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【企画特集】未来へ向かえ関西経済

2021年の関西経済は、緊急事態宣言などによって活動が厳しく制限された苦しい年だった。しかし一方で、技術革新を繰り返し、時代のニーズに即応した新ジャンルに挑戦して成果を上げた企業も少なくない。また、ベンチャー企業も数多く誕生した。今特集では未来志向のメッセージを発信する主要経済団体のインタビューのほか、関西発企業として注目を集めている企業の最前線をレポートする。

2022年度の関西経済の見通し

大阪・関西万博に向けた勝負の1年

 コロナ禍に振り回された2021年の関西経済。感染者数の減少に伴って昨年10月に緊急事態宣言が全面解除されたものの、世界では新たな変異株「オミクロン株」が猛威をふるった。一方で25年の大阪・関西万博というビッグイベントも控える。関西復権に向けて官民がどう取り組むべきか、勝負の1年になる。

RCEP発効による対中輸出の好影響とリスク

 日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が1月1日に発効した。

 「対中国輸出の比率が全国より高い関西にとっては徐々に好影響が出るだろう」

 民間シンクタンク、アジア太平洋研究所(APIR、大阪市北区)の稲田義久研究統括(甲南大名誉教授)はこう指摘する。

 実際、財務省の貿易統計と大阪税関の近畿圏貿易概況によると、2021年度上半期(4~9月)の全国の輸出額に占める対中国の割合は21%程度だが、近畿圏では26%程度とかなり大きい。

 このため、APIRが昨年11月末に公表した関西と日本の経済予測によると、22年度の輸出伸び率(前年度比)は関西が5・8%なのに対し、全国は4・5%。23年度は関西が4・9%、全国が4・5%といずれも関西が全国を上回る。

 RCEPの発効で、世界の人口の約3割、GDPの約3割を占める巨大な経済圏が誕生した。また、日本にとって最大の貿易相手国である中国、第3位の韓国との間で結ぶ初の自由貿易協定としても注目される。特に貿易面で中韓と結び付きの強い関西経済界の期待は大きい。

 しかし、ここにきて中国経済の減速懸念が浮上してきた。21年7~9月期のGDP(速報値)は、物価変動の影響を除く実質で前年同期比4・9%増となり、4~6月期の7・9%から大きく減速。地球温暖化対策のため石炭火力発電を抑制したことによる電力不足、不動産価格の高騰を受けた当局の規制で不動産大手のデフォルト不安が強まったことなどが原因だ。

 また、RCEPをテコに対中ビジネスに依存しすぎると、情報流出や中国当局からの過大な技術移転の要求など経済安全保障上のリスクを抱えることになる。

 全国の経済同友会の中で極めて珍しい「安全保障委員会」を常設する関西経済同友会や関西経済連合会、大阪商工会議所などの関西財界は、会員企業にこうしたリスクをきちんと伝えるべきだろう。

来たる大阪・関西万博を経済のけん引役の育成の場に

 一方、東京五輪・パラリンピックが昨年夏に閉幕し、関西経済界の関心は、一気に25年の大阪・関西万博に向かい始めた。

 「空飛ぶクルマ」と呼ばれる自動で動く垂直離着陸機、水素と酸素を反応させて電気をつくり、二酸化炭素を排出しない「燃料電池船」、24時間で家が完成する「最先端3Dプリンター」――。

 これは大阪・関西万博で試乗・展示が予定されている次世代の目玉技術の例だ。かつて大阪はパナソニックやシャープ、三洋電機など巨大電機メーカーが本社を構え、その関連産業が集積するものづくりの拠点であった。

 だが、業績不振で自力再建が難しくなった三洋電機はパナソニックに統合され、組織再編で事実上、「消滅」した。その後、パナソニックも巨額の赤字にあえぎ、往年の強さは失われた。倒産の危機に瀕したシャープも台湾に本社を置く世界最大手の電子機器の受託製造企業、鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入り、関西の電機産業のプレゼンスは著しく低下した。

 こうした中、大阪・関西万博で期待されるのは、日本有数のものづくりの聖地である大阪・関西復権の足掛かりとなる最新技術のショーケースとしての役割だ。これを一過性のイベントに終わらせるのではなく、関西経済のけん引役を発掘・育成する場にするべきだろう。

 近畿経済産業局が関西ベンチャー企業を対象にした最新の実態調査によると、製造業の割合が39・1%と圧倒的に多く、首都圏のベンチャーに多いIT業は12・1%に留まる。

 実際、最近の関西発ベンチャー企業を見ると、製造業が特に元気だ。まず、家電ベンチャーのカルテック(大阪市中央区、染井潤一社長)は、販売中の光触媒技術を使った除菌脱臭機がコロナ禍で好調な売れ行きだ。触媒の酸化チタンに光を当てるとウイルスやカビ菌、臭いなどを分解する。

 また、「ファインバブル」と呼ぶ細かい泡で汚れを洗い流すシャワーヘッド「ミラブル」が大ヒットしたサイエンスホールディングス(大阪市淀川区)。1970年の大阪万博で展示された「人間洗濯機」を見て衝撃を受けたという創業者の青山恭明会長は、2025年大阪・関西万博でファインバブルを駆使した「未来の人間洗濯機」を展示する予定だ。

 こうした元気のある関西発ベンチャー企業は枚挙にいとまがない。この先、「関西の逆襲」から目が離せそうにない。

2022年関西の注目企業