アメリカンドリーム実現の場所でもあるインディ500に挑む佐藤琢磨
今年のインディ500は5月29日に開催される。記念すべき100回大会である。
インディアナポリス500マイルレース、通称インディ500はアメリカを代表する自動車レースだ。
F1のモナコGP、スポーツカーレースのル・マン24時間と合わせて、世界三大レースとも呼ばれる。
その中で一番古い歴史を持つのがインディ500だ。第一回大会は1911年というから、第一次世界大戦勃発の3年前に始まっている。
インディ500はインディアナ州のインディアナポリス・モータースピードウェイが舞台だ。アメリカ国内での人気はF1の比ではない。毎年、決勝日には30万人を超える観客が詰めかける。コースの外周やピット内側に建てられた巨大なスタンドがびっしりとファンで埋まる。テレビも全米ネットで生中継する。
優勝者が手にする賞金額も破格だ。昨年の覇者ファン・パブロ・モントーヤは、244万9055ドルの賞金を獲得した。日本円(当時のレート)で約3億円だ。インディ500はアメリカンドリーム実現の場所でもある。
105年にわたるインディ500の歴史の中で、日本人優勝者はひとりもいない。
世界最速に挑んだ日本人ドライバーは10人いた。代表的なのは中野信治、高木虎之介、佐藤琢磨の元F1ドライバーだ。だが、インディ500のハードルは高い。現時点での日本人最上位は、2003年に高木が記録した5位である。
インディ500の難しさは、そのコースに要因があるといわれる。
コースは全長2・5マイル(約4・02キロ)。コースレイアウトは極めてシンプルだ。
長短2本のストレートと4つのコーナーで、楕円形(オーバル)を形成する。今もインディを始めアメリカのレースではこのオーバルコースが主流である。コーナーには傾斜(バンク)がつけられている。高速でコースを駆け抜けるための仕掛けだ。
これによりインディ500の最高速度は380キロ、レース中の平均速度も300キロを越える。このスピードが日本人にとっては厄介なのだ。
現在、日本人で唯一インディ500に参戦している佐藤はF1で3位入賞経験を持つ。それだけの腕を持ってしてもオーバルコースのドライビングは容易ではないという。
「オーバルを走ったことのないドライバーは、まず一定のルールに沿ってオーバルを走る練習をするんです」
元F1ドライバーだからといって、この練習が免除されることはない。ルーキーオリエンテーションとしてオーバル未経験者には必ず義務付けられているのだ。
佐藤によると初めてオーバルを走った後は、クルマを降りてすぐに真っ直ぐ立てなかったという。
「景色がものすごい勢いで後方に飛んでいくので緊張感がありました」
ちなみにインディ500のレース時間は3時間を越えることもある。
「(超高速走行の中で)3時間ずっと集中力を維持するのは不可能です。コースのどこかで休んでまた集中力を上げるという繰り返しが必要になる。だからストレートで体をリラックスさせて心拍数を下げる。そしてコーナーでまた集中するんです」
聞いているだけで、こちらの脈拍が速くなりそうだ。
インディジャパン復活の起爆剤の役割は佐藤琢磨
ところでF1、スポーツカーレースはどちらも年に一度、日本ラウンドが開催されている。鈴鹿サーキットの日本GPと富士スピードウェイの富士6時間耐久レースだ。
だが、インディ500を頂点とする年間戦インディカーシリーズの日本ラウンドは現在、開催されていない。
周知のように11年までは「インディジャパン」というレースがあった。場所は栃木県のツインリンクもてぎ。ここには日本で唯一のアメリカンスタイルのオーバルコースがあり、毎年決勝には7万人前後のファンが集結した。
5年前、このインディカーの聖地を東日本大震災が襲った。オーバルコースには亀裂が入り、現在も修復されていない。
インディジャパン復活のためにはコースの復旧が急務である。そのためには草の根レベルでの盛り上がりが必要不可欠だ。起爆剤の役割を果たせるとしたら、現時点では佐藤しかいない。
彼は11年のインディジャパンを前にこう語っていた。
「たくさんの人の応援の中で走れるのは幸せなこと。ファンとの距離も近くて雰囲気も素晴らしい。インディカーの持つエキサイティングなエネルギーを日本に注入したいと思っています」
世界中が注目する節目の大会。インパクトのある佐藤の走りに期待がかかる。(文中敬称略)
(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。
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