経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

[企画特集]新時代を切り拓く北海道

北海道特集背景

コロナ禍を乗り越えて前進し始めた北海道経済。11月以降の感染拡大で飲食業や観光業には懸念が広がっているが、政府の観光促進施策「全国旅行支援」なども奏功し、確実に回復に向かい始めた。また地域経済活性化の起爆剤として期待される2030年度の北海道新幹線の札幌延伸を控えて札幌駅周辺では超高層ビルの建設やリニューアル工事が急ピッチで進んでおり、街並みは大きく変貌しようとしている。農業、宇宙産業、再生可能エネルギーなどの分野でも、未来志向の挑戦が始まっている。

新幹線札幌延伸と冬季五輪を視野に再開発ラッシュ

 2030年の冬季五輪招致に名乗りを上げた北海道。「スポーツアイランド北海道」のブランドを確立するため地元経済界では、四季を通してさまざまなスポーツが楽しめる地域の特性を世界に広く宣伝するチャンスとして招致活動の機運醸成に向けて活動を始めている。

 今から半世紀前の1972年に開催された冬季札幌五輪では、札幌市街地や交通インフラなどが整備され、それが後の100万都市に発展する基盤となった。今回の五輪招致も観光業の活性化や老朽化した社会インフラの再整備を通して道内全域への経済波及効果を狙ったもので、30年度の北海道新幹線札幌延伸と相まって、今、札幌市街地では一挙に再開発ブームが起きている。

 その中でも注目されるのはJR北海道と札幌市が中核となっている「札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発事業」だ。新幹線の新駅と直結した地上43階、地下4階、延べ床面積39万5千平方メートルの建物で、高さは245メートルに達し、道内トップのランドマークタワーになる。高級ホテルが入居し、商業施設、オフィス、それにバスターミナルが整備され、道外からの訪問客を市街地まで運ぶ移動の結節点になる。23年度に着工し、28年度には竣工する予定だ。

 ここから南西に約100メートル先の札幌駅南口に位置する旧札幌西武百貨店跡地「北5西3」地区では、ヨドバシホールディングスを主体とする高さ200メートル級の複合ビルが28年度までに建設される。

 中核となるこの2棟が札幌駅前のシンボリックな建物になり、ここから大通り公園、すすきのに至る中心地でも向こう10年以内に大小10以上の再開発事業が計画されている。

 再開発ラッシュに沸く地元では建築関連企業に中心に向こう10年は特需が発生するが、問題はその後の運用だ。北海道新幹線の札幌延伸と併せて冬季五輪の招致に成功すれば、外国人旅行客が増え、本州からの訪問客も増えるに違いないが、それが長期間にわたって継続できるかどうかが鍵となる。

 「観光客といっても客層別にニーズは全く異なります。コロナ以前は爆買い需要でホテルも物販もかなりの収益を上げましたが、そこに期待するのは危険です。団体旅行も少なくなって仲間内の少人数で出掛けるケースが増え、コロナ禍では一人旅も多くなっています。受け入れ側は〝おもてなし〟はもちろん、それぞれのニーズに合ったメニューを提示しないとリピート客にならないでしょう」(経済団体幹部)

アドベンチャーツーリズムの普及が観光業復活の鍵

エスコンフィールドHOKKAIDO
エスコンフィールドHOKKAIDO

 日本は豊かな自然や名所旧跡が多く、北海道も多くの観光地には恵まれているが、これからはモノ消費からコト消費への変化にどう対応するかが重要になる。そこで今、注目されているのがアクティビティや異文化体験などを組み合わせたアドベンチャーツーリズム(体験型の旅行)だ。欧米の富裕層を中心に人気がある長期滞在型かつ体験型の観光で、地域への経済波及効果も大きい。歴史やアクティビティを楽しみながら周遊する新しいタイプの観光で、マーケットは世界的に急拡大している。23年にはアジアで初めて、北海道でワールドサミットが開催される。北海道にとっては世界に向けて認知を広げるきっかけになるだろう。

 また、道内で期待と注目が高まっているのは北海道日本ハムファイターズが巨額を投じて建設中の「エスコンフィールドHOKKAIDO」(北広島市)だ。日本では初となる天然芝の開閉式球場で、試合がない日も人が集まる米国式のボールパークだ。周辺には地元の名産品を取り揃えた販売店などの商業施設や有名中華料理店などの飲食エリア、それにクランピング・アウトドア施設、キッズエリアなども併設される。ビールの醸造所やバーベキュー施設、ペット可の宿泊施設などもあり、球場を核とした複合的な娯楽観光エリアになる。

 新しいチャレンジングな取り組みとして有望な分野に宇宙産業がある。十勝地方の大樹町では民間向けロケット発射場を備える宇宙港「北海道スペースポート」が建設中。町などが出資して運営会社を設立、打ち上げ施設は23年度に完成する。連携協力協定を結んだJAXAの施設も隣接しており、大樹町は宇宙産業の一大拠点となる可能性がある。地元では単なる発射場だけに終わらせず、ロケットや関連部材の製造所などを集積させハイテクノロジーの「宇宙産業の6次産業化」を目指している。

 さらに太陽光、風力などの再生可能エネルギーの分野では地の利がある北海道は潜在的なポテンシャルが高く各地で活発な研究投資や導入が進んでいる。

 北海道経済を長年支えてきた、観光と食は現在、厳しい局面に立たされているが、この困難はいずれ克服できる。その先の新しい時代を切り拓くため今、各分野での挑戦が始まっている。 

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