経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

自己・企業・社会の変革 パッションで大事を成す―A.T. カーニー

関灘 茂・A.T. カーニー代表取締役


1926年に米シカゴで設立された経営コンサルティング会社のA.T.カーニー。社内外の「尖った個」と連携し、クライアント企業の新規事業創造と既存事業変革に注力。次世代のリーダーと経営陣の輩出に取り組む。

関灘 茂・A.T. カーニー代表取締役 シニアパートナープロフィール

関灘 茂・A.T. カーニー代表取締役
(せきなだ・しげる)──兵庫県神戸市生まれ。神戸大学経営学部卒業後、A.T. カーニーに入社。2014年にパートナーに就任後、20年に38歳で同社日本法人代表に就任。INSEAD(欧州経営大学院)MAP修了。専門はイノベーション、マーケティング、創造と変革のリーダーの育成。

方向性の明確化がコロナ禍のDX導入のカギ

── コロナ禍でDXにはどのような影響がありましたか。

関灘 コロナ禍前からDX関連の取り組みが社内に乱立し、数多くのPoC(新しい商品が実現可能かどうかを見極めるための技術的検証)を実行する企業が散見されました。数年にわたるPoCの結果、新たな商品やサービスを投入できたものの、成果につながらない企業も目立ちます。そもそもDXの目的を具体化できていないままに、DXという「手段」の実験を繰り返している企業の根本原因は、経営陣による知の探索の不足にあると言わざるを得ません。

 一方で、社内外の〝尖った個〟の話に謙虚に耳を傾け、DXの目的と方向性を自身の言葉で定義できるトップが率いる企業もあります。これらの企業ではコロナ禍での顧客の購買行動や、求める体験の変化に迅速に対応し、DXの成果を増大させています。また、コロナ禍以前に比べて、パーパスやESG、SDGsやウェルビーイングの観点も踏まえたビジョンと戦略の再考に立ち返り、DXの方向性や優先順位の見直しを進める企業が増えています。

── DXを活用して成果を出すには優秀なデジタル人材が欠かせませんが、日本の伝統的な企業文化との摩擦も少なからずあります。 

関灘 DXの目的と方向性の具体化が最も重要ですが、当社では、DX1・0を既存事業のボトムライン改善、DX2・0を既存事業のトップライン改善、DX3・0を新規事業の創造とイノベーションと大きく分類しています。それぞれのDXテーマごとに必要な人材は異なります。大胆なDXの方向性を定めると、DX成功に必要な人材と、社内人材の質と量のギャップが大きくなります。このギャップを見誤ることなく、社外からDX人材を吸引できている企業は、単なるDXのビジョンではなく、デジタル時代に即した経営ビジョンの発信ができています。「経営ビジョンを実現するための手段としてのDXの目的や方向性の明確化」「DXへの投資金額の開示による本気度の発信」「DX人材を吸引するための人事評価制度や報酬体系の再設計」「責任権限や意思決定のあり方などを含めた組織文化の変革」などを並行して進めています。

 また、経営視点からDXを俯瞰しながらDX1・0~3・0のさまざまなDXテーマの進捗管理と軌道修正ができるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)人材も確保しなければ、DX実現のスピードは高まりません。社内人材の抜擢、社外人材の採用、外部戦力の活用を組み合わせて適材適所を実現し、いくつかのDXテーマで成果を生み出す過程でスピードを重視した企業文化を形作る必要があります。

── 業界全体でIT・デジタル関連の実行支援、業務受託型のコンサルティング案件が増えています。

関灘 IT関連の業務を担える人材を十分に確保できていない企業が多く、業務を外部に委託している企業が散見されます。デジタル関連機能を適切に内製化できておらず、外部への依存度が高まり、ITシステムやデジタル関連の取り組みがブラックボックス化している企業もあります。また外部への委託費用が成果に見合っておらず割高になっている企業からも、DXテーマの取捨選択、デジタル関連機能の内外製の見直し、内製化による機能強化、外部委託先の切り替えや費用最適化などの支援をご依頼いただくことが増えています。

溢れ出すパッションが組織の可能性を解き放つ

── 今、改めてコンサルタントに求められていることは何ですか。

関灘 パッションが重要です。企業の収益の柱となるような新規事業創造や本質的な既存事業変革は、簡単ではありません。筋の良い創造と変革プランの策定、「目に見える成果」につなげる試行錯誤、オペレーションへの落とし込みには多岐にわたる知識と経験が求められます。ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの領域を越境し、俯瞰的かつ統合的にプランを組み立て、各領域のエキスパートと共に実行し、成果を生み出す必要がある場合にこそ、コンサルタントの力量が求められます。これに応えるには、溢れ出るようなパッションに裏打ちされた知の探索、それらを通じた高い視座や社内外の〝尖った個〟からなるネットワークが必要になります。

── 入社時と現在では価値観、使命感にどのような変化がありますか。

関灘 日本企業と社会の 〝可能性を解き放つ〟ことに貢献したいという想いは変わりません。平成の間に、多くの経営者も、従業員の皆さんも、経営コンサルタントも、創造と変革に挑戦しなかったわけではないと思います。しかし多くの日本企業は、世界に向けた価値創造と提供、その結果としての時価総額の成長という観点では、米国や中国をはじめとした国々の企業に劣ります。2050年までには、多くの日本企業が変革を成し遂げ、世界に向けた価値創造を提供し、かつ、世界中の企業にとっての経営のロールモデルとなることに貢献していきます。

 また、「日本を変える、世界が変わる」という志を持つリーダーの人数が未来を決めると考えています。50年には、より良い日本企業、日本、そして世界を次世代にバトンタッチできるように、その時までに創造と変革のリーダーを2千人輩出する」という目標の達成に向けて着実に活動を積み上げていきます。

聞き手=金本景介 写真=西畑孝則