少子化社会の日本では、私学経営は「冬の時代」といわれている。しかしそんな逆境をものともせず、新しいチャレンジで次代を切り拓こうとしている明泉学園が経営する鶴川女子短期大学には、開学の精神が源となって誕生した、独自のメソッドがあった。
隈研吾氏設計の新校舎で国際乳幼児教育に挑む
開学50周年を迎えた鶴川女子短期大学は、現代日本建築の第一人者・隈研吾氏設計の新校舎を建設中だ。開学以来数多くの乳幼児教育・保育の現場に優秀な人材を輩出してきた同校の新校舎は次代の日本の乳幼児教育・保育を支える人材育成の場に相応しい意匠が凝らされている。
「今の日本の大学の校舎は、大学と学部の看板を付け替えてしまっても通用するくらい個性がありません。建築中の新校舎は、誰が見ても『乳幼児教育』を学ぶ場であることがひと目で分かる校舎になります」
そう話すのは同校の母体である、「学校法人明泉学園」の百瀬義貴常務理事だ。新校舎は隈氏の特徴でもある木材が多用されたデザインが見て取れる。まさに「乳幼児教育の学校」を感じられる遊び心と温かさが溢れていた。
「少子化社会の日本で、乳幼児教育専門の短期大学が新校舎建築という投資をするのは無謀と見る向きもあるでしょう。しかし、私たちにはこの新校舎とともに前に進めたい大きな試みがあるのです」
乳幼児教育・保育の現場で、大きな課題だと社会が認識しているのが待機児童問題だが、ほかにも課題が水面下に潜んでいる。それが、外国人の子どもへの対応だという。深刻な人手不足を受けて政府は、これまで専門職に限定していた外国人労働者の受け入れを、単純労働者の領域にまで広げる閣議決定をした。これから先50万人超の外国人労働者が日本で働く時代が訪れる。日本で家庭を持ち、出産する外国人も増えるに違いない。しかし、その外国人の子どもたちを受け入れる環境整備の充実はこれからの課題である。
「さまざまな国の子どもの最善の利益を保障するためには、他国の文化や保育を学ぶ授業を組み込む必要があります。そこで本学は2017年に『国際こども教育コース』と『国際こども教育専攻』という専攻科を新設しました」
この1年課程の専攻科が、国際乳幼児教育の要となる。国が定める保育士課程や教職課程には多文化や国際化に対応する教科目が含まれていない。教育基本法などの法律を遵守する中で、専攻科は自由なカリキュラムが運用できる面があり、語学だけでなく、国際こども教育概論、異文化間心理学など他の教育機関では学ぶことができない領域を学ぶ。これが将来、外国人の子どもと接することになったときに必ず活きる。
専攻科は短期大学を卒業した後に進学することも可能だが、社会に出た人でも働きながら学ぶこともできるので、同校卒業生のキャリアアップ支援という一面も持ち合わせている。専攻科新設は、同校OGと、現場に出た保育者たちとの学び合いの場にする狙いもあるのだという。
他者を尊重・受容する精神が関わるすべての人を育てる
国際乳幼児教育で基本となる、他国の文化や人を尊重し受容するという考えは、建学の精神の基幹をなした『愛の教育』である。人格形成期の乳幼児教育の重要性は誰しもが認めるところ。子どもたちと接する際に必要なのが愛情である。
「本学は入学してきた学生自身を肯定することから始めます。子どもの頃からの競争社会の中、周囲から否定され続けてきたことで、自信と意欲を失っている学生が多い。『認められていない=愛されていない』と同義です。自分が認められることで愛されていることを実感し、神の愛に気づくことで、初めて他者を認めて尊重し愛することができます。本学では注がれた愛情が足りていない学生に対して、『これでもか』というほど愛情溢れた手厚い教育を施しています」
同校は、大学では珍しい担任制を敷いている。担任は学生全員と連絡先を交換し、時を選ばずに親身に相談に応じている。また、これまでの自己否定の原因の一つに点数に基づく評価制度がある。そこで、高校までの学校教育とは対局にあるカリキュラムを導入。それが五感を磨く学びの場だ。大自然の中で過ごすことで、自然の音、香り、手触りなど、これまで意識したことがなかった感覚を養い、新しい気づきを得る、というものだ。乳幼児教育の現場でよく言われる『五感を大切に』も、未経験では教えることができない。この経験は、将来の教育・保育の現場で必ず活きる。点数を競わない五感を養う教育を通して、自らを認めると同時に他者も認め尊重する考え方も自然と身に付くようになる。
このように学生たちに愛情を注ぐために欠かせないことがある。それは教員、運営スタッフとも信頼と愛情で結び付いていることだ。
「育成方針は、『夢への共感』と『夢の共有』です。そして私は部下の職員や先生方を信頼し、任せたときは完全に委ねています。そして彼らも私の信頼に応えるために、真心を尽くして頑張ってくれます。学内の人間関係がこの教育のベースになっているのです」
ここにも、愛を中心に置く建学の精神が息づいている。日本の長寿企業のほとんどは、創業時の志を守りながら時代の変化に対応してきた。その例に合致する明泉学園には、持続的に発展を遂げる素地が十分に備わっている。
「日本の保育士資格を取得する外国人留学生も出始めています。本学の学びを活かして母国の子どもたちに愛を注ぐ卒業生もこれからますます増えるでしょう。本学は国際乳幼児教育のフロントランナーとして、次代を牽引していきます」
[会社概要]
創立 1960年
所在地/東京都町田市
事業内容/鶴川女子短期大学、鶴川高等学校、鶴川幼稚園、鶴川フェリシア保育園などを運営
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