2020年は新型コロナウイルス禍による外出自粛・渡航禁止等の影響により、日本各地の主要都市のインバウンドが消失、国際都市化を目指す大阪・関西経済も多分に漏れず大打撃を受けた。
経済低迷の長期化が懸念される一方、官民一体となって長年力を入れてきたスタートアップ・起業家育成支援、さらには国際イベントのワールドマスターズや大阪万博など、将来を見通すための明るい材料もある。本特集では、経済不況にたじろぐことなく、これからの関西経済の柱となり得る、今年注目の関西企業・団体に焦点を当てる。
中国景気の影響を受けやすい関西経済の現状
「訪日客はいつ戻ってくるのだろう」。2020年12月、新型コロナ感染者の再拡大で急速に客足が落ち込み、異例の年の瀬を迎えた大阪市内の百貨店担当者はこう嘆いた。
大阪の10月の百貨店売上高は前年同月比10・4%減の525億円と13カ月連続のマイナスとなった。東京も13カ月連続のマイナスだが、下落幅は4・3%と踏みとどまり、横浜と名古屋は13カ月ぶりにプラスに転じた。大阪は全国10都市で最も下落幅が大きく、一人負けの状態だ。
背景にあるのは、関西の個人消費が1人当たり購入額の多い中国人客を中心に訪日外国人に頼る構図であったことだ。コロナ禍で観光往来がなくなり、インバウンドは消滅してしまった。関西経済に詳しいエコノミストは「夏以降、日本人観光客は戻りつつあるが、インバウンド消滅分はカバーできない」と解説する。
コロナ禍で関西経済の強みも浮き彫りになってきた。大阪税関が公表した10月分の近畿圏貿易概況(速報)によると、輸出額は前年同月比2・3%増の1兆4307億円と8カ月ぶりのプラスに転じた。コロナ禍が世界的に広がり始めた3月以降はマイナスが続いていたが、下げ幅は緊急事態宣言中の5月の17%をピークに縮小、改善に向かっている。
これに対し、財務省の10月分の貿易統計によると、全国の輸出額は0・2%減の6兆5661億円と23カ月連続の減少。自動車輸出が急回復してきたこともあり、下げ幅は縮小してきたが、プラス圏には届いていない。また、関西は過去1年間、前年同月比で20%台の下げ幅が1度もなかったのに対し、全国の4~6月の輸出額は20%台の下げ幅を記録した。関西と全国の輸出回復の差について専門家は、「関西は他地域よりも中国の景気回復の恩恵を受けやすい」と指摘する。
コロナ発生源とされる中国は20年4~6月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比3・2%増と早々とコロナ禍から脱し、7~9月期も4・9%増と景気が急ピッチで回復。 10月の関西の中国への輸出は11・9%増の3935億円と5カ月連続で伸びている。関西の対中国輸出は全国の25%強を占め、関西の輸出額全体でも3割弱に達する。これに対し、全国の対中国輸出は10・2%増の1兆4578億円と4カ月連続で伸びたが、全体の輸出額に占める割合は2割強と関西ほど大きくない。
関西と中国の結び付きの強さは、消費面では足を引っ張っているが、貿易面ではメリットになっている。25年の大阪・関西万博に向けて各国の観光往来が再開すれば、消費も一気に盛り返してくる可能性がある。
ただ、心配なのは米中貿易摩擦の行く末だ。米国のトランプ前大統領は、中国製品に対し巨額の追加関税を課し、華為技術(ファーウェイ)への輸出禁止措置に踏み込んだ。バイデン新大統領は選挙戦で「関税政策は古い」とトランプ氏の手法を批判したが、国内世論を考慮すれば、政策をすぐに撤廃する可能性は低い。米国の対中国制裁が長引いたり、強まったりすれば、関西企業の対中国貿易に悪影響が及ぶ恐れもある。
コロナ禍で見えてきた関西経済復活の兆し
コロナ禍の中、関西経済復活の兆しは、他の指標でも見え始めている。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、転勤や就職、進学で10月に大阪府への転入者から転出者を差し引いた転入超過は32人。転出者が転入者を上回れば転出超過になるが、転入超過が続くと人口増につながりやすい。コロナ禍前、転出超過の月が多かった大阪府は、19年12月から転入超過が続いている。
これに対し、東京都はコロナ禍前、30年まで一貫して人口流入が続くと見られていたが、20年7月から毎月2千~4千人台の転出超過が続く。東京都は新型コロナの新規感染者が多く、企業が都内への転勤を禁止したり、都内の大学に進学した高校生が引っ越しを延期したケースがあるようで、大阪府から東京都への流出にも歯止めが掛かりつつある。大阪府にとって、東京一極集中に対抗できる明るいニュースにも見える。
ただ11月以降は大阪府の新規感染者数が東京を上回る日も出てきた。人々が安心して住めるよう感染拡大に歯止めをかけつつ、吉村洋文知事が目指す「国際金融都市」構想などを早く具体化し、起死回生のチャンスを生かさなければならない。