経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

【企画特集】逆境に立ち向かう中部経済

中部経済圏は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が断続的に発令されているものの、自動車系のメーカーを中心に外需の業績が回復しつつある。2022年度にかけては、ワクチンの普及などにより、経済活動が本格的に正常化へ向かう見込みだ。世界有数の産業集積地のアフターコロナのニュービジネスやマーケティング戦略を考える。(『経済界』企画部)

2022年度の世界経済と中部圏経済の動向

 新型コロナウイルス感染第5波の拡大と各地で発出された緊急事態宣言により、飲食店をはじめとする対面型サービスなど個人消費が著しく減少した。ワクチン接種は進むものの、まだしばらくは行動が制限されると思われる。

 「内需の本格回復の時期は来春以降とみる。外需に関しては、中部企業の業績が足元で回復基調となっており、自動車や自動車部品などアメリカ向け輸出が高い伸びを見せている。しかし、半導体不足が続き、来春までは影響が残るとみている。生産調整も同時期まで続く可能性がある。

 一方で、半導体向け投資が顕在化するほか、脱炭素や脱プラスチックに向けた設備投資意欲も高い。大企業の脱プラは2022年4月施行を目指し、年5トン以上使用する事業者に対して有料化や再利用などの対応が義務化される。規制強化に関連した設備投資もあるが、個人消費をカバーするほどの期待をかけるのは難しいだろう」

 そう語るのは、中京大学経済学部客員教授でエコノミストの内田俊宏氏だ。

 「個人消費は巣ごもり需要が堅調で、在宅時間の長時間化により家電製品や家具などの販売は好調を維持している。テレワーク環境の改善やリフォーム需要も底堅く推移している。低空飛行を続ける個人消費ではあるが、この10月以降は消費者物価指数の上昇が懸念される。

 昨年後半以降はデフレ傾向が強まっていたが、今年に入ってからはエネルギー価格や穀物相場の高騰によって川上からの物価上昇圧力が高まっている。

 昨年の大幅な賃金減の反動で実質賃金がプラスとなっているが、名目賃金はコロナ前水準には戻り切っていない。所得が伸び悩む中での悪い物価上昇は、消費の本格回復の足かせとなる可能性が高まっている」(内田氏)

 翻って、海外経済の回復を背景に輸出の増加は継続しそうだ。外需寄与度がプラスに転じる可能性も高まっている。

 「自動車生産に関しては半導体不足がネックとなる。しかし、米国を中心に需要は高く、出遅れていた欧州や東南アジアもキャッチアップしてくるため、22年も外需は堅調に推移するだろう。ただし、これまでのように外需主導による大幅なプラス成長は見込みにくい。日本経済の本格回復には内需の復調が前提となる」(内田氏)

 主要シンクタンクの経済見通しでは今年度の実質GDP成長率を3%前後と予測する機関が多く、21年度は2%前後とペースダウンするとみている。

 内田氏は今年度よりも来年度の成長率が加速する可能性があるとみている。

 新政権が誕生し、大規模な経済対策を打ち出し、その効果が来年度に顕在化するとの見方である。財政出動による押し上げ効果と幅広い世代のワクチン接種やブースター接種の拡大によって、シニア層も徐々に外食や旅行消費を増やすとの見立てである。

 ただし、いったん定着したウィズコロナのライフスタイルはすぐには戻らない。旅行・レジャーに関しては、訪日客のインバウンド需要が元に戻るには時間がかかる可能性が高い。当面は近場のマイクロツーリズムが観光の主流となるだろう。

中部圏は円安基調が追い風に

 中部圏のグローバル企業にとっては為替相場の行方が懸念される。

 「新政権による数十兆円規模の経済対策が打ち出されると、アメリカの長期金利の上昇に加え、日本の財政規律の緩みへの不安から、円安傾向が強まる可能性が高い。円安による輸入物価上昇は懸念されるが、中部圏の輸出企業にとっては企業業績の押し上げ要因となる」(内田氏)

 資源の大部分を輸入する日本にとって、過度の円安は購買力の低下を意味し懸念材料ではあるが、適度な円安水準であれば中部圏企業にとって追い風となるかもしれない。

 また、アフターコロナに向けて中部圏が準備すべき点として、企業や家計のデジタル化がある。

 「デジタル庁が発足しIT技術者は官民で取り合いとなっている。コロナ禍の企業はBtoCのビジネスモデルへの転換を迫られるなど、デジタル化はコロナで確実に加速した。BtoB企業でもデジタル化を進めないと、大企業との取り引きができなくなる恐れもある。

 また、製造業の高付加価値化を進めるに当たって、IT分野のスタートアップ企業の誘致や育成が不可欠となる。愛知県が整備を進めるステーションAiなどを拠点に、自動車産業に関連する分野のスタートアップ企業への支援強化が求められる」(内田氏)

 新政権が打ち出す経済対策には、中部圏のインフラ整備に関するもののほか、スタートアップ支援強化が中部圏の競争力を引き上げていく上で重要な要素となりそうだ。

以下、今後の躍進が期待される中部企業を紹介する。