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ICUから生還した医師が証言 「新型コロナ情報は間違いばかり」

辻 直樹 辻クリニック院長

辻 直樹 辻クリニック院長

一向に沈静化しない新型コロナウイルス。辻クリニック(東京・麹町)の辻直樹院長は、昨年末、新型コロナに感染し、一時はICUで治療するほど症状が悪化した。幸い、1週間ほどで危機は脱したが、身をもってコロナの恐ろしさを経験した。それと同時に、世の中で広まっているコロナ関連の情報に多くの間違いがあることに気づいたという。それは何か。辻院長に語ってもらった。聞き手=関 慎夫(『経済界』2021年4月号より加筆・転載)

辻 直樹 辻クリニック院長プロフィール

辻 直樹 辻クリニック院長
(つじ・なおき)医療法人社団医献会理事長、辻クリニック院長。1965年生まれ。獨協医科大学医学部卒。スポーツ選手の栄養・ホルモン・運動生理学に携わる一方で、エイジングをコントロールするための総合医療について独自に研究を積み重ねてきた。

PCR検査への疑問

―― 昨年末に新型コロナウイルスに感染したそうですね。

 医療従事者は非常に感染リスクが高く、しかもCOVID?19は潜伏期間が1日から14日までまちまちなので、厳密にはどの段階で感染したのかは分かりません。でも昨年末、倦怠感があったので一度診察を休んで、自分で熱や呼吸をチェック、その上でPCR検査を受けましたが、結果は陰性でした。

 しかし体調は回復しないため、もう一度検査したら今度は陽性となりましたが、保健所からは自宅待機を指示されました。私は医師ですから、自分の病状が分かります。自宅待機中、さらに悪化したために再度、保健所と交渉し入院が決まりました。そうしたところ、翌日にはICUで人工呼吸器をつけられるほど悪化、危うく三途の川をわたるところでした。幸い、1週間ほどで回復しはじめ、退院し仕事も再開しましたが、今でも右肺の半分は機能が低下しています。

―― かなり危なかったのですね。でも、感染したからこそ分かったこともあったのではないですか。

 そのとおりです。新型コロナについては、さまざまな情報が氾濫しています。でも経験して分かったのは、その多くが間違っているということです。

 例えば、PCR検査です。よく、日本ではPCR検査が足りないといいます。海外のようにいつでも誰でも検査できるよう体制を整えるべきだと。でも私は疑問です。なぜなら、私もそうだったように、感染していても陰性となる偽陰性が3割ほど出るからです。これが感染者にとっての免罪符になってしまいます。若い人は感染しても症状が出ないケースが非常に多い。その人たちがPCR検査で偽陰性だった場合、自分は陰性だと思って飲みに行ったり遊びに行ってしまう。それが感染拡大につながります。

 年末年始に帰省した人の中にも、PCR検査を受けた人は多いと思います。そこで陰性が出れば、ほとんどの人は自分が故郷でウイルスをうつす心配はないと考えます。でも3割の人は本当は感染しています。今年に入って、感染者が拡大、しかも東京だけでなく全国で増えたのは、偽陰性の人たちが移動したからだと思います。

新型コロナの感染力はインフルとは桁違い

―― インフルエンザでも毎年3千人、関連死を含めれば毎年1万人近くの人が亡くなっているのだから、コロナをそれほど恐れる必要はないという人もいます。

 比較の仕方が間違っています。1年前まで、ほとんどの人は出掛ける時にマスクはしていないし、手洗いだってそれほど熱心にはやっていませんでした。ましてや3密という言葉もなかった。ところが今はみな、それをやっています。それでも感染拡大が止まらない。もしマスク・手洗い・3密回避をやっていなかったら、感染者の数ははるかに多く、それに伴い亡くなる人も多くなったはずです。ですから新型コロナウイルスの伝播力と感染力はインフルエンザとは桁違いです。

―― 辻院長も最初は自宅待機だったそうですが、病床が逼迫しているため、感染が分かっても、それほど症状が重くない場合は自宅待機になるケースが多いようです。ところが最近、自宅で病状が急速に悪化し、亡くなるケースも増えています。どうすれば防ぐことができますか。

 それが新型コロナの怖いところです。あっという間に病状が悪化してしまいます。一般の肺炎やインフルエンザによる肺炎の場合、症状は徐々に進行していきます。だけど新型コロナは違います。

 私の場合、入院する時は自分でキャリーバッグを引っ張って病院に行ったのに、翌日にはICUに入り人工呼吸器をつけなければならないほど悪化しました。それでも私は医師として自分の体を客観的に見ることができたから、悪化に気づき、保健所と交渉して入院することができましたが、一般の人にはむずかしいかもしれません。「ハッピーハイポキシア」といって、肺炎になり、血中酸素濃度も低下しているのに、息苦しさを感じない人も多くいます。

パルスオキシメーター使用時に深呼吸は厳禁

―― 自分で気づく方法を教えてください。

 肺炎で問題なのは酸素濃度の低下です。自覚症状は関係ありません。それに人間の体は、どこかおかしくなってもほかの部分がカバーしようとします。だからなかなか気づかない。ただし、呼吸の回数が多くなったり、ウォーキングや話をした時にいつもより少し息があがっているという変化によって、病状の悪化に気づくこともあります。そのためには自分の体の声を冷静に聞くことです。

―― パルスオキシメーターによって血中濃度を計ればすぐ分かるのではないですか。

 ところが多くの人が使い方を間違えています。パルスオキシメーターは通常時の酸素濃度を計るものです。でも多くの人が深呼吸をしてから計っているため、実際の酸素濃度より高めに出てしまいます。ですから、本当の体の状態を知りたいなら、絶対に深呼吸をしてはいけません。

―― 新型コロナの特徴は、若い人は症状が軽く、年配者や持病を持った人ほど重篤になることです。

 免疫細胞も老化します。老化するとレスポンスが悪くなる。どういうことかというと、若い人なら、ウイルスが体の中に入ってそれほど増殖していない段階で免疫が働くのに対し、老化すると、ウイルスが増殖してからやっと免疫が働くようになる。だから病状が悪化しやすいし、戦いも長引きます。

免疫力を付けるにはどうするか

―― どうすれば、免疫力をつけることができますか。

 「基礎疾患をなくし、体力を上げること」に尽きます。
 「新型コロナが怖い」と言うのであれば、普段から飲みたいものを飲み、食べたいものを食べて生活習慣病になってはいけません。薬を飲んでいるから大丈夫というかもしれませんが、薬を飲んで数値を正常に戻している人と、本当に健康な人は似て非なるものです。薬を飲んで正常化しているのは、会社で言えば粉飾決算です。このクリニックには経営者の方が多く来られますから、こう言うとだいたい分かってくれます。

 ですから、生活習慣病になってからでは遅いわけです。常日頃から数値を正常の範囲に抑えておけば、今度の新型コロナのような未知のウイルスが入ってきても、きちんと向き合うことができます。

 そのため、これをきっかけに生活様式を改める人が増えれば、新型コロナにも少しは意味があったということになるかもしれません。