

 かつて、環境問題への取り組みは企業にとって社会貢献的な意味合いが強かったが、今は人材獲得やブランディング、株価対策といった、利益に直結する重要事項となっている。世界的にも、事業運営に必要なエネルギーを再生可能エネルギーで100%調達を目指す国際イニシアチブ「RE100」が広がっている。

 再生可能エネルギーを中心とした「顔の見えるでんき」が、企業からの注目を集めるのには、こうした背景がある。

 

電力✕ブロックチェーンで実現するトレーサビリティ

 

 「顔の見えるでんき」とは、言い換えれば電気のトレーサビリティ。そこをさらに押し進める取り組みが、ブロックチェーンの導入だ。

 みんな電力ではブロックチェーンを利用した電気取引システム「ENECTION2.0」というシステムを開発。電力供給者の顔が見えるだけでなく、発電量と需要量をマッチングし、どこの発電事業者からどんな電気がどれだけ来ているか、CO2排出量はどの程度か、といったことが30分単位でトレースできるという。

 トレーサビリティが強化されることで、大石氏が創業当初から抱いていた目標、すなわち「買いたい人から直接電気を買う」という姿が実現に近づく。みんな電力では、スマホや電気自動車、ドローンといった機器のワイヤレス充電技術と、トレーサビリティを組み合わせる研究を京都大学と共同で進めている。

 「ブロックチェーンのトレーサビリティに加えて電波にもオリジナルの波形を載せることで、例えば、特定の人からの電気がスマホに来たというのが物理的に分かるようになります。EVが隣の車から電気をもらって、電子マネーで料金を支払うといったことも可能になります」

 2019年11月以降からは、FITによる買取期間が順次終了していく予定。このため、余剰電力の受け皿として、個人間取引の動きが活発化すると見られている。そうした情勢も、追い風になると大石氏は期待する。

 「ブロックチェーンの研究は他でも進んでいますが、多くの場合、高価なハードウェアを使うので補助金を使った実証実験はできても商用化が難しい。われわれはハードありきではなく、『特定の人から電気が欲しい』というユースケースから必要な技術を考えているので、特殊な装置も使わず低コストでできる。そこで差が出てくると思います」

大石英司社長

ブロックチェーンなど、最先端テクノロジーの導入も目指す大石氏

 

みんな電力が成功した最大の理由とは

 

 紆余曲折ありながらも、事業を軌道に乗せることができた理由について大石氏は

 「電力業界の出身でなかったことが大きい」と語る。

 大手電力会社が電気を独占していた時代には、電気に色を付けるという概念も、消費者が支払先を選ぶという概念もなかった。「こんなふうになったら良い」と思ったことを、素直に実行できたのは、既成概念にとらわれなかったからだ。

 将来は、ブロックチェーン技術を使って、電気だけでなく衣食住に関わるすべての分野において「顔の見える」世界を構築したいという展望を大石氏は抱く。一貫した信念を持ちながらも環境変化に柔軟に対応する姿勢が、会社の成長を支えている。

 

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